工学的アプローチのエフェクターボード構築。信頼性の観点から


導入

 ボード構築に関しては好きで、かなりスクラップ・アンド・ビルドを繰り返してきた方だと思うし、電気回路についてもある程度知識はあるので、その辺りの知見や、採用理由をメインにお話しします。質問はお気軽にコメントいただければと思います。可能な限り回答します。

大前提

 とにかく信頼性、安定性を第一にボードを組んでます。イチかバチかで音が出るようじゃ話になりません。常に、どこでも最高を出せるポテンシャルをボードに持たせることを意識しています。おすすめの歪みや空間系など、システムの中で信頼性にかかわらないものについては言及していません。

エフェクターボードの『ボード』

サイズについて

 ボードのサイズを決める時はよく、「新聞紙に入れたいエフェクターを配置してみて決めろ」といいますが、あまり好きではありません。そうしてしまうとどうしても巨大になり、洗練されたボードとは程遠くなりがちですし、自力で運搬するアマチュアの場合、運ぶのが億劫になってしまいます。

 持論としては、手持ちエフェクターを並べて、無駄の出やすい縦幅だけを決めて、横幅は重量や可搬性の観点から検討する方がいいです。そこから、何をどうやって詰めるかを検討する方が結果として洗練されたボードになります。

種類について

 ボードの種類ですが大きく、下記のARMORのような『板タイプ』とPEDALTRAINのような『すのこタイプ』があります。

https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/14364/

https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/208300/

 どちらでも問題はないですが、配線はすのこより板の方がやりやすいですし、外側がハードの方が中身を守れそうなので板の方が好きです。すのこは一見綺麗な配線ができますが、裏側が酷いことになっている人が多い印象です。あくまで几帳面向けです。

それでお前は何にした

 私はメインボードとサブボードを組んでいて、ARMORのPS-2CとPS-3Cです。理由は頑丈そうで値段も同等品と比べたら安いからです。実際、これくらいコンパクトな方が手入れも楽ですし、運ぶのも億劫にならずちょうどいいと思ってます。

https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/14367/

https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/14364/

ケーブル

パッチケーブル

 基本的にソルダーレスは値段関係なくおススメしないです。線材とプラグの間から徐々に酸化していくうえ、耐久性もはんだ付けしたもの以下なので音質や信頼性の面で特にメリットはありません。巨大なボードで、なおかつ適切な配線ができて、半年から1年に1回すべてのケーブルを付け替えるプロ向けではないでしょうか。

 かといって完成品(市販品)もちょうどいい長さを見つけにくいので難しいですね。パッチケーブルは長さがシビアなので自作したいところです。はんだごては40W以上のものなら何でもいいですが、高温だとコテ先が酸化しやすいので、温度調整できた方が圧倒的にやりやすいです。

DCケーブル

 パッチケーブルとは対照的に、こちらは自作をお勧めしません。パッチケーブルの場合はショートしていても音が出ないくらいで済みますが、DCケーブルはショートの場合に最悪燃えるので万が一のことを考えると自作は避けたいです。長さも、そこまでシビアでなくても束ねればいいですし、なんなら今後エフェクターを入れ替えることを考えると少し余裕を持たせたいです(DCジャックの位置がエフェクターによって異なるため)。
 特にここで音が劇的に変化することは無いので、シンプルに長さと信頼性と値段で考えれば問題ありません。

その他信号用ケーブル

 TRSケーブルはサイズと相談になることが多いです。難しいことは考えず、問題なく伝送できればそれでよしです。サイズがシビアな場合は3.5mmのAuxケーブルに変換プラグを挟むことでスペースを節約できます。MIDI-TRSの場合は規格が合うものを選びましょう。


それでお前は何にした

 パッチケーブルのプラグはオヤイデのP-6.3L、線材もオヤイデのG-SPOTです。プラグはとにかくサイズが小さいL字ものを選びたかったので、これになりました。NeutrikやSwitchcraftはデカすぎて実用的ではないですし、ソルダーレスは前述のとおりです。作り方は少し特殊ですが、作業自体は慣れれば難しくないです。秋葉原かオヤイデ電気オンラインショップでしか売っていないので入手性はやや悪いです。
 ケーブルは直径6mm程度で単芯のものなら何でもよかったのですが、入手性、取り回し、値段、製作難易度を考慮して決めました。私はケーブルでチューニングするタイプではないので一聴して違和感がなければOKとしてます。

