藤黄書房

暮らしのそばにあるお話。

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最近の記事

ちょっとそこまで

ちょっとそこまで。チャリン、チャリン。 自転車漕いで。チャリン、チャリン。 夏は暑く、冬は寒い。 そんな当たり前のことを当たり前に感じながら。 そんなに遠くまでは行かないから、スピード出なくても電動付きじゃなくても大丈夫。 自分の足でしっかり漕いで。 歩くよりは速いよ、チャリン、チャリン。 坂を上って下って、曲がり角をうねって。 やたらと信号に引っかかって、あたりを見渡して。 探しているものは見つからないけど、いろんなものがそこにはある。 いつもそこにあることが、いつも

    • 海と山どちらにしよう

      明日の休み、どこに行こうか。 あなたが行きたいところがいい。 君が行きたいところがいい。 ぼくは山に行きたくて。 君は海に行きたくて。 ぼくは海にも行きたくて、君は山にも行きたいと言う。 ここには、海も山もないから。 結論が出なさそうだから、とりあえず今晩なにを食べるか考えよう。 じゃあ、今夜は魚を食べよう。 じゃあ、きのこを添えよう。 でも、やっぱりお肉も食べたいよね。 牛?豚?鳥? ここには海も山もないからね。 鳥にしておこうか。 今日の晩ごはんは、ちょ

      • 先入観を持ってはいけないという先入観

        みんながカレーの話をするから。 もう完全に口がカレーモードに入ってしまった。 ココイチ美味いよね、なんて話をするから。 ちなみに私はソーセージカレーにトッピングで納豆。 ココイチ好きなら、納豆トッピングに否定的な意見は意外と少ないと思うんだ。 でもそうじゃない人もいる。 カレーに納豆?絶対に合わないって。 その人の好みだからまあいいけど。 みんなに納豆トッピングしてほしいわけじゃないけど。 でもその人は「絶対」を無駄遣いしたなとは思う。 カレーと納豆。 確かに最初は

        • ほろ酔いのときのように、ふわふわした答え

          君はそう言うけれど、ぼくはそうじゃないと思っている。 なんで好きになったかって? いつから好きかだって? そんなことは覚えちゃいないよ。 君にはそう言うけれど、ぼくはぼくで実は考えているんだ。 なんで好きになったのか。 いつから好きになったのか。 顔? 性格? 話しやすさ? 髪型? 雰囲気? 笑い方? 食べ方? 話し方? どれもが合っていて、どれもが決定的ではない。 どれかひとつではないし、どれかひとつでも欠けてもダメだ。 なんで好きになったのだろう。 きっと「きっ

        ちょっとそこまで

          ルート19②運送屋

          ここ数日降り続いていた雨は夜中に上がり、起きたらきれいな青空が広がっていた。 雨が降ると運転がしづらい。荷物を外に出すとき濡れないように気を遣う。やっと止んでくれたという安堵感と一緒に直子は熱いお茶を飲む。 「智之くーん…」 直子はバイトの智之を呼ぶ。直子と智之。従業員はふたりだけ。小さな運送屋だけど、直子の努力と苦労の結晶だ。 「なんすか?社長」 智之は店の奥からいつものように粗い返事をする。 「あの、あそこにまとめておいた荷物だけど…」 直子は湯呑みで手を温

          ルート19②運送屋

          3分の1より高確率でわかる君とぼくのこと

          噛めば噛むほど味が出る。 君はそういう人。 どこが? なんて自覚のない君は言う。 どこも。 ぼくはそう言う。具体的な例なんて、ありすぎてわからない。 スルメみたいなこと? 君は不服そうに言う。 スルメっていうより、ガムかな。 ぼくは棚からガムをひとつ取る。 これ、3つ入っている内のひとつだけが酸っぱいんだって。 懐かしい。買おうよ。 いいよ。 お店から出ると、すぐに封を開けた。 ひとつはぼく、ひとつは君。残りひとつはふたりともセーフだったらじゃんけんしよう。

          3分の1より高確率でわかる君とぼくのこと

          ひねくれ者は1周回る

          彼は私のことを「全部好き」と言ってくれる。 うれしいけれど、うれしくない。 だって、全部って…。なんか、やっつけ感が強くない? よくわからないから、これ言っとけ、みたいな。 だから今日はちゃんと聞くことにした。 私のどこが好きか、具体的に。 「ねえ、私のどこが好き?」 夕食を食べ終え、ソファに沈み込んでDVDを観ている彼に言う。 「全部好きだよ」 彼は画面を見つめたまま、言う。 「本当に?」 私は画面と彼のあいだに顔を覗き込ませて言う。 「ああ。見えな

