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【コラム1回目】漫画家・槙ようこ先生の引退

はじめまして。こんにちは。

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1回目の記事は元漫画家、槙ようこ先生について書こうと思います。

私が槙ようこ先生の作品に初めて触れたのはりぼんを購読しているときに読んだ「ソラソラ」です。

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転校してきた主人公「空子」と、名前の似ていた男の子「空緒」の学生生活を描いた漫画。単行本は全3巻です。

これは槙ようこ先生にとって初連載だったと記憶しているのですが非常によく出来ていて、その後の槙先生の作品の原点にもなっているストーリーだと思います。

素人が言うのもおかしいことかもしれませんが、新人にしてはよく描けている絵と思います。まず槙先生の特徴としては人体の描き方がデビュー当時から優れていること、小物も髪型もその時代に合ったものを描いていること。女性・男性の体の描き分けができていること。

槙先生の絵柄はりぼん漫画家さんや投稿者の方々にも影響を与えていて(あの当時はりぼん内で種村有菜さんや槙ようこさんの絵柄が好まれており、目の描き方など、わかりやすいほど絵柄が二極化していました。これは読者によって見方は異なると思いますので個人的な意見として読んでください)、お手本のような画面作りをしており、いつでも槙先生の向上心に満ち溢れていました。

この「向上心」をよく感じ取れるのは絵柄の変化です。

槙ようこ先生の作品の特徴として、「作品ごとに絵柄を変える」というものがあります。

絵を描いているとどうしても絵柄にその作家のクセが出てしまうものですが、槙先生に至っては絵柄をガラリと変えてしまうという特徴があります。

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私は槙先生が「愛してるぜベイベ★★」の連載を始めたとき、槙先生にしては大人っぽい絵柄なのと、りぼんにしてはリアルな絵柄で臨んでいるなあといった印象で、正直好みの絵柄ではありませんでした。ですが当時りぼんで子育て漫画は無かったのでとても珍しかった。ストーリーだけで魅了されてしまい、毎月楽しく読めた漫画です。

連載当時、私は小学生。小学生という未発達な時期にも、やはり複雑な人間関係は存在します。女の子同士の付き合い、1年ずつ難しくなっていく勉強、体の大きさの変化。高学年は体の差もよく出てくる時期でもあります。中学になるとそれが顕著に出ますよね。

りぼんの対象年齢はもちろん小学生〜中学生。そんな多感な子供たちの読む雑誌に、槙先生は「ベイベ(以下、略称で書かせていただきます)」で「坂下ミキ」という不登校児を登場させました。ミキが登場した時期は、お母さん世代にも反響があり、「自分もこんなことが過去にあった」「自分にも桔平がいてくれたらよかった」などといった内容のお便りが槙先生に届いたと本人が語っていたのを覚えてます。それほど、ミキというキャラクターはリアルで読者に共感を抱かせる大事なポジションのキャラクターだったのだろうと思います。

私はこの「ミキ」というキャラクターの存在がなければ、この作品はこれほど伸びなかっただろうと思います。片倉桔平(主人公)とゆずゆ(母親が蒸発したため一時的に片倉家に預けられている幼稚園児。女の子。)だけではこの作品はただの子育て漫画として終わってしまう。桔平とゆずゆ、それぞれの成長物語として終わってしまうには惜しい。りぼんの対象年齢は小学生〜中学生のため、高校生の桔平、幼稚園児のゆずゆでは読者からは遠い存在に見えてしまう。

そこに「坂下ミキ」という、悩みを抱えたキャラクターを登場させて読者の共感を得た。これはこの作品にとって非常によいスパイスだったと思います。

ミキについて詳しく書きますと、ミキというキャラクターは正義感の強い女の子でした。教師の不正に対し目をつむれず、見逃さなかったために他のクラスメイトから反感を買ってしまい、ナイフで切りつけられてしまうようないじめ(いじめというより傷害罪だと思いますが…)にも遭うようになりました。それから学校には居場所がなく、ミキは家庭でも学校でも孤立してしまい、不登校という形で自分の居場所を探しに放浪していました。

