1回戦ファイターによるジャッジ採点の説明・補足など
伊藤なむあひ 竹花一乃 式さん 吉美駿一郎 林四斜
大田陵史 冬乃くじ 齋藤友果 珠緒 磯城草介
伊藤なむあひ
ジャッジの採点方法について、以下の通りとした。
a.採点の基準が明確か(配点2)
b.対象作品を読みたくなるか(配点2)
c.芸になっているか(配点1)
*各作品への採点は上記の配点に影響しない
0から5点で、数字が大きいほど良い評価となる。ジャッジのジャッジはとても難しく、自分のなかでちゃんと評価の軸を決めないと、気分によって評価がぶれぶれになる。それは避けたかった。なので、今回はブンゲイファイトクラブという楽しい遊びのなかで、それをもっと楽しむためには?ということを念頭に上の採点方法を決めた。
a.採点の基準が明確か
ブンゲイファイトクラブという遊びのなかで、ジャッジ、ファイターを含む多くの人が各作品を読み感想を言ったりそれぞれの心の中や文章でジャッジをしていく。そのなかで、今回の8人のジャッジは2回戦に進む作品を選ぶべく自身のジャッジを公開する。多くの人の多くの好みや評価軸があるなかで、ジャッジが2回戦に推す作品とその理由は、それを読んだ人が納得あるいはなるほどそういう読み方があるのかとなるものであることが好ましいと考えた。それには採点の基準が明確でなくてはならない。
b.対象作品を読みたくなるか
これには、できるだけ多くの作品に触れたから、ということも含まれる。インターネットという開かれた場で行われたこのイベントは、最初から参加している人たちばかりではない。何かの記事を読んだり噂を聞いて途中から観に来る人もいるし、イベント終了後にログを辿る人もいる。ジャッジの評から読み始めるももちろんたくさんいるだろう。このイベントを楽しむには、1回戦の全作品を読んで欲しいし、もっと言えば予選を通過しなかった250以上ある作品も(読める範囲で)読んでみて欲しい。そうすればもっとこのイベントを楽しめる。そんなわけで作品を読んでみたくなる評、というのを僕は推す。
c.芸になっているか
これについては僕の趣味的な部分だし、b.と若干かぶっている気がしなくもないけど、評自体が読み物として面白いかということ。僕は昔、大森望さんと豊崎由美さんのメッタ斬りシリーズという、文芸誌に載っている小説を中心に批評で面白おかしく斬り込んでいくという本を、図書館で借りたり古本で買って読んで売ってまた新品を書店で買ってみたり、とにかく何度も読んだ。そこから批評に興味を持ったし、これまで読まなかったような小説も読むようになった。ついでに自分で小説を書くときに、(これは豊崎さんと大森さんが読んだらなんと言うだろうか…)という視点が増えた。批評は面白い。僕はそれを信じているからこの項目を評価基準にした。
以上を踏まえた上で、ジャッジの方々に点数をつけました。
合計点数
笠井康平:3
QTV:3
道券はな:4
仲俣暁生:3
橋本輝幸:4
樋口恭介:4
元文芸誌編集長ブルー:5
帆釣木深雪:4
笠井康平
a.2
b.0
c.1
QTV
a.0
b.2
c.1
道券はな
a.1
b.2
c.0
仲俣暁生
a.1
b.2
c.0
橋本輝幸
a.2
b.1
c.1
樋口恭介
a.2
b.1
c.1
元文芸誌編集長ブルー
a.2
b.2
c.1
帆釣木深雪
a.1
b.2
c.1
そうそう、いくつか注意点?みたいのを。
・最初の方で触れたジャッジの方の、bfc公式に載っていない方の個別評についてはこの採点の対象とはしていません。公式のページに掲載されている評以外はおまけ(豪華すぎるおまけだな!)として捉えています。
・自分や他の人の作品に対する評や評価はジャッジへの採点に関係しません。そのまんまです。相互関係がある必要がないので。もちろん自作『跳ぶ死』に関して(こういうつもりで書いた)というものはありますが、それは僕の読みであってジャッジやこれを読んでくれた人の読みとは同じである必要はない(読みに正解/不正解はない)と考えているからです。
