創作「A,B,C の問題」⑤

1.九か月前
C「聞いたよ。Bから」
A「ああ、そう。付き合ったんだよ」
C「やっぱ両想いだったんだな。よかったよかった」
A「そういえば、聞きたいことがあるんだ」
C「何?プレゼントの相談か?」
A「残念ながらそういうんじゃない。俺の元カノの話だ」
C「ああ、それか」
A「なんであんな嘘ついたんだ?」
C「嘘?」
A「俺の彼女、ラブホテルなんて行ったことないって言ってたんだよ」
C「でも、浮気はしてたんだろ?」
A「それもちょっと違う。俺、『他に好きな人ができた』って言ってフラれたんだよ」
C「うん」
A「その時に訊いたけど、『好きな人はできたけど、その人とデートに行ったりとか、Aに浮気だと思われるようなことは何もしてない』って言ってたんだ」
C「へえ」
A「なんであんな嘘ついたんだ?」
C「それは、単純に見間違えたんだな。俺が」
A「はあ?」
C「俺、あの時言ったじゃん。俺の勘違いだった可能性もあるって。そっちだったんだろ」
A「おい、そんなんじゃ解決できない問題だろ、これは。俺は恋人と関係を絶ってるんだぞ」
C「でも、その彼女と別れた結果、今Bと付き合えてるわけだろ?」
A「でも、お前の変な告げ口が無かったらまだ付き合ってた可能性もある」
C「いやいや。元カノは、他に好きな人がいるって言って去ってったんだろ。別れるのは時間の問題だよ。それに、こう言っちゃなんだが、元カノとB、どっちの方が可愛い?」
A「...Bだな」
C「元カノと関係が続いてる状態と、Bと付き合えてる現状なら、どっちが良い?」
A「それは、後者だよ」
C「なら、よかったんじゃないのか?むしろ俺を称えてくれてもいいと思うけどな」
A「...まあ、納得しておく。ありがたいよ」
C「どういたしまして。ちなみに、今の彼女は?好きなのか?」
A「大好き」


2.一週間前
A「どういうつもりだ?」
C「何が?」
A「分かるだろ。俺の彼女の話だよ」
C「ああ、Bのこと。結局、どうなった?別れたのか?」
A「お前は俺の友達か?」
C「ん?どういうことだ?」
A「友達なら、何で恋人との関係を絶たせようと工作するんだ?」
C「おいおい、そんなに怒ることじゃないだろ。本当に別れたわけでもないんだから」
A「お前がそんな奴だったとはな。思えば、元カノの時もお前は変だった。変な嘘をついて、別れさせようとした」
C「違う。それは俺が単純に見間違えただけだ」
A「もうだめだ。お前とはこれでさよならだ」
C「ちょっと待ってくれ」


3.一年二週間前
D「久しぶりだね」
C「そうだな。ごめんな、全然こっち来れなくて」
D「全然。どう?最近は」
C「好調、と言いたいけど。やっぱりバイト辞めなきゃ良かったよ」
D「そっか。でも大学が忙しいんでしょ?しょうがないよ」
C「まあ、そうなんだけど。そんなことよりさ」
D「ん?何?」
C「別れよう」
D「え、どうして?」
C「こないだサプライズで会おうと思ってこっち来てたんだ。そのときに見たんだよ」
D「何を?」
C「お前が、男と歩いてるとこ。夜のホテル街で。もう、言い訳できないよな?」
D「...そうだね。本当にごめんなさい」
C「だから言ったのに。お前もAも、本当に馬鹿だよな。まあ、俺も馬鹿なんだけどさ」
D「私、あの時は本当に」
C「関係ないよ。大事なのは今。過去でも未来でもない今だ。お前は今、大学の同級生か誰かと浮気をして、俺と別れそうになっている。そして、別れるんだ」
D「...どうしたら、見逃してくれる?」
C「どうするもこうするもない。俺は自分が見聞きした事実だけを頼りに、判断し行動するだけだ」
D「...そうだよね。Cはずっとそうだった。そういうところが好きだし、だけど、大っ嫌い」
C「褒め言葉として受け取っておくよ」


4.一週間前
A「そうだったんだな。それに関しては全部俺のせいだ。Bは勿論、Dも全く悪くない。お前らを繋ぎとめたのは、他でもない俺のエゴだ。申し訳ない」
C「謝らなくていい。結局は俺とDの問題だ」
A「つまり、お前はその腹いせに、嘘をついたのか?」
C「違う。それはまた別の理由だ」


5.二年一か月前
B「それで、ここから本題なんですけど」
C「え?」
B「Aさんって今、彼女とかいるんですか?」
C「ああ、確か、いるって言ってたよ。同じバンドのメンバーと付き合ったって」
B「ああ、そうなんですか」
C「何?もしかして?」
B「そうです。この前、バイト仲間の受験生が全員進路決まって、記念にみんなでご飯に行って。その時に」
C「ふーん。あ、そう」
B「...ごめんなさい」
C「なんで?謝らなくていいよ」
B「だって...」
C「昔のことは忘れたよ。Bも忘れてよ」
B「...ごめんなさい」
C「それで、どうするの?諦めるの?」
B「それはないですよ」
C「あっそう。じゃあいつ伝えるの?」
B「文化祭くらいになると思います。そのころにはだいぶ親睦も深くなってると思いますし」
C「何言ってるんだよ。バイト仲間なんだからもう既に親睦は深いでしょ?」
B「そうでもないですよ。Aさん、Cさん辞めてから空気ですもん」


6.一週間前
A「言ってくれよ。ずっと好きだったんなら」
C「人の恋路を止められるほど、わがままな人間になれなかっただけだ。その頃は、俺も彼女がいたからな」
A「じゃあ、Bと付き合いたいから、まず俺と別れさせようとしたってとこか?」
C「...今思えば、馬鹿な嘘だと思うよ。本当に申し訳ない」
A「謝らないでくれ。嘘をついたお前の気持ちはよく分からないけど、好きな人への想いは、俺にも分かる。俺も想いを優先して行動するタチだから」
C「本当にすまない。もう、こんな奴と、友達でいたくないよな」
A「それは違うよ。お前はよく相談に乗ってくれた。俺のエゴで恋人との関係まで長続きさせてしまった。謝りたいのはこっちの方だ。頼むから、そんな理由で友達をやめるなんて言わないでくれ」
C「いや、これは俺のけじめだ。しばらく、俺と会うのをやめてほしいんだ」
A「どうしてそんなこと...」
C「けじめだよ。それ以外の理由はない」
A「断ったら?」
C「うーん。困るな。でもこれは俺のエゴでもある。なんとかして、会わずに過ごす方法を見つけるよ」
A「...仕方ないな。分かった。当分会うのを控えよう」
C「ありがとう」
A「でも、俺のけじめがまだついてない」

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