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内積と外積って何から生まれたの?

高校で習う2つのベクトル$${\overrightarrow {\vphantom{ }a} ,\ \overrightarrow b}$$ の内積 $${\overrightarrow {\vphantom{ }a} \cdot \overrightarrow b}$$ と言えば

$${\overrightarrow {\vphantom{ }a} ,\ \overrightarrow b}$$ のなす角を $${\theta}$$ 、また $${\overrightarrow {\vphantom{ }a} ,\ \overrightarrow b}$$ の大きさをそれぞれ $${|\overrightarrow {\vphantom{ }a}| ,\ |\overrightarrow b|}$$ とすると
 $${\overrightarrow {\vphantom{ }a} \cdot \overrightarrow b=|\overrightarrow {\vphantom{ }a}| |\overrightarrow b| \cos \theta}$$

$${\overrightarrow {\vphantom{ }a} =(a_1,\ a_2),\ \overrightarrow b=(b_1,\ b_2)}$$ と成分が与えてあれば
 $${\overrightarrow {\vphantom{ }a} \cdot \overrightarrow b=a_1 b_1 +a_2 b_2}$$

また、高校(や予備校)でこっそり教えてもらう$${\overrightarrow {\vphantom{ }a} ,\ \overrightarrow b}$$ の外積 $${\overrightarrow {\vphantom{ }a} \times \overrightarrow b}$$ と言えば
その大きさ $${|a_1 b_2 - a_2 b_1|}$$ が$${\overrightarrow {\vphantom{ }a}}$$ と $${\overrightarrow b}$$で作られる平行四辺形の面積 $${S}$$ になることとか
$${\overrightarrow {\vphantom{ }a} \times \overrightarrow b}$$はベクトルで、大きさが $${|\overrightarrow {\vphantom{ }a}| |\overrightarrow b| \sin \theta}$$ で $${\overrightarrow {\vphantom{ }a}}$$ と $${\overrightarrow b}$$ の両方に垂直なベクトルを表す程度で、

後は使い方を一杯教えてもらったものです
でも、そもそも内積、外積ってどこから来たの?どうして生まれたの?
って質問には多くの答えが便利だから……
納得いかなーい

四元数誕生

ことの始まりはガウス平面(複素数平面)です
複素数を平面上の点とみることで色々な操作(2つの複素数の和差積商や原点中心の回転など)を図と式で表すことができます

そこで平面ではなく空間で同じようなことができないかと考えた人がいました
ハミルトン、ド・モルガン、グレーヴスたちです
彼らは初め $${a+bi+cj}$$ という形で次元を1つあげて考えましたが、従来の計算規則をどうしても上手く当てはめることができませんでした
そして1843年10月、相変わらず考えながら運河のほとりを歩いていたハミルトンは天啓なのか $${a+bi+cj+dk}$$ を思いついたのです
彼は
 $${i^2=j^2=k^2=ijk=-1}$$
が頭に浮かび思わず渡っていた橋の石に刻みつけたそうです

虚数単位 i, j, k の積の表 例: ij=k, ji=-k 交換法則は成り立たない

彼が考えた数は四元数 quaternion とよばれ $${a_0+a_1 i +a_2j +a_3k}$$ とすると
 $${\begin{matrix*}[c]{a_0} &{+}& a_1i+a_2j+a_3k \\ {スカラー部} &{}& {ベクトル部}  \end{matrix*}}$$
と2つのパートに分けて考えられていたようです
2つの四元数の和と差は複素数と同じように考えれましたが、積の場合は複雑すぎでした

そこでこのうちのスカラー部 $${a_0=0}$$ で考えた2つの四元数のベクトル部
$${z=a_1 i +a_2j +a_3k,\ \ w=b_1 i +b_2j +b_3k}$$ の積

 $${\begin{matrix*}[l] {zw}& {=}&{(a_1 i +a_2j +a_3k)(b_1 i +b_2j +b_3k)} \\ {}&{=}&{-(a_1 b_1 +a_2 b_2 +a_3 b_3)}\\ {}&{}&{\ \ \ \ \ \ +(a_2b_3 -a_3b_2)i +(a_3b_1-a_1 b_3)j + (a_1b_2-a_2b_1)k} \end{matrix*}}$$