なんか他にも書きたいことあった気がするけどいっぱい文章を書いたら忘れました。言いたいことはただひとつ。僕はトムとジェリーが大好きです。ブンゲイファイトクラブ、仲良くケンカしていきましょうね。
竹花一乃
ジャッジの採点は自分以外の数人の批評を抜き出し、革新と共感に対してどのように評価しているか、で採点しました。採点提出後にジャッジの方々の個人noteが公開されているのに気づいたのですが、noteで追記しているジャッジに加点されがちなのでは、とも思えました。
話が変わりますが、ファイターの一人いわく「竹花は怒りキャラで生きていけ」とのこと。ある読者の方が「濃縮還元ムカつき汁」と拙作品を評されていましたが、まさにその通り。命名ありがとうございます。
男性が口にする「女」と「女性」は意味合いが違う。女性が口にする「男」と「男性」も違う。大事なことなので繰り返しましたが、その感覚がつかめない方がいるようでした。前出の読者の方が「男性を冒頭でムカつかせると読み進んでもらえない」(大意)とあり、読者の半分を失うのはもったいないとの意見にも同意するばかりです。ゆるふわキャラで生きていきたいのですが、同時に「濃縮還元ムカつき汁」を極めたいと思っております。
応援してくださったみなさま、運営のみなさま、ありがとうございました!
ファイターのみなさま、今後も殴り合いましょう!
小説書きは孤独なので、ブンゲイファイトクラブを通じてのやりとり、楽しかったです。
次回はジャッジの方もぜひ殴り合いにご参加くださいね。
式さん
ジャッジ総評
字数制限は、守ろうね!
皆との約束だよ!
吉美 駿一郎
ジャッジのジャッジ
評を印刷し、ぼくの評価のところだけ彼女に切り取ってもらってから読んだのですが、どれも甲乙つけがたい。だから、各評者の点数を重視しました。1回戦は判定決着が多かった。点数でファイターの当落が決まっていますので、妥当と判断しました。
ぼくは評を読む前に各ブロックの推しを決めていました。
Aブロック 「愛あるかぎり」5点「読書と人生の微分法」4点
Bブロック 「飼育」5点「伝染るんです。」4点
Cブロック 「天の肉、地の骨」5点「来たコダック!」4点
Dブロック 「殺人野球小説」5点「逆さの女」4点
Eブロック 「抱けぬ身体」5点「立ち止まってさよならを言う」4点
Fブロック 「遠吠え教室」5点
Gブロック 「ニルヴァーナ 川柳一〇八句」5点
Hブロック 「ハワイ」5点
採点は好みです。あと、原稿用紙六枚と聞いてぼくが最初に思ったのは「じゃあ登場人物は二人で、詳しく書けるのはワンシーン、あとはシーンにならないようなものが数行書けるくらいかな」、「ワンシーンだから当然だけど場所は移動しない」、「人物二人の関係は説明が難しいものより結婚相手とか肉親とか血縁など簡単に説明できるほうがいい」でした。ですので、それ以外の手法をとっている作品には「おお、マジか。すげーなこれ」となりました。そういう作品を推してます。
事前の予想と合致していたら0ポイント、違っていたらその差がプラスでもマイナスでも1ポイントとしてカウントし、点数の低い順に並べて順位をつけました。
そのうえで、評を読み独特の採点方法を採用しているかたは5ポイント引きました。笠井さんの採点方法と、樋口さんのGグループみんな5点に度肝を抜かれたので、お二方は5ポイントマイナス。
これにより、帆釣木さん7ポイント、仲俣さん9ポイントとなり、5点としました。
笠井さん10ポイント、樋口さん11ポイント、橋本さん12ポイントとなり、4点としました。
道券さん14ポイント、QTVさん16ポイントとなり、3点としました。
元文芸誌編集長 ブルーさん22ポイントとなり2点としました。
Gブロックの推しを「ニルヴァーナ 川柳一〇八句」にしていたので、結果としてぼくに5点をつけてくださったかたには低い評価になってしまったので、なんだか申し訳なかったです。
林 四斜
ジグソーパズルの指先
4 笠井康平
1 QTV
