江古田リヴァー・サイド39
会場がどよめく。
これから売りだそうというバンド内の恋愛関係をメンバー自ら、しかもデビュー会見で暴露するというのは、それなりにスパイシーな光景だ。
どよめきの中、ZIZZさんが口を開く。
「このコ達、”アルコ・アイリス”のコンセプトは、『すべてから自由に』なんです。好き合う相手がたまたまメンバーだった、あるいは好き合う相手同士でバンドを組んだ。
そんなコトがあったって、いいんじゃない?
誰かを好きになるって、とっても素敵なコトじゃない?
なんで隠さなきゃいけないのかな…」
語るZIZZさんの声は、真剣だった。
遠い記憶を辿るようなZIZZさんのサングラス越しの視線が、玲さんの瞳を捉えると、ZIZZさんはニッコリと、力強く笑って見せた。
玲さんも、輝くような笑顔で返す。
なんだか神楽坂の夜以来、この二人には特別な絆が生まれたみたいだ。
司会者から質問が飛ぶ。
「えー…っと…という事は、”アルコ・アイリス”は恋愛自由、ということでしょうか?」
それにZIZZさんが答える。
「逆に、禁止しなきゃなんない理由ってなにかあります?
悪いコトしてるワケじゃないし、イイ大人が誰かを好きになるのに、一々許可を得なきゃいけないとしたら、ソッチの方がおかしいでしょ?」
モニタのブラウザ上に、コメントが流れる。
<やっべ、ZIZZ △ーーーーー>
<いや、古今東西、男女混合バンドの崩壊のきっかけは大体メンバー内恋愛のコジレだろ...>
<ZIZZってこんな恋愛脳だったん? スイーツ乙。>
<※(ry>
<あの馬はやっぱり馬並なの? あんな可愛い娘が馬の馬並に馬乗りになられてうわぁぁぁぁぁぁぁぁ!>
「うーん…やはり、バンド内恋愛による内部崩壊があり得るんじゃないか、という意見がありますね...」
司会者は、ZIZZさんの問いかけに、コメを拾って受ける。
「それは、大抵他のメンバーに隠れてコソコソ付き合ってた場合の話ですよ。あと、女の子メンバーの気持ちが固まってない場合にも、そういう事が起こる。
要は、覚悟の問題なんです。
『誰かを好きになる・愛する』という事。その人と、しっかり四つに組んで、一緒に生きていくっていう事。
恋の、甘い部分だけに魅了されてしまっているようだと、ちょっと問題ですけどね。
でも、ウチの二組のカップルは、そんな時期とっくに過ぎてる筋金入りの関係ですし」
ぽろっと、ZIZZさんが敢えて、バンド内のもう一組のカップルの存在を示唆する。
司会者は、当然のように食いついてくる。
「ZIZZさん、『二組』と仰りましたか? ということは、もう一組?」
仁美は立ち上がると、カメラを『キッ』と見据え、『カッチョいいバージョン』の笑顔で自己紹介を始めた。
サポート頂けましたら、泣いて喜んで、あなたの住まう方角へ、1日3回の礼拝を行います!