をつくり、
 $${a_1 b_1 +a_2 b_2 +a_3 b_3}$$ をスカラー積$${z\cdot w}$$
 $${(a_2b_3 -a_3b_2)i +(a_3b_1-a_1 b_3)j + (a_1b_2-a_2b_1)k}$$ をベクトル積$${z \times w}$$
と名付けました
これが今に続く内積と外積の表記方法の始まりで「ベクトル派」と呼ばれるグループの記法でした。

ハミルトンは四元数を広めるために色々なこと(学校を作ったり、800ページの本を書いたり……)をしたのですがなかなか普及しませんでした

★四元数の開花

そんな中1867年教え子のテイトが『四元数の初等的理論』を出します。
四元数の和差積商や実数倍といった計算の定義から、さらに幾何学や物理学への応用といったところまで踏み込んだものでした
また、この本の中で積$${\alpha \cdot \beta,\ \alpha \times \beta}$$の解釈として
 $${\alpha \cdot \beta =|\alpha| |\beta|\cos \theta}$$
 $${\alpha \times \beta =(|\alpha| |\beta|\sin \theta)\eta}$$
  ただし $${\eta}$$ は $${\alpha \perp\eta,\ \beta \perp \eta,\ |\eta|=1}$$ であるベクトル
か与えられました
高校で学習する内積(と外積の一部)の幾何的意味はこのあたりでまとまったようです

★内積と外積登場 (一人の数学者の悲しみ)

時は少し遡って1844年、グラスマンが『線型拡張の理論』という本を出します
彼はこの中で内積と外積という言葉を初めて使います
そして、$${(a_1,\ a_2),\ (b_1,\ b_2)}$$ という2つのベクトルに対して
 内積$${=a_1b_1 +a_2b_2}$$
 外積$${=a_1b_2-a_2b_1}$$
と定義します
そして、
 内積が正になるのは2つのベクトルが同じ方向($${90^{\circ}}$$未満)=内向きの場合だから
 外積は2つのベクトルが重なると0になり、重ならないよう外に出さないと($${0^{\circ}}$$ より大きな角度をつけないと)正にならないから
と命名の理由を記しています
また、外積は2つのベクトルでつくる平行四辺形の向き付きの面積であるとも述べています
高校で学習する内積(と外積の一部)の成分表記と言葉の意味はここで出てきたのですね

しかし折角のこの論文は日の目を見ませんでした
提出先の教授が理解できなかったからです(ありがち
彼は数学の世界では受け入れられないと思い言語学へと転身するのでした(泣

物理学との出会い (四元数の衰退)

さてテイトが出した『四元数の初等的理論』は物理学へ大きな影響を与えられました
空間の運動エネルギーやマクスウェルの方程式などが四元数で記述されるようになりました

それから時が進み、物理学では
 力学……速度、力といったベクトル的な量
 電磁気学……ベクトル場的な概念
が合流し、1880年代半ばにはギブス、ヘヴィサイド、ヘルムホルツらがベクトル解析を創始し四元数にとってかわります
これはベクトル解析の概念が簡単で記述がすっきりしていたのが理由だからでした

四元数の今

さて時代は飛んで20世紀後半
細々と研究されていた四元数……
実は3次元の自由な回転を表す記述に有利であるということが分かってきました
それまでは回転といえば回転行列……2次元だと $${\begin{pmatrix} \cos \theta & -\sin \theta \\ \sin \theta & \cos \theta \end{pmatrix}}$$ ですね
2次元だと$${\cos \theta+ i \sin \theta }$$ を掛けることで回転を表せますが、それほど差はない?原点中心の回転のみだからなのかもです
しかし3次元だと回転軸は無数の方向に考えられてその表現は大変です
四元数は3次正方行列による表現に比べて記憶容量が少なくて、演算速度も速い、ジンバルロック$${{}^{※}}$$も起きないといいことずくめなのだそうです
今では宇宙機、CG、ロボット工学、制御理論、軌道力学など多方面で活躍している分野です

 ※ ジンバルロック……複数の軸の回転を組み合わせたとき、1つの回転軸の自由度が失われてしまう事象のこと

ということで……

ということで、内積や外積は複素数を拡張しようとしたハミルトン、テイトやグラスマンが試行錯誤した結果生まれたものなんですね
特にテイトの『四元数の初等的理論』やグラスマンの『線型拡張の理論』は、それぞれの本で成分といった面でもベクトルといった面でも幾何学への応用といった面でも内積や外積のことがよく整理され表現されているものと思われます
もちろん現代ではこれらの内容がより発展し、利用されていることはいうまでもなくありません


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