【第9回シンデレラガール総選挙】ボイスオーディションの分析と出口調査

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既にご存じの方が多いと思いますが、昨日、第9回シンデレラガール総選挙およびボイスオーディションの結果が発表されました。このnoteでは前回の記事で総選挙、ボイスオーディションそれぞれについて結果の予想を行いました。総選挙の方は、

1位北条加蓮、2位鷺沢文香、3位一ノ瀬志希を的中(加蓮が例年以上に2位と大差を付けること、文香と志希の出口調査からの逆転も含む)

神谷奈緒の初CD圏内入りを的中(予想は5位、実際は4位)

佐久間まゆの7位高垣楓の5位について予想が外れる

という形で、完全的中とはいかなかったものの、それなりに精度の高い予想が出来たと思います。一方でボイスオーディションの方は、当選者の顔ぶれこそピックアップした6人中に含まれていたものの、

・辻野あかりと同等に本命視していた浅利七海の落選

砂塚あきらの得票数の過小評価(実際はほぼあかりと同等の得票)

という点で、かなり信頼性の低い予想になってしまいました。この記事では同じ出口調査のデータをベースにしながら、なぜ総選挙側では精度の高い予想が可能であり、ボイスオーディションではそれが出来なったのかについて、改めて検討したいと思います。

出口調査による予想の仕組み

そもそも、どうすれば事前に選挙の順位を予想出来るのでしょうか。一番確実なのは実際の得票数を知ることですが、これは結果発表の段階までわかりません。そこで得票数と相関する何らかの指標を用いることを考えます。まず思い付くのは投票者数です。これは公職選挙では得票数と一致するはずですが、CG総選挙は1人が複数票を投じることが可能なので、あくまで相関関係にとどまります。しかしながらこの数字も運営のサーバーの中をのぞいたりするのでなければ、実際に観測することは不可能です。そこで母集団(投票者全体の集合)から、何らかの形で観測可能な標本(サンプル)を抽出する必要があります。よく使われるのは無作為抽出(ランダムサンプリング)という手法です。例えば公職選挙の出口調査では、実際に投票所に行った人の中から一定の割合で投票行動をアンケートによって尋ねることで、標本を抽出しています。これには調査対象とする投票所・投票区の選出や投票時間帯による投票者の傾向の変化といった問題があるため、理想的な無作為抽出ではありませんが、概ね妥当な手法とされています。一方でシンデレラガール総選挙では、投票者のうちで投票後に連携投票ツイートをツイッター上に投稿した人の数を集計することで、出口調査としています。まとめると、総選挙の出口調査は以下のような2段階の相関関係をもとにして得票数を推計していることになります。

・投票ツイート投稿者数 → 投票者数 → 実際の得票数

このうちまず後者の投票者数と得票数の相関関係についてですが、既に述べたようにCG総選挙は1人の持つ票数が固定していないので完全な比例関係にはなりません。とはいえ過去のデータから、担当P1人あたりの得票数(もっと大雑把に言うと課金力)が高い陣営とそうではない陣営があることは分かっており、その傾向は比較的安定しています。今回の選挙で言うと、加蓮の大勝、文香の出口調査からの逆転を予想出来たのはこの過去のデータに基づくものです。また楓の5位入賞も、加蓮、文香と同様の傾向を持つことから考えるとそこまで不自然ではありません。つまり、過去のデータから得られる傾向を考慮に入れれば、投票者数から得票数を推定することはそれなりの精度で可能であるということになります。

次に後者のツイート投稿者数と投票者数の相関関係についてです。カンのいい方は既にお気付きかもしれませんが、実はツイート投稿者数の集計は無作為抽出ではありません。というのもツイッターアカウントを持っていて、わざわざ投票ツイートを投稿するという自発的行動をした人だけを対象としているからです。結果として、全投票者(≒全ユーザー)という母集団に比べると、かなりアクティブなコアユーザー層が主体となって、標本として抽出されていることになります。しかしながら今回の総選挙側の出口調査は、このような標本の偏りがありながらも実際の得票数と十分に相関関係があったと言えそうです。それはなぜでしょうか。

まず第一に、総選挙では一番の担当(推し)に投票するという比較的単純な投票行動がメインであることが挙げられます。これはコアユーザーであっても、ライトユーザーを含む全ユーザーの集合であっても変わりません。そして全ユーザーの中で多くの担当Pを抱える傾向にあるアイドルは、コアユーザーである熱心な担当Pの数もそれに比例して多くなると基本的には考えられます。このため投稿ツイート投稿者の集合は、無作為な標本ではないものの母集団の特徴を表した良い標本であると言えそうです。

