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2022.4.14

僕がイタリア料理の仕事を始める時、どこのお店で働くのが良いかまったくわからずに、ある人の紹介で一軒のレストランに食べに行った。

それまでイタリア料理がどんなものなのか、イタリアがどういう国なのか、そもそもレストランなんてほとんど食べに行ったことも無くて全く無知な自分がその時どれくらいのモノを吸収できたかわからない。

頼んだコースもパスタランチで一番軽いコース。今自分が当時の僕を見たら、本気で料理を学ぼうとする姿勢もこのお店で働きたいという気概もまったく感じられない。

それでもその時食べたパスタは今でも覚えてるくらい感動した。そのお店のシェフみたいになりたいと強く思った。
その場で働きたいと願い出たけれど、その時はご縁がなくてそこで働くことは出来なかった。ただそのシェフに別のお店を紹介してもらい、そのお店で僕のキャリアは始まった。

ただそのシェフとのご縁はその後も続いて、働いてたお店の定休日には厨房に入らせてもらって勉強させてもらったり、いろいろ食材の視察にも連れて行ってくれた。料理人としての心構え、生き方、食材の知識、イタリアのこと、たくさんのことをシェフから学んだ。

何かと自分のことも気にしてくれていて、何かある度に色々相談に乗ってくれたし、独立後にわざわざ石川県にも食べに来てくれた。

そのシェフが一年半前交通事故に遭い、お店を閉めていたことを知った。何度も手術を重ねようやく退院できたそうだが、身体は不自由なままらしく、味覚や嗅覚も戻っていないとのこと。

命があって良かったという想いと、お店が閉まってしまったという残念な想い。2つが混じり合って本当に複雑な気持ちになる。自分がシェフの立場だと考えると、とてもじゃないが居た堪れない。

シェフに対して自分に何が出来るかわからないけれど、僕は目の前の仕事に改めて全力で向かおうと思った。ゲストや家族の為ではなく、誰かの為に全力で良い料理を作ろうと思ったのは初めてかもしれない。これからシェフに恩返しをする為にも、より良い料理を作り続けていきたいと強く思う。

2022.4.14

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