新しい理論物理学
「新しい」というぐらいだからその前に別の物理学が存在していたことになる。力学でいえば、ニュートン力学がいわゆる「古典物理学」ということになる。このニュートン力学が20世紀初頭に相対性理論(特殊相対性理論)と量子力学に取って代わられた。
といっても、ニュートン力学が「間違っていた」ということではない。ある条件では、ニュートン力学が成立しないケースが出てきた、という意味だ。光の速さぐらいで運動している物体を記述するケースと、電子とか原子とか非常に小さなスケール(ミクロ)の物理を記述するケース。
光の速さぐらいで運動している物体は相対性理論で記述しなければ、かなり大きな誤差が生じるのだが、日常でみられる運動程度の速さではニュートン力学のままでも誤差はかなり小さい。物理の世界では、このように「速さ」という条件を変えて理論がどうなるか検証することをよくおこなう。これを「極限操作」する、などという。まあ、難しく考えずに、ものすごく重くするとか数を増やすとか、今のように速度を大きくする、ようなイメージだ。すべての「新しい理論物理学」は極限操作すると「その前の物理学」に「一致する」ように作られる。こまかい式の変換などはしないが、興味ある読者は、特殊相対性理論が極限操作によってニュートン力学になることを初等数学を使って確かめることができるであろう。
一方の量子力学はどうか?さきほど、「すべての」「新しい理論物理学」は、と書いたように、当然、量子力学も極限操作によってニュートン力学に一致するはずである。ホントかな?
ここからはかなり専門的になるのだが、まず、運動を大きく2つの種類に分けて考えてみよう。1つは、周期的な運動。これは、振り子の運動に相当する。あの昔の振り子時計を思い浮かべてみてほしい。右左、右左、おなじタイミングでずっとおなじ右左を繰り返す。これを周期的な運動と呼ぶ。この周期的な運動をものすごーくミクロなレベルで考えてみることにする。量子力学では、そのようなミクロなレベルでは物体は「波動関数」という「波」で記述される(難しいと思ったらそういうものなのか、とか、川とか海に発生する波を思い浮かべてもいい)。その波動関数の「中心」に相当する点に注目すると、その「中心」の動きは振り子時計の右左の運動に一致する。
もう1つの種類の運動、これを非周期的運動(カオス)と呼ぶことにする。勉強家の読者は、あーあの三体問題のやつか、とか想像したかもしれない。まさにその運動のタイプ。あるいは映画好きな方なら、バタフライエフェクトに関係したやつか、とか、ジュラシックパークで数学者が手の甲にたらした水滴の運動を「カオス」といっていたのを思い出したかも。まあ、簡潔にいうと「でたらめな」運動ということになる。振り子時計のように全く同じ運動を繰り返す、という運動とは真逆の、同じことは二度とない(空の雲が全く同じ雲にならないのと同じ)運動だ。
運動の種類によって、新しい物理学が古い物理学に一致したりしなくなったりする、ということはあり得ないのだが、よくよく調べてみると、運動がカオスの場合、量子力学とニュートン力学の相性は全くよくない。
さあ、話しが難しくなってきたこのあたりで今日はおしまい。次回は、この「量子古典対応」についてさらに深堀りしてみよう。
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