2018/9/23 ゲノム医療薬剤師研修会


l セミナータイトル:ゲノム医療薬剤師研修会
l 主催者:国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED、エイメド)ゲノム創薬基盤推進研究事業A-3班
l フライヤー:http://genomicx.net/data/20180923.pdf
l 開催趣旨:ゲノム創薬基盤推進研究事業A課題(ゲノム創薬研究の推進に係る問題解決に関する研究)に基づき、現場薬剤師のゲノム医療に対する理解を深め、積極性関与を推進する。
l 参加者:全体約80名のうちがんゲノム医療中核拠点病院、がんゲノム医療連携病院に勤務する薬剤師が約9割

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「各講義タイトル」―講師
① 「ゲノム医療の全体像と国の施策」―厚労省 医薬衛生生活局 中井清人
② 「ゲノム医療の技術・方法論」―慶応義塾大学医学部ゲノム医療ユニット 西原 広史
③ 「ゲノム医療におけるバイオインフォマティックス」-岡山大学医歯薬総合研究科 富田 秀太
④ 「臨床遺伝と個人情報保護」-愛知県がんセンター中央病院リスク評価センター 井本 逸勢
⑤ 「ファーマコジェネティックスの基礎と実例」-滋賀医科大学病院薬剤部 寺田 智祐

以下、講義メモ

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① 「ゲノム医療の全体像と国の施策」―厚労省 医薬衛生生活局 中井清人
ü がん領域にて遺伝子変異の解明が最も進んでいるのは肺がん。
ü 患者数の多い肺がんですら、RET遺伝子(肺がん患者のうち変異を有する患者割合は2%、治療薬:Vandetanib)に関する開発をしてくれるメーカーを当初おらず、医師主導治験となった。(資料P8)
ü 変異を有する患者割合2%以下の遺伝子で、希少がんの場合、誰が治療開発するのか、非常に問題である(受講者の皆様宜しくお願い致します、という意味)。
ü 肺がん患者のうち、遺伝子変異が未知である患者は27%いる(資料P8)ため、現在エクソン解析のみであるが、イントロンの遺伝子変異が関与している可能性がある。そのため、ゲノム検査はコンパニオン診断に始まり、遺伝子パネル検査の流れになりつつあるが、その先には全ゲノム検査の時代が待っている。(資料P15)
ü 全ゲノム検査を実施するには、シークエンサー(解析機器)の性能向上が必要である。現在最高性能のNGS(ネックスゲノムシークエンサー)ではパネル検査は詳細に読めるが、全ゲノムは薄くしか読めない。
ü がんゲノム医療「中核拠点病院」として患者リクルートから治療、研究開発まで全て一貫して行える病院が選定された。がんゲノム医療「連携病院」は、シークエンス解析、結果原案の作成、専門家会議(診断結果の確定)の機能を中核拠点病院に外注し、患者リクルートと実際の治療は連携病院にて行うことを想定している(資料P17-18、病院一覧P20)
ü C-CAT(シーキャット、がんゲノム情報を蓄積するデータベース)にゲノム治療後の治療成績も蓄積し、診療や研究開発に利活用する。国立がん研究センターが管理する。
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②「ゲノム医療の技術・方法論」―慶応義塾大学医学部ゲノム医療ユニット 西原 広史
ü 「Precision Medicine」は2016年にオバマ政権が250億円の国家予算を組んだことを発端に注目されるようになった。
ü 「Precision Medicine」とは、「個々の患者の細胞イン電子を解析して、遺伝子学的背景から最も効果が期待できる治療法を選択して行う医療」と定義されているが、日本語では「精密医療」と訳されることがある。
ü 「ゲノムシークエンス」とは、ゲノムの構造を塩基配列(ATGC)を決定する解析を指す。
ü 「エクソン」とはゲノムにおいて遺伝情報がコードされている部分を指し、ゲノムの約1%を占める。現在、パネル検査を実施しているのはエクソン部分の変異である。
ü 「イントロン」とはゲノムにおいて遺伝情報がコードされていない部分を指し、ゲノムの大部分である99%(全ゲノムーエクソン=イントロン)を占める。
ü がん患者のうち、遺伝子変異が未知である患者はイントロンの遺伝子変異が関与している可能性があると言われている。
ü (P7)シークエンサーの種類と概要:現在、Illumina社のシークエンサーが台数ベースでシェア90%。
ü (P10-12)検体の準備:FFPE検体が主流。新鮮凍結法はレア。慶応大学病院の場合、準備は検査部で実施する。
ü (P15)遺伝子変異に関する国内外のデータベース:国内では「MGeND(エムジェンディー)」がAMEDの事業として整備されつつある。がんに限らず、全疾患に関する遺伝子情報を収集している。
ü (p16-19)ゲノム検査後、検査結果を解釈・確定させるためのカンファレンス:構成員、カンファレンスの流れ、カンファレンスシートのサンプル
ü (P21~)症例
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③「ゲノム医療におけるバイオインフォマティックス」-岡山大学医歯薬総合研究科 富田 秀太
ü 科学雑誌Natureの2013年の記事によると、7,042種類のがんより、約500万種類の遺伝子変異が見つかっている。
ü 1人のヒトの全ゲノムを解読すると、情報量として約3Gbある。そのうち、1%がエクソン部位とすると、エクソンだけでも30Mbある。
ü 遺伝子変異量を示す単位として「mut/Mb」(ミューテーション・パー・メガベース)が使用される。「1mut/Mb」とは「1Mb当たり1個遺伝子変異がある」という意味である。
ü 腫瘍遺伝子変異量(TMB: Tumor Mutation Burden)は10mut/Mb以上だと「高レベル」、10mut/Mb未満だと「低レベル」と一般に表現される。
ü がんの遺伝子変異には、塩基配列がおかしいM class(mutation class) 変異と遺伝子の数がおかしいC class(copy number class)変異がある。
ü パネル検査ではM class変異を検出している。
ü 個々の遺伝子変異に関する情報を網羅的に調査できる検索エンジンとして「GeneCards」がある。遺伝子に紐づく薬剤や体内情報伝達経路も検索できる。