1 道券はな
3 仲俣暁生 ★
2 橋本輝幸
1 樋口恭介
4 元文芸誌編集長 ブルー
2 帆釣木 深雪
(選評)
「採点基準」を定めた人間よりも、作品の中から何かを見つけようとする姿勢をもっているであろう人間に点数をつけた。何かで選ばれた作者は、今まで握り締めていた武器のかたちを知るのかもしれない。以下、個別評
笠井氏は作品の「転調の無さ」だけに焦点距離を絞って作品を見ようとした姿勢に惹かれた。
ブルー氏は文・単語・文字を観察し、美しい流れを見ようとする姿勢に惹かれた。
仲俣氏は点数こそ劣るものの、茂みの中に腰をおろし、風が吹くまでじっと息を殺している。少しでも風をみると、目の色を変えてその方向に飛びつく姿が、最も輝いて見えたので、仲俣氏を一番に推す。
QTV、道券両氏は、それぞれの評価の核を光源とし作品を照らしていたが、少し光が強いのではないか。作品の影ばかりを見ていたように思えたので惹かれなかった。
橋本氏は作品は鵺のようなものだ、と言った。では作品が鵺たらしめている理由は何だろうか。その正体不明のかたちにもう一歩踏み込んでみる勇気が欲しかった。
樋口氏は文章に恋をしている。しかし愛ではない。全てを愛した上で、順列をつける苦しさがみえて欲しかった。
帆釣木氏はことばの感触を楽しむ姿を想像した。しかし実際に姿を見たわけではない。3点に近い2点である。
私自身も影にとらわれているのかもしれない。パズルを吟味してひとつひとつはめ込んでいく姿勢でいたい。まちがえたらやり直せばいい。
大田陵史
ジャッジ評のジャッジについて/ストレンジャーシングスのように
ジャッジ評・採点の原稿を拝受してから、何度も読み返しながら、このジャッジを評価しないといけない、次に進む誰かを決めなくてはならないということにうーんと唸りつつ、部屋であーでもないこーでもないと悩んでいました。
本当にどの評も面白く、書評や批評、ひいては「読むこと」はこんなにもクリエイティブなんだと気づかされ、また小説を書くものとしては背筋が伸びる思いでした。
これからも、何度も読み返すことになるでしょう。
何よりもジャッジの方たちが、苦しみながらも楽しんでいるのがうかがえるものだったので、読んでて楽しかった。
この中から勝ち抜けを選ぶのかちくしょーと文句言いながら、顔はニッコニコみたいな。
採点結果も面白くて、勝ち抜けた作品は8人のジャッジに対して3点以上の高得点をとる方が多いですよね。
8人のジャッジに耐える底力、それが勝ち抜ける作品としての「強さ」なのかもしれません。
ジャッジ評のジャッジ基準については、読みものとして面白いもの、次のジャッジでも評価を読んでみたいと思わせてくれたジャッジに高い点数(4点以上)を入れました。
主観の評価で採点しているので、平均点は高めに設定しています。
他ファイターの採点でうまく配分されることを願って。
個々のジャッジについて、詳細に触れることはあえてしません。
ただ、一点だけ、個人的に触れなければいけないことがあるので、それだけ言わせていただければと。
QTVさん
サイゼリヤ行きます。話しましょう。
もう半袖Tシャツでは寒いので、何か羽織っているかもしれませんが、僕は、目印に<ULTRA SUPER HARD>を胸にプリントされたTシャツを着ていきます。イベントで買ったものなので、文言に込めた私的な意味はありません。
せっかくの機会なので、個人的な2回戦の注目カードなどをお伝えしたく。
北野勇作 VS 齋藤優
齋藤さんについては、たべおそに掲載された「馬」で僕はもう度肝を抜かれてしまい、ただのファンとして、新しい作品が読めるのがめちゃくちゃ楽しみというのもありますが、(どこのグループもそうですが)激戦のDグループを勝ち抜きましたから、その実力は折紙つき、ついでに金箔もついているかもしれません。
対する北野さんは、一回戦作品の素晴らしさ、どこか余裕と言いますか、まだまだ隠し球を持っているかもしれない底知れなさがあります。有力な優勝候補の一人としてあげることに異論がある人はいないはずです。