          ひねくれ者は1周回る

          ただのひとりごと

          君は趣味をたくさん持っている。 時間が足りないと、いつも君は大忙し。 部屋にはいろんな道具が揃っている。 見たことあるものからないものまで。 君は夢をたくさん持っている。 どこまでが本当でどこまでが冗談なのか。 きっとどこまでも本当なのだろう。 寝ていても起きていても。 いつだって君は夢見ている。 君は好きなものがたくさんある。 世の中に嫌いなものなどないくらいに。 物も、そして人も。 君は誰にだって好意を抱いている。 君は誰からも好かれている。 俺もその内

          ただのひとりごと

          ポイントカードを作らない理由

          コーヒーやらなんやら買いに行くお店では、大抵ポイントカードを持っているか聞かれます。 「大丈夫です」 ぼくは、なるべくやんわり断ります。 ポイントカードって、作ったほうがお得なんですよね。 わかっているんです、本当は。 たまにしか行かないお店ならまだしも、週に1~2回は行っているわけですし。 店員さんもきっと、ぼくの顔を覚えているでしょう。 それでもぼくは、やんわりした雰囲気できっぱり断ります。 馴染みのお店はあまりないですが、以前毎日にように通っていたコンビニの店員

          ポイントカードを作らない理由

          欠片と明かりと、私と君

          仕事の関係で学生時代住んでいた町へと行った。 すっかり町並みは変わっていて、記憶の中とは違う町みたい。 それでも所々にあるのは記憶通りのもの。 居酒屋、牛丼屋、小さな服屋、ビル、会社、看板。 見るだけであの頃の記憶が蘇る。 仕事を終えると学生時代に住んでいたマンションを見に行った。 駅に行くには少し遠回りになるけれど、まだ存在しているのか確認したかった。 まだあった。 あの頃よりかはいくらか外観が汚れている。 そりゃそうだ。 あの頃から何年経っている。 雨も風も太陽も

          欠片と明かりと、私と君

          右見て左見て

          右からは悲しみが。 左からは喜びが。 どっちを先に見る? この道は繋がっているけれど。

          右見て左見て

          居場所

          みんなが仲良くなるのが無理なら。 隣に座ることくらい許してよ。 座る場所は限られているのだから。 あなたの色のまま。 私の色のまま。 混ざる必要はないし、手を繋ぐ必要もない。 ここにいることを、ただ知っていてくれたら、それでいい。

          正体不明

          こんにちは。 挨拶なんてしたことはない。 またきたよ。 嫌な顔をしても、嫌な言葉を吐き出しても、君にはなにも届かない。 捨てたはずなのに、捨てられない。 「もったいない」なんて、思っていないのに。 燃やしても埋めても粉々に砕いても、へっちゃら顔。 見ないように顔を背けても、そちらのほうに先回り。 見えないなにかで、つながっている。 見えない顔で、ぼくを見ている。 君は一体何者なんだ。 君は一体、どんな顔をしているんだ。 きっと、ぼくに似ているんだろうね。 それ

          やまびこ

          こんにちは。 こんにちは。 やまびこだって、もう少し返ってくる。 ありがとう。 ありがとう。 やまびこですら、もう少し返ってくる。

          足跡

          ふわふわ浮いている。 たしかに、ここに足跡はあるのに。 誰の足跡? ぼくの足跡? もっと大きな足跡がつくはずだったのに。 ふわふわ浮いている。 本当にぼくはここにいるの? ふわふわ浮いている。 足跡はあるのに、浮いている。 地に足つけて、立っているはずだったのに。

          ルート19①美容室

           広輔は床に散らばった髪の毛を見つめ、自分みたいなだな…、と呟く。  切り落とされた髪の毛は捨てられる。必要とされていない。邪魔者扱い……。  ほうきで髪の毛を集め、ちりとりへと流し込む。これで最後だと。  カラーン……。  ちりとりに髪の毛を入れ終わるとカウベルが鳴った。同時に冷たい風が店内に吹き込む。広輔はドアへと目をやる。そこにはひとりの女性が立っていた。 「あの…予約していないんですけど、いいですか?」  閉店時間ぎりぎりにきた女性は、ずぶ濡れだった。広輔

          ルート19①美容室