 
 DCケーブルはOne ControlのLLプラグのものを使っています。理由はプラグがコンパクトで取り回しが良く、安いからです。今まで2~30本程度買っていますが1本も壊れてないので信頼性は十分だと思います。30cmを基本として、長すぎる時は15cm、足りない時は50cmを使っています。

https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/249934

 TRSケーブルも私は自作していますが、HOSAやEBSのもので十分だと思います。プラグはオヤイデのP-6.3TL、線材はカナレのL-4E5Cが細身で扱いやすいです。

 私はBOSSのGT-1000COREをMorningstar FXのMC6 MKIIでMIDI制御しているのでMIDI TRSケーブルを使っています。Free The Toneのものがコンパクトで取り回しが良いので常用しています。

パワーサプライ

 個人的には歪みに何万もかけるくらいならここに3万投資した方がいいと思ってます。というか電源の質が悪ければ歪ませたときにノイズで酷いことになりますからね。ボード構築においてベースとなる部分なので最低でもフルアイソレートのものを選びましょう。特殊な仕様のものを選ぶと後々扱いにくくなるので汎用性が高くポート数に余裕があるスペックのものを選びましょう。電圧可変ポートやコンセントは必要に応じて。

 機種によっては9.6V程度出力できるものもありますが、それ以上に負荷がかかった時に電圧が下がらないかの方が重要だと思っています。無負荷の電圧値の情報は割とありますが、メーカーは高負荷時の電圧を記載してほしいものです。下リンクの拙稿で3機種について高負荷時の電圧値を測定していますので併せてお読み頂ければと思います(ダイマ)。

 比較的安価でコンパクトなのはCAJのDC-DC Station。また、電流量が要る場合はVital AudioのVA-08mk2が定番ですが、VAはACアダプタがショボいのですぐ断線します。見た目は更にダサくなるがスペックが全く同じアダプタがサウンドハウスに売っているため必ず予備は持っておきましょう。また、高負荷時に9Vを割り込むポートもあるので大電流のデジタルエフェクターを使うならOjaiをお勧めします(出典:上記拙稿)。

https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/234333/

 特段注意すべき点はポートあたりの最大電流量です。もしオーバーするときは別途ACアダプタを使いましょう。間違ってもカレントダブラーケーブルは使わないようにしてください。詳細については私が過去に書いたnoteを読んでください(ダイマ2)。

それでお前は何にした

 メインボードはFenderのEngine Room lvl5、サブボードはStrymonのOjaiを二つ使っています。
 Engine Roomを採用したのは、①ACアダプタが不要(ACケーブルを直接挿せばいいだけ)なこと、②5ポートで十分なこと、③安いうえに品質が見込めることが主な理由です。デメリットはデカいこと、高負荷時9Vを割ってしまうことがあることです。なお、GT-1000COREは純正のACアダプタで駆動しています。

 Ojaiのメリットは信頼性とサイズです。ACアダプタはクソデカいですが、その分筐体は小さいので小型ボードでは重宝します。そこまで厚くないので排熱、絶縁に気を付けつつ2段積みしてます。最大5個まで数珠繋ぎできるので拡張性にも優れています。電圧も安定しているので、迷ったらこれにしとけばいいと思います

ジャンクションボックス

そもそも必要か?