この二人がどんな作品でファイトするのか、個人的には注目しています。楽しみ。
最後に、こんなどうかしている企画(賞賛しています)を運営・進行している惑星と口笛ブックスには、もう感謝と敬服しかありません。
屈強で頑丈なリングがあるから、思い切ってファイトができました。
ありがとうございました。
というか、まだはじまったばかり、ですよね。
勝負ごととして負けてしまうのはやはり悔しいですが、運で勝つことはあるかもしれないけど、運で負けることはない、ということを胸に、個人的には次の作品などに昇華できればと思っています。
そして、今回のブンゲイファイトクラブ決勝まで、綺羅星のごとく素晴らしい作品とジャッジが生まれることを願って、こらからは観客として盛大なエールを送ることにします。
想像してみてください。
ブンゲイファイトクラブを通して、これから生まれる作品・作家たちが(あるいは既に生まれているかもしれせんが)ブンゲイを超えて、ジャンルを超えて、批判も称賛も全部巻き込んで、世界中に膾炙したら、めちゃくちゃ痛快じゃないですか。
そう、ストレンジャーシングスのように。
冬乃くじ
ジャッジ採点基準のための覚書
採点基準
ジャッジを採点するにあたり、考慮した点は以下のとおり。ジャッジがナルシスティックではないか。評をつける行為は、自らの視点と向き合うものであるが、そのときの姿勢がナルシスティックに過ぎないかどうか。自分よりも作品を見ているか。未知の存在と対峙したときにどんな反応を示しているか。文芸の未来を見ているか。最終的に、以下の点を高く評価する。わたしが望む文芸の未来を連れてくる人。
2 笠井康平
1 QTV
5 道券はな ○
2 仲俣暁生
5 橋本輝幸
2 樋口恭介
5 元文芸誌編集長 ブルー
1 帆釣木 深雪
笠井康平
独特な採点者である。拙作の添削を拝見したが、一字一句に至るまでの添削はとても丁寧な仕事であった。納得できる点も多かった。文芸の未来に、再利用できるゲームルールを残す、という野望も高く評価したい。しかし添削の中に、作品の味を殺すものがいくつかあった。ルールの弱さを氏も自覚しているが、現状のままでは、ある意味で均一化された作品しか生み出さないだろう。一番弱いのが未知の文芸があらわれたときだ。角を矯めて牛を殺すことは、文芸の土壌を細らせる。氏の仕事を否定するものではないが、今大会のジャッジ法としては、未成熟かと思われる。
QTV
「殺さなければ傑作になるのでは」というメッセージは確かにそのとおりで、素晴らしいポリシーだと思った。だが、講評の言葉からあふれてやまない小劇場的ナルシシズムに、今大会のジャッジとしてのふさわしさは感じられなかった。氏の言うとおり「ファミレスで、テーブルをはさんだ感じで」ファイター同士の軽口であれば構わなかったかもしれない。
道券はな
主題に問題提起もしくは祈りがあるか。表現に実感もしくは必然性があるか。従来の価値観の転換しようとしているか。この三点の評価軸は非常に素晴らしいと思った。というよりも、わたしが作品を読み書くうえで大切にしていることであった。そのため、二回戦以降のジャッジとしてふさわしいかどうかを客観的に採点するのは、とても難しかった。氏はナルシスティックではないが、未知の存在に対する反応は鈍いように見受けられた。しかし、わたしが望む文芸の未来を連れてくる人を、どうして推さずにいられようか。読者は作品を選ぶが、作品も読者を選ぶ。最終的には勝者とした。文芸の未来を変えてもらいたい。
仲俣暁生
どれも納得のいく講評だった。安定したジャッジメントであり、次に進んでもおかしくないと思った。だが、文芸の未来を見ているか、というと弱いように思われた。現在評価されるものを見る目は確実だと思うが、百年先に残るわけのわからない作品の萌芽と対峙したときの弱さを感じた。
橋本輝幸
良質な採点者である。評価の仕方は非常に説得的で、各評がないにもかかわらず、ジャッジとしてのふさわしさを感じさせられた。作品と作者を大切にする言葉が多いことも、ファイターを安心させるだろう。未知の存在を未知の存在とみとめられる点、文芸の未来を見ている点も、高く評価できた。
樋口恭介
個性的な採点者である。場外乱闘でも感じさせられたが、言葉に対して誠実であり、個が強く、評価のつけ方も真剣勝負だ。そうした点はとても高く評価できる。問題は、わたしと好みがかなり異なるということだ。彼はおそらく、わたしの望む文芸の未来を連れてくる人ではない。正直に言って悩んだ。けれどわたしは、わたしの望む文芸の未来を連れてきてもらいたい。氏は嘘のない評価を望むだろう。そういう意味で低い点をつけたが、他のファイターによって勝ち上がってくることを望む。
元文芸誌編集長 ブルー
すべての作品に言及しているのは氏ひとりだ。ファイターを安心させるという点で、これほどふさわしいジャッジもいない。評価もかなりの説得力を持ち、コメントも的確だった。それぞれのよさをのばす言葉、作品と作者を大切に思う言葉が多く、鼓舞されるファイターも多いだろう。鼓舞されれば次の作品はもっとよくなるわけで、新人揃いのブンゲイファイトクラブにふさわしいジャッジである。くわえて、未知の存在を未知の存在としてみとめる度量もあり、文芸の未来を見ている。多くのファイターに支持されるジャッジなのではないだろうか。
帆釣木 深雪
ナルシスティックに過ぎる感があった。講評というよりは解説であり、採点の根拠が見受けられなかった。小説的な散文も、必然性を感じられなかった。結論として、今大会のジャッジとしてはふさわしくないように思われた。
齋藤友果
ジャッジへのジャッジ
評価観点は以下の三点とした。
a. 評する前に先入観なく作品に飛びこみ、探求する精神を持って読んでいるか。(配点1点)
b.ファイターに点をつける基準を設けているか。基準は妥当か。(配点2点)
c. バックボーン(今までの読書経験、調査、批評をする目的など)を生かしてジャッジをしているか。(配点2点)
以上の点数を合計する。
最高点が三人もおり、このなかから一人をえらぶのに悩んだ。
もっとも批評することに手間をかけ、熱意を持っているように読めた笠井さんに次もジャッジしてもらいたいと思う。
◾️得点
⭐︎笠井康平 5点
QTV 2点
道券はな 4点
仲俣暁生 4点
橋本輝幸 5点
樋口恭介 5点
元文芸編集者ブルー 4点
帆釣木深雪 3点
◾️個別コメント
【笠井康平】 5点 ⭐︎(2回戦をジャッジしてもらいたい)
細部まで採点方法を吟味している。そしてその採点方法ではどうしても漏らしてしまう要素にも自覚的で、評価の目的も徹底して見失わない。
読む前提としてどの作品のテーマも受け入れる、冷静なジャッジだと感じた。それでいて最後の一文に熱意がある。
【QTV】 2点
自らの体験から得られた評価基準をすべての作品に当てていく方法。
わかりやすくはあるが、その視点は様々な場所ですでによく語られているもののように思う。自ら発展させた視点、基準で評してもらいたかった。
すべてのジャッジの中でも突出した、提案型の評はおもしろく読んだ。
【道券はな】 4点
文芸に対して求めているものが確固としてあり、作品の中にそれを探している。さらに、言葉を尽くし真剣に作品を評価している。
多くの作品に通底する傾向を読み解く姿勢、それと自らの要求を照らし合わせていくような批評のしかたは、世にある他の文学賞でもよくみられるもので評らしい評だと感じた。
【仲俣暁生】 4点
ストレートでわかりやすく、かなり観客に近い視点での批評のように思った。
まずはひとりの読者として作品に没頭しているかどうかというのを評価観点としたが、個の作品への反応にとどまらずに、批評の土俵に乗せなおしたジャッジを求めたい。全体を貫く判定基準を明示してほしかった。
【橋本輝幸】 5点
作者名を隠しシャッフルして読む、同グループの4人を比較するのではなくひとつの作品ごとに評を下す、という方法はたいへんフェアだと感じた。基準が明快で評価にも信頼がおけ、説得力がある。
最後にファイターがジャッジを選ぶ際の提言があるのも、ブンゲイファイトクラブ特有のものだ。
【樋口恭介】 5点
評価観点が入念に練られており、文芸作品で考えうる限りのポイントを内包しているように思う。目配りが広い。
最終的には主観も使うと明言しているところは正直で、グループごとの寸評からは判断に苦しみながらも批評を楽しんだ様子が伝わってくる。
【元文芸誌編集長ブルー】 4点
編集者であることがよく現れている評。作者にとっては大変ためになり、自分の作品を改稿したくなった。
作者のこれからの作品へも興味を示すあたりなど、勝敗をジャッジしているというよりスカウトマンが選手を見極めているようだ。
【帆釣木深雪】 3点
もっとも個性的なジャッジだった。序盤と締めは小説風に書いているのだろうか。
作品の解釈が細やかで他のジャッジにはないものがある。「ネット上に流通する文芸である」という視点を持ち出しているのはジャッジの中でも唯一だったように思う。
最後に「でも……」と言い切らないのは批評としてマイナスと思ったが、ちょっとおもしろい。
珠緒
■ジャッジ採点の基準
1回戦敗退となりました。残念ではあるけれど、正直、送られてきた評を読み終えたときが、この企画に参加して最も嬉しかった瞬間でした。自作への評はもちろん、他の31名の方への評も心にざらざらと引っかかるものばかりで。読み方を知るということは文芸を豊かにする重要な活動のひとつだと感じました。ひとりの読み手としてもアップデートできるように思い、嬉しく感じました。
笠井康平 4
QTV 2
道券はな 4
仲俣暁生 5
橋本輝幸 3
樋口恭介 2
元文芸誌編集長 ブルー 5
帆釣木 深雪 2
(敬称略 )
評価基準としては、作品をより興味深く、新しい気づきを得て読みが広がり、豊かになるかを重視しました。また32作品全体に対する俯瞰的な視点や、文芸についての考察や示唆を得られたジャッジに高い点をつけました。また今回の趣旨の「ファイトクラブ」という視点は少し難しかったと思うのですが、その点に取り組まれている方も高くしました。
各ジャッジが作品へつけた点数については、自分の思考と一致しているかどうかは考慮に入れていません(自分と違っても新しい読みにつながることが多々ありました)。また、自分に対する評をどうしても客観的に見るのは難しかったため(低い点でもの気づきがあるものがおおい)、いちど自分への評は先に読み、そのあと自分を除いて全体を読みなおして評価しました。
評者の方ご自身のキャラクターが強く出ているものについて、魅力的に思った点もありましたが、ジャッジとしていかにファイターの方を引き立て、公平におもしろく試合を運ばせられるかという点をより重視して評価しました。
以下すべて敬称略
1.笠井康平/4
公平かつ透明な基準で技術について評価し、単に加点・減点方式ではなく、魅力が総合的に評価できるように工夫されていると思いました。敢えて技術にフォーカスすることで、言葉のみで成り立つ小説というものの在り方に向き合わざるをえない印象を受けました。
また、文芸とは言語操作技術のすべてを指すものであるべきという提言と、そのために戦いたいという決意表明は、この方がジャッジでありつつ熱いファイターであると感じさせられるもので、大変心を動かされました。
2 .QTV/2
作中で人を「殺す」ということに特に着目した点に納得することができませんでした。どの作品でも人が死ぬ・殺す過程にはそれぞれの理由や背景があり、殺すか否かに着目するだけでは掬い取れないものがおおいように思います。ジャッジそのものの経験談が、自分語りに留まり応募作への評とうまく結びつかないと感じられた点もマイナスとしました。ただ、宮益坂のサイゼリヤで、ファイターとビールを飲んでいるジャッジの姿は見てみたいように思います。
3.道券はな/4
筒井氏は技術を起点に評価されていましたが、この方はテーマを軸にして、社会的な視点から考察されています。テーマからも入りながらも、そのテーマを表現できるかどうかで最終的には技術の話に帰結するというのも面白く思いました。また全体の傾向について分析し、多くの人が共通して関心を寄せている点を拾い上げておられたため、その時点で作品を読み直すとまた新しい気づきがありました。クールで丁寧な評であり、今回の評者の中で最も客観的であろうと努めておられるように思います。
4.仲俣暁生/5
ファイトクラブの趣旨に沿って、グループ毎での「戦い」というものに視点を置いて評価しておられる点が、チャレンジングであり、ファイター側としても楽しめる評でした。また文芸だからこそ表現し得るものかどうかという点を重視されております。最近では文芸(漫画も)が実写化されるケースが多くなりましたが、そのような時代において文芸だからこそ達成し得るものが改めて問われているのだと思います。
5.橋本輝幸/3
ジャッジの要素が非常に分かりやすく整理されており、ファイトクラブの審判としてもっとも公平な姿勢を感じました。ただ、このジャッジの方から得られる文芸に対する新しい示唆という点で他の方がまさると思いました。グループごとのテーマの緩やかな類似は私も感じましたが、いちど全てをシャッフルしてという手間をかけた上でもそのように感じられたということなので、何か偶然の妙を超えた運命的なものが生まれていることを確認できた評でした。
6.樋口恭介/2
評価視点を整理し、それで迷った場合は主観で選ばれたというご説明がありました。その結果だと思いますが、それぞれの作品へのコメントについては評者の主観が強く感じられました。おそらく主観以前に作品に対して各評価観点から全体について考えられたことがあると思うので、その内容についてももっと読みたい、知りたいと思い、この点数としました。
7.元文芸誌編集長 ブルー/5
この方の評に私が感じたのは、教育者、育成者という視点です。それぞれの作品に対し、小さな苗木を注意深く観察するように芽を見いだし、虫がついていれば取ってやり、影があればそっと陽を当ててやるといった姿勢です。編集について私は無知ですが、この方が仕事をされてきた姿勢が垣間見えるように思いますし、こうして文芸という畑が耕されてきたのではないかと勝手に思いました。自分の評はもちろん他の方の評にもそれぞれドキリとするものがありました。指摘は細かいものの添削ではなく、「小説とは、文芸の役割とはどんなものであるか」という問いを投げかけられているように感じながら読みました。拙作への「意味を感じたかった」という言葉は、きっとずっとこの先忘れないと思います。
8.帆釣木深雪/2
ジャンプしながら次々と幕をあけていくような、テンポで面白く読みました。これまでの7人の方の評と違って、この方は、ぼんやりとよそ見をしている人々をいっぺんに振り向かせるような、ギュッと心臓をつかむような魅力があります。たとえば、本の帯文だとしっくり来るかもしれませんが、作品そのものの洞察を深めるというよりも、帆釣木深雪さんという方自身のキャラクターをより強く感じさせられましたので、この点数にしました。
磯城草介
書き手に寄り添う批評
このたびジャッジをしてくださったみなさまに
お礼を申し上げます。
すべての作品を読み込み、ひとつずつ採点していくという作業は
想像以上に過酷だったと思います。
本当にありがとうございました。
そんなジャッジのみなさまを、今度はファイターが採点する。
これもまた、過酷なものでした。
「採点なんかできないよ……」と頭を抱えながら、
心を鬼にして採点させていただきました。
システム上、優劣をつけておりますが、
個人的にはすべての評に学ぶべきところがありました。
自分の弱点や今後の課題がクリアになったので、
引き続き、小説を書き続けていこうと思います。
繰り返しになりますが、本当に本当にありがとうございました!
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