準決勝に際して——感想・コメントあるいは三つの質問

 準決勝に際したファイターはいったいどのような心理状態なのか、感想あるいはコメントをいただこうと思いました。ただ、デリケートな状態であるのは間違いないので、あまり無理は言わずに、三つの質問に答えていただくのみでも可という尋ね方を採用しました。以下が四名の回答になります。

北野勇作

質問1 ブンゲイファイトクラブのこれまでの作品で一番好きだったのはなんでしょうか

 雛倉さりえさんの「飼育」です。

質問2 友人に薦めたい本を一冊あげてください

「演劇入門」平田オリザ

質問3 最近感心したこと

吹奏楽部の引退コンサートで、泣く気配すら見せなかった娘に感心しました。


蜂本みさ

質問1 ブンゲイファイトクラブのこれまでの作品で一番好きだったのはなんでしょうか

迷う質問ですが 蕪木Q平さんの 「来たコダック!」です。
朗読したくなる作品で、実際何度か家でひとりの時に朗読しました。
日本語のクラッシュ感で口と頭が楽しくなります。
自分の投稿作が構成・文体とも大変シンプルだったこともあり、「これがブンゲイファイトクラブか……」と、部屋着でうっかり南極に来てしまったような恐怖を味わったことも含めお気に入りの作品です。

質問2 友人に薦めたい本を一冊あげてください

イラスト集、かつ個人の出版物でもいいですか? 大伴亮介『ワンシーン画 大全集 Vol.1』です。
「カブトムシ見つけたと思ったら頭だけだったシーン」、「オリオン座だけわかるシーン」など、日常のさえない場面がたくさん描かれています。
あるあるネタ的な消費もできるのですが、個人的には明るい死の匂いがする作品集だと思います。
余命宣告をされた人がこの世のあらゆる瞬間の一回性を強烈に意識してしまう、というような。
Twitter上で更新されているので「#ワンシーン画」で検索してみてください。
ニコルソン・ベイカー『中二階』好きには刺さるはず。おすすめです!

質問3 最近感心したこと

防腐作用について自身の学説を証明するために、柿の種子を大量に飲み込み、自らミイラになったという江戸時代の本草学者の話。科博の特別展「ミイラ」で現在展示されているそうです。見に行きたい。


金子玲介

コメント・感想

まず、準決勝まで進ませていただいたこと、心より感謝申し上げます。
ブンゲイファイトクラブに応募したのは、以前から親交のある大滝瓶太さんや大前粟生さんが参加するなにやら面白そうなイベントがあるなぁとTwitterで見て、ちょうどその頃、繁忙期とその余波で5ヶ月も小説を書けていなかったので、6枚ならリハビリがてら書いて気軽に応募できるぞ〜と飛び込んで気付けばこんなやばいことになっていました。想像の十倍しんどく、想像の百倍楽しいです。あの雛倉さんにタイマンで競り勝ったのも実感が湧いていませんし、大滝さん冬乃さん鵜川さんひしめく死のAブロックをギリギリすり抜けたのも未だに実感が湧いていません。次の対戦相手は北野勇作?さん?ちょっと意味がわかりません(高みにいすぎて敬称をつけることすら逆に違和感があります)。
しかし、もう、優勝しか見ていません。初めから奇跡しか起きていないので、あと二回ほど奇跡を起こすだけ、と考えれば、いける気がしています。優勝したいです。
運営の西崎さん、ジャッジの皆さま、ファイターの皆さま、観客の皆さま、本当にありがとうございます。あともう少しだけ、共にはしゃがせてください。よろしくお願いいたします。

質問1 ブンゲイファイトクラブのこれまでの作品で一番好きだったのはなんでしょうか

蕪木Q平「来たコダック!」(文体の絶体絶命に圧倒されました。)

質問2 友人に薦めたい本を一冊あげてください

前田司郎『ガムの起源 お姉さんとコロンタン』(光文社/2011)(重厚な小説、という褒め言葉が存在しますが、その対極の最高峰と言える“軽薄文学”の傑作です。小説としての在り方がとんでもなく軽やかかつ伸びやかで、他の作家がどれだけ努力しても到達し得ない痺れるような浮力を獲得しています。)

質問3 最近感心したこと

10月30日放送の『水曜日のダウンタウン』で「濡れたナスとイルカの感触 一緒説」という説を検証した際、目隠し・ヘッドフォン・鼻栓をしたマテンロウのアントニーさんが手に触れたものが何かを答えさせられるのですが、まずカボチャを触り、「カボチャ」と正解し、次にニンジンを触り、「ニンジン」と正解し、最後にイルカを触り、「BIGナス」と答えたところで腹がちぎれるくらい笑ったのですが、なぜこのくだりがこんなにもおもしろいのか振り返ってみてもよくわからず(想定される「ナス」という回答をややズらす形で裏切る笑いであるのはわかるとして、英語で大きさを表現しただけでなぜこれほどまでに爆発的な笑いに転ずるのか)、まだまだこの世界には知らない笑いがたくさんあるんだなぁ、と深く感銘を受けました。


齋藤友果

コメント・感想

公募に出したり、小説の講座に通ったり、自分のサイトでこっそり公開したり、プライベートプレスを作って文学フリマで頒布したり、そのようなやりかたで小説を書き発表していて、あまり日の目を見ていませんでしたが、ブンゲイファイトクラブでは今まで味わったことがない密度の反応や、リングに上がらなければ邂逅しなかったであろう方々からの批評や感想をいただき、驚くやら嬉しいやらありがたいやらでずっと胸を高鳴らせているような状態です。
予想外のところで動揺もしています。いちばん意外だったのは、勝ち抜いてファイターがぐっと減ると心細いような気持ちに襲われること。どんなものを作っていたとしても制作中の孤独は多くの制作者が味わっているものかと思いますが、それとも違って、勝ち抜くとまるで取り残されたように感じる瞬間があるのです。スポーツなどのトーナメントでも選手たちはこのような気持ちになるのでしょうか。
わたしは誰も知らない孤独を見てみたいという欲求を持っているので、最後の一人になるつもりでおります。どうぞ見届けてください。

質問1 ブンゲイファイトクラブのこれまでの作品で一番好きだったのはなんでしょうか

伊藤なむあひ『跳ぶ死』です。こんなにかわいい死は初めて見ました。

質問2 友人に薦めたい本を一冊あげてください

フジモトマサル『終電車ならとっくに行ってしまった』
友人に本を薦めて成功した試しがないので、逆にこの本が好きなひとと友達になってみたい。

質問3 最近感心したこと

つくばエキスプレスの速さ。つくばまで近い!


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