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カントリー・マアムが食い残せねえ

パソコンデスクに蟻が、集っていた。俺はしかめ面をしながら机の上のファンタをごくりと飲んで、いや、違うだろ、この場合ファンタは原因であって。予想は当たっていて、ほぐした葡萄の果肉のようなほろ苦い感触が俺の口の中を席巻した。果肉入りファンタってあったよなと思いながら俺は込み上げてくる胃液