22歳男性、初めて東京へ行く(2024.7)

二日目。
仕事が終わり、一度ホテルに戻る。
この日は室内でゆっくり過ごそうと思っていたが、ビジネスホテルは居心地が悪すぎた。室内が臭い。喫煙室を取ったせいだが、禁煙室だとそれはそれで、室内で煙草を吸えないことに居心地の悪さを感じていただろう。着替えて、駅へ向かった。
東京駅で降りる。ホームを出ると、今まで見たことのない景色が広がっていた。
綺麗すぎる高層ビルが立ち並ぶ。どのビルも、もしかしたら大阪や神戸を探せば、ひとつくらいは似たようなものが見つかる。しかし、どの方角を見ても綺麗なビルがびっしり。その綺麗さはまるで入学式のランドセルのよう。もしくは買い替えたてのiPhoneのよう。全てが一か月前に建ったといっても納得してしまうほどにピカピカだ。
駅を背にすると、ビルとビルの間から皇居の外堀が臨める。
真上を向かなくても空が見えるその方向に私は歩き出した。そこに向かえばやっと呼吸ができるんじゃないかと本能が感じたのだろうか。
東京駅の海で息継ぎをしにいく最中、ウェディングドレスに身を包んだ女性と、スーツを着た男性と、カメラを持つ人物の群れを何度も見た。
東京駅を背景に結婚写真を撮る、幸せを道なりに進んだ人間とは逆の方向へ歩いて、皇居の前にある大きな道路に面した。google mapを開くと、現在地の近くに「有楽町」という文字が見えた。有楽町と言えばオールナイトニッポン。ニッポン放送本社がある場所だ。あ、東京駅からすぐそこにニッポン放送ってあるんだ。また新たな位置関係をインプットする。
いつかYouTubeで見たことのある駐車場を通り、ぐるっと回って入口で写真を撮った。ラジオの放送局でも、音声の媒体を取り扱う場所でも、その写真は私にとってテンションが上がる一枚となった。

ニッポン放送から横断歩道を渡り、皇居に沿って歩く。
皇居ランをする人たちが、続々と私を追い抜いていく。皇居ウォークをしている人たちをゆっくり追い抜きながら、持ち前の歩行速度で前に進む。
国会議事堂が視界に入ってきた。真っ白に光る議事堂を横目に、警視庁に目をやる。テレビでよく見た外観だ。私はそれを見て、数ある刑事ドラマの中から、はじめにSPECを思い浮かべた。テレビっ子ではあったが、刑事ドラマはそれくらいしか見たことがないのだ。あとデカワンコくらい。あとMIU404とか。何にせよ、テレビ朝日系列で長い人気を誇る刑事ドラマ達は見たことがない。だとしても、警視庁を見て「うわあ、本物だあ」と言えるくらいには、あの場所は象徴化している。
入口を覗く。日が沈んだ頃に出ていくスーツ姿の人々に「お疲れ様です」と暗唱しながら、入口前に立つ制服警官に目が行く。長い棍棒を持っていた。
議事堂をもっと間近で拝むため、警視庁に沿って歩くと、ところどころに現れる出入口にも、棍棒を持つ警官が立っていた。警視庁の警備、厳重すぎる。さすが日本の警察の総本山なだけある。真っ黒な格好で歩いていたし、他にその辺を通行する者がいなかったため、変な疑いをかけられないかと怯えながらも歩を進めた。

議事堂の前にある交差点から、眩しいほどライトアップされた国会議事堂を眺めた。深夜尿意に起こされたときのトイレを思い出すほど眩しく光っている。
私ははじめに、ここが20世紀少年で爆破されたのか…と思った。私は政治に明るくない。ただのテレビ好き(だった者)のため、そのくらいミーハーな感想を抱いた後、警視庁沿いに曲がった。

google mapを開きながら、次の目的地を定める。
東京タワーには行きたかったが、思ったより遠い。始めは皇居の縁からてっぺんが拝めたため、歩いてでも大丈夫じゃないか?と思っていたが、スマホという便利な機械が、東京はそこまで甘くないということを教えてくれた。
赤坂が近かったが(といっても東京タワーとそこまで変わらなかったが)、昨日の疲れも残っていたため、近くで晩御飯を食べて帰ることにした。赤坂サカスやオールスター感謝祭の赤坂5丁目ミニマラソンでおなじみの心臓破りの坂を見てみたいという望みを噛み砕き、ご飯屋を調べる。

ここで、東京に行ったことがない方へ耳寄りな情報を一つ。
霞が関に晩御飯を食べに行くのは間違っている。
google mapで調べても、全然ピンが刺さらない。東京駅周辺ならまだあると思うが、警視庁や国会議事堂の周辺は晩飯を提供する店が全くない。
新宿が眠らない街なのだとすれば、東京はしっかり眠る街だ。寝息すら聞こえる。それくらい静かだった。

閑話休題、私はテレビやラジオでよく聴くそばチェーン店を思い出した。
「ゆで太郎」と検索欄に入力したが、最寄りのゆで太郎がかなり遠かったため、そばチェーン店について調べた。確か、もう一つあったはずなのだ。テレビやラジオでよく聴くそばチェーンが。
「東京に多いそばチェーン店ランキング」なるサイトを開き、スクロールする。
第1位はやはりゆで太郎。私は3位の「名代富士そば」という文字列を見て、ピンときた。多分これだ。よく聴いたやつだ。
google mapの検索欄に入力すると、結構近くにあった。すぐさま向かい、私はそこで、東京で目一杯働いた私よりも年齢が一回り上であろう男性たちと肩を並べ、そばを食べた。
ちなみに2位は箱根そばだった。今思い返すと、3位の名称にピンと来た理由はもしかしたら、全然地元にもあるからかもしれない。

腹を満たした後、最寄りの駅となる新橋へ向かった。
自己防衛おじさんでおなじみのSLを見物し、JRに乗ってホテルへ帰った。
なんだかんだ、この5日間で一番心が弾んでいたのはこの日だったと思う。


続?

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