 ジャンクションボックスは採用する理由があるときだけ採用してください。というのも、

  1. ハイインピーダンス信号が接点を余計に通過するため、音切れ、音質劣化のリスクがある。

  2. 配線が冗長になりがちであり、正しく機材選定、配線しないとノイズの原因になる。

  3. 余計にケーブルが必要になる。

  4. 単純に場所を取る。

ことが挙げられるため、ジャンクションボックスを使う際は上記のデメリット以上の恩恵が得られる場合でないと使う価値はありません。
 
 例えばそこそこのサイズのボードでスイッチャー運用をしており、ギターからの信号はスイッチャーのインプットに直結したいとき、大抵の場合は直接アクセスできないと思います。こうした時は使わざるを得ません。
 逆に直列ボードの場合、ほとんどは順番や配置を工夫することでジャンクションボックスを使わなくてもよくなります。実際問題、『入出力を右上に集中させたい』程度の動機であれば使わない方がトータルで見た時の恩恵は大きいと思います。
 しかし例外的に、普段ギターテックなど他の人にセッティングを依頼している場合は、配線ミス防止のためにジャンクションボックスを使うのは仕方ない面があるかと思いますので、最終的には環境と相談して柔軟に決めるべきですが、惰性でボードに入れるのはやめましょう。

選ぶポイント

 チェックすべき点は、チャンネル数と、『INPUTのGNDのみが筐体に落ちているか』という点です。チャンネル数は言わずもがなで4CMや外部のMIDIと連携する場合は4ChかDIN端子が付いているものを選ぶ必要があります。
 GND云々の話についてですが、すべてのチャンネルのGNDが筐体を介して繋がっていると、ボード内で巨大なグランドループが形成されてノイズが発生します。通常であればINPUTのチャンネルのみGNDが筐体と導通しているのですが一部の製品や知識が無い人が製作した場合、すべてのチャンネルのGNDが繋がっている可能性があるので信頼できるメーカーから買いましょう。バッファ付きがおすすめです。


それでお前は何にした

 今は採用していないです。どちらのボードも入出力に当たるジャックに容易にアクセスできるように配置しています。ちなみに昔StudioDaydreamの4chのジャンクションボックスを使ってました。これはステレオ対応かつグランドループ対策もしっかりしているため汎用性が高いです。

エフェクターをかさ上げしたい

 フットスイッチの兼ね合いや配線を通したいなどの理由でかさ上げしたいことはよくあります。かさ上げ用の製品は様々ありますが、下の製品のようにサイズに融通が利かないことがほとんどです。

 無いなら作ってしまおう、ということで私がいつもやっているかさ上げ方法を紹介します。

 使うのは補助金具と両面テープ(強力なもの+ゴム用)、ゴム板とマジックテープです。まっすぐな方の金具はちょうどいい長さのものを選びます。ゴム板は底面にマジックテープを貼るときに使います。

金具同士を両面テープを使って下写真のようにくっつけます。

長さに応じて足の数は調節する。両面テープを使うことで絶縁も兼ねる。強力なものを使い、貼付面を脱脂すれば意外と剥がれない。
マジックテープをつける際はこのように足の隙間にゴム板を挟む。面積が狭いので強力なマジックテープがあればなおよし。

 また、板タイプのボードであれば、金具の穴を利用して直接ボードにビス打ちすれば安定感が大幅に増します。私は打ちまくっているのでボードは穴まみれです。

配線のテクニック

結束バンドとマウントベースを使う

 配線は至近距離である場合を除いて基本的に束ねて固定しましょう。その方が、引っ掛けての断線リスクを軽減できますし、メンテナンスも容易になります。また、後述のノイズ対策にも有効です。

ノイズ対策

 まず、スイッチャー等でセンドリターンを使う場合はグランドループを描かないように2本のケーブル同士を隣接させて束ねてください。

 次に、パッチケーブルとDCケーブルが長距離にわたって平行に配線してしまうとDCケーブルのノイズを拾ってしまうので気を付けてください。特に、ハイインピーダンスの信号が走るパッチケーブルにはDCケーブルを近づけないよう工夫する必要があります。なお、直交はあまり問題にはなりません。

 さらに、DCケーブルの長さが余った時には、円状に束ねるのではなく、折りたたむように束ねることでノイズ対策ができます(下図の下のようにする)。

上のように円状に束ねるのはNG。余った時は下のように折りたたんで。

 基本的にグランドループとDCとパッチケーブルの位置関係、余ったケーブルの束ね方を意識すればノイズ対策は十分です。

まとめ

 色々難しい単語が出てきたかもしれませんが、それについても今後解説していきたいと思っています。ぜひ当記事を参考にしてボードを組んでみてください。質問はコメントへ頂ければと思います。それでは最後までお読み頂きありがとうございました。

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