それ以降のミキの行動についてはネタバレになるので割愛します。

このゆずゆとミキ、二人とも家庭不和です。ゆずゆに関しては母に置き去りにされているのでネグレクトと言っていいでしょう。

反して、主人公の桔平は家庭環境も良く、学校ではアイドル的(男性にも女性にも好かれるタイプ)存在。この対比を描くのは当時のりぼんでは挑戦的だったと思います。

私はミキが出てきた頃のエピソードが好きなので、機会があればぜひ読んでいただきたいと思います。槙先生はデビューが高校生の頃だったので、この連載では20代でした。

この漫画が出る前も、りぼんという雑誌では家庭環境のよくないキャラクターがよく出てきており、珍しくはなかった。ですが槙先生の作品の場合、そのありがちな設定でもいろんな要素をバランスよく取り入れてうまくまとめている。

心理描写の丁寧さ、表情のみでのキャラの訴え、ただの偽善と思わせないリアルなセリフ回し。

これは槙先生の持っている画力と、槙先生自身のセンスがなければ生まれなかったものだと思います。

槙先生はベイベのアニメ化を期に知名度を上げましたがしばらく迷走することになります。

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「STAR BLACKS」(鬼と戦う漫画でした。りぼんの対象年齢的に不発に終わり打ち切りとなる)、「たらんたランタ」を描きましたがどちらも目立たず最終回を迎えます。この頃はりぼんという雑誌的にも氷河期で、他の雑誌に売上を圧されていたのでほとんどの作家が伸び悩んでいた頃なので槙先生も悩みながら描いていたと思います。STAR BLACKSをりぼんという雑誌で描いたのも起爆剤になればという意思の表れを感じました。この作品でも槙先生の画力の高さが分かるのでぜひ読んでもらいたい1作ですね。

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りぼんスペシャルという増刊号で書き溜めていたものを収録した短編集「14R」では軽い性描写も描くようになり、また新しい槙先生の表現が見えます。

個人的には「ワタクシサマ」という読み切りは槙先生にしか描けない漫画だと思っています。槙先生の漫画の特徴として、あっけらかんとした楽観的なキャラクターというのはよく出てきていて、そういうキャラクターにスポットを当てた読み切りなのですが、主人公にとっては理解できない行動のキャラクターだったようで、困惑しているシーンが多くあります。ですが、最後に主人公はその子の性格を受け止めるようになります。

それはなぜでしょうか?きっと、その子は人を傷つけない、自分の意志に責任を持つキャラクターだったからでしょう。他人に迷惑をかけても、それをプラスに変えてしまう。

人生は「自分を受け止めてくれる相手」や「自己プロデュース」「フォロー力」が大事なのではないかと私は思います。


槙先生の引退は非常に悲しいお知らせでした。ファンや現役のりぼん読者にとって辛いお知らせだったと思います。今でも再起を願うメッセージを見かけます。

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槙先生は引退する前から不安定な部分がありました。「山本善次郎と申します」の連載中には休載することもあり、ファンは再開を願っていました。休載が明け、最終回も描きあげ、山善は無事に終着しました。

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私は「勝利の悪魔」という連載作品が好きだったのですが、これもなかなかりぼんにとって挑戦的なものでした。綺麗な女の子が男の子だったのですから…。単行本の表紙を見たらわかりますが、細部まで凝った書き込みで、漫画の画面作りも綺麗で、絵のお手本としても最適です。

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学生の時からりぼんの看板を背負って駆け抜けてきた槙ようこ先生。妹の持田あき先生も漫画家として成功(Cookieで連載していた漫画がドラマ化)しましたが、槙先生の今後の動向が分からないのが残念です。

ずっと絵を描き続けてほしい作家さんです。

どうか、健康でいてください。


☀️この記事を書いた日が7/11だったのですが、偶然にも槙先生のお誕生日でした。なんだか運命のようにも感じました。槙先生、おめでとうございます‼️

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