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④「臨床遺伝と個人情報保護」-愛知県がんセンター中央病院リスク評価センター 井本 逸勢
ü 遺伝子検査の発展により、遺伝性のがんが見つかるようになり、がんの発見がその個人だけでなく血縁者にも影響を及ぼすようになった。
ü 現在、遺伝性がんの治療薬としてリムパーサ(販売はアストラゼネカ社、一般名:オラパリブ)がある。適応は現在、遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC、エイチボック)のみ。
ü HBOCは女優のアンジェリーナ・ジョリーが予防的手術を実施したことで話題になったがん種である。
ü お薬手帳にリムパーサが記載されているだけで、手帳の持ち主とその血縁者が遺伝性がんの遺伝子変異の保有者であることが分かってしまう。
ü 医学科や看護学科ですら臨床遺伝学のカリキュラムは元々存在しなかったため、薬剤師に限らず治療に関わる医療職ほぼ全てがゲノム治療に関する知識や経験を有していない状況である。そのため、遺伝診療の専門家による患者本人と家族のケア(遺伝カウンセリング)の必要性が今後高まる。

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⑤「ファーマコジェネティックスの基礎と実例」-滋賀医科大学病院薬剤部 寺田 智祐
ü 現在、遺伝子変異に紐づいていないがん化学療法も、著効する群、著効しない群に分けて検証をすると遺伝子多型が見つかる可能性がある。(ので、一層の臨床研究が必要である。)
ü 事前のゲノム検査により、効果のある治療法を選択することは、医療費の面でも、患者の身体的負担の面でもメリットがあると考えられる。
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以上です。

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