第二に、コアユーザーを中心に抽出することは、先述の1人あたりの得票数のバラつきの問題を自動的に補正することに繋がります。というのもコアユーザーほど投票数が多く、ライトユーザーであれば投票数が少なくなると考えられるからです。そのため投票者数という母集団と得票数との相関をそのまま考えると、実際は少ししか投票していないライトユーザーの票を過大に評価してしまうことになります。ツイート集計によってコアユーザー層を中心に抽出することによって、ユーザー間の票の重みの差をある程度反映することが出来ます。

なぜボイスオーディションでは出口調査の予測精度が落ちたのか

これまで、総選挙においてツイート集計による出口調査が得票数を推定するツールとして十分に機能する理由を説明してきました。今度は全く同じ仕組みを用いながら、なぜボイスオーディションの結果をうまく予測出来なかったかを考察します。

まずボイスオーディションでは、ほとんどの投票者は総選挙とは異なる複雑な投票行動を強いられています。モバマス6周年のアンケートでは、担当P数が多いアイドルトップ30はすべて既に声が付いるアイドルで占められています。この傾向はデレステではますます強くなっており、恐らく大多数のユーザーは声付きアイドルを主に担当していると思われます。つまりこれらのユーザーはボイスオーディションでは、単に担当(推し)に投票するという選択を出来ず、担当でない未ボイスアイドルの中から誰かを選択して投票しなければいけないということです。そしてその選択に際しては、次の3つの要素が関係していると思われます。

・知名度

・好感度

・有力候補が誰かなど、選挙情勢に関する情報

結論から言うと、これらの要素が出口調査で主に補足されるようなコアユーザー層とそれ以外のライトユーザー層の間で大きく乖離していたのではないか、というのが私の推測です。順番に説明していきましょう。

まず知名度という点ですが、ライトユーザー層においてはあかりとあきらの知名度が抜群ではないかと思います。これは新アイドル追加というトピック自体が非常に話題になったことに加え、同期で#ユニット名募集中というユニットを組む夢見りあむの言動が何かと注目されていること、未ボイスアイドルとしてはかなり短いスパンでSSR実装、イベント登場といった供給があったことなどが関係しています。一方でコアユーザー層においては、その他に有力候補とされていたアイドルについても知名度でそれほど劣っていたわけではありません。七海、つかさ、忍、沙理奈、マキノ、加奈などの有力候補はいずれもわかりやすい個性(お魚アイドル、JK社長、セクシーデリバリーなど)と過去の総選挙実績のどちらか、あるいは両方を持っているからです。

次に好感度についてですが、これは外面的なものと内面的なものに別れます。そしてライトユーザーはキャラクターの内面について詳しく知らないため、外面(ビジュアル)を重視するのではないか、という仮説を立てることが出来るでしょう。このビジュアルを中心とした好感度を調べるためのひとつの指標として、Pixivのイラスト投稿件数を用いてみます。それによると未ボイスアイドルの中でのイラスト投稿件数トップはあきらで、登場からわずか1年半足らずにも関わらず3000件近くのイラスト投稿数を誇ります。その他に2000件以上のイラスト投稿数があるのは七海、晶葉、紗南です。あかりはこの指標ではあきらに比べて少なく、現在1200件ほどです。つかさは500件台に留まっています。

一方、コアユーザー層の選好については人によって基準が千差万別であるため、飛び抜けて好感を持たれてるというアイドルを特定するのは難しいのではないかと思います。

最後の選挙情勢についてですが、そもそもライトユーザー層は積極的にそういった情報を収集せず、ある程度フラットな状態で自身にとっての知名度および好感度に基づいて投票対象を選定しているものと思われます。一方でコアユーザー層は、前年の選挙結果およびSNSなどでの活動などから有力候補を推定し、その中から投票対象を選ぶという行動を取ることが出来ます。今年でいうと前年の選挙順位が高かった忍、七海、沙理奈、マキノ、動画投稿が話題になったあかり、SNS上で活発に活動していたつかさなどです。あきらは選挙開始時の話題ではあかりに劣り、それほど有力視はされていませんでした。

以上のように、ボイスオーディションにおいては総選挙と異なりコアユーザーとライトユーザーの投票行動に大きな違いがあった可能性が高いです。その結果として、出口調査によるコアユーザー層中心のサンプリングから得られた標本が、ライトユーザー層を含む母集団の傾向と乖離した標本となってしまったのではないかというのが私の意見です。

ボイスオーディションにおける個別アイドルの分析

ここでは今までの考察を基にして、あきら、あかり、七海、つかさのそれぞれについてボイスオーディションでの出口調査のアカウント数と実際の得票数の関係について分析を試みます。

まずあきらについては、知名度とビジュアル好感度の両面において圧倒的に優位に立っています。一方で選挙開始時では話題性にやや乏しく、コアユーザーからの注目度はそれほどでもありません。このため特にライトユーザーを中心とする、デレステの無課金票を最も多く集めたと思われます。しかしこの層は投票ツイートの投稿などSNS上での活動にそれほど積極的でないためツイートが少なくなり、結果として出口調査で過小評価されてしまったのではないでしょうか。

一方、あかりはあきらと同じく高い知名度を背景にしてライト層の支持も得ていたと思われますが、ビジュアル面の訴求力ではあきらにやや遅れを取っています。その点を補うものとして、ニコニコ動画での「たべるんごのうた」関連動画の活発な投稿が挙げられます。この活動によって既存のコアユーザーおよび新規層の両方に支持を広げました。ニコニコ動画はツイッターなどのSNSと親和性が高いので、これによる投票者数の伸びはツイート集計に反映されやすく、あきらほど実際の得票数との乖離はありませんでした。また新規層の獲得の証拠としては、総選挙での高順位(35位)があります。これは総選挙側であかり以外の投票先がない(≒既存の声付きアイドルの担当ではない)、純粋なあかり担当Pが他の未ボイスアイドルより多くいるということであり、その中の一定数はたべるんごのうた経由で流入した層だと思われます。

七海はビジュアル的にはあきらに次ぐレベルで好感を持たれており、実際に選挙中のイラスト投稿も活発でした。しかしあかり・あきらとの知名度の差は大きく、ライトユーザー層からの票を両名ほどは獲得出来なかったのではなかったと思われます。そのためツイッターなどSNS上で積極的に活動することで、SNSをよく見るコアユーザー層の浮動票を取り込もうとしました。この浮動票の構成要素として重要なのは(そもそもライトユーザーが少なく古参の多い)モバマス側の無課金票であり、実際に去年のナターリアと梨沙の対決ではいわゆるスネーク祭りによる浮動票の獲得が勝敗を分けたと言われています。しかしながら今年のレギュレーションでは、デレステの無課金票およびモバマス・デレステ両方の課金票が大幅に増やされた一方で、モバマスの無課金票は据え置きとなったため、この層の票はSNSでの賑やかさほどは実際の影響力を持たなくなっていました。そのため、この層の意向が強く反映される出口調査では優勢に見えたにも関わらず、実際の得票数には期待されたほど結びつかなかったのではないかと思います。また総選挙側の順位を大幅に落としている(14位→50位)ため、あかりほどには新規層の開拓に成功しなかったと言えるでしょう。

つかさは知名度の点ではあきら・あかりに劣り、またビジュアル面でもポテンシャルはあるものの、イラスト投稿件数の増加といった形で広く認知はされていない状態です。このため、ライト層向けのアピールでは他の候補に遅れを取っている状態でした。一方で未ボイスアイドルとしては異例の限定2周目SSRが実装されたことから、運営から一定の集金力のあるアイドル(言い換えると、積極的に課金するようなコア層に対して訴求力のあるアイドル)とみなされていたことが窺えます。こちらの記事によると、今回のつかさ陣営の戦略はそういったつかさの現況を踏まえたものだったようです。すなわち、あかりや七海の陣営のように広く不特定多数に向けて発信するのではなく、総選挙上位陣を始めとする声付きアイドルの担当Pに対する個別のマーケティングを柱とした戦略です。これにより総選挙上位陣の担当Pが握っている、増強された課金票を掴むことに成功したのが勝因ではないかと思われます。こうした選挙活動はやはりSNS上で行われていたため、かなりの程度出口調査に反映されています。また課金票が中心の戦略ではひとり当たりの投票数が多くなるため、出口調査と実際の得票数との乖離は七海に比べると控えめでした。

まとめ

総選挙の出口調査は、総選挙における全投票者集合の標本として投票ツイート投稿者を集計することで、実際の得票数の予測に利用出来ます。これはツイッターなどSNSを活発に利用するようなコアユーザーを抽出するという傾向を持っていますが、総選挙ではコアユーザーとライトユーザーの投票行動にそれほど差がないため、母集団の良い標本として機能します。一方でボイスオーディションではコアユーザーとライトユーザーの投票行動が異なるため、ツイート集計によって得られた標本は母集合である全投票者集合と乖離していた可能性があります。具体的にはあまりツイッター上で活動をしないライトユーザーの票を掴んだあきらと、ツイッターを頻繁に利用するコアユーザーの票を掴んだ七海の両名は、特に出口調査と実際の得票数に差がありました。あかりはライトユーザー、ニコマスを愛好するコアユーザー、そして新規層の票をバランスよく取り込んだため、またつかさはひとり当たりの投票数が大きい課金票をメインターゲットにしたため、出口調査と実際の得票数にそこまで大幅な乖離がありませんでした。

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