見出し画像

0001

 私が「匍匐前進しながら敵国の銃弾をひらりとかわす国民的ナンバーワンアイドル」のモノマネをしながら賞味期限の切れた菓子パンを食べていると、突然クラスの男子が話しかけてきた。

「教科書、貸してくれない?」

 私はイグアナみたいな顔をしていたので、みんなからは「佐藤さん」と呼ばれている。

「いいけど」

「サンキュー」

 男子は私から教科書を奪うと、闇の彼方へと駆けて行った。

「ちょっといい感じじゃね?」

「そ、そんなことないって!」

「恥ずかしがるなよー」

 そうこうしているうちに、夜が明けた。

 世界には、朝にしか見えない色や、朝にしか聞こえない音がある。

 その美しさを知っているのは私だけだ。

「教科書、サンキューな」

「付き合ってください」

「はい」

 こうして私は男子と付き合うことになった。

 名前も知らない、あの男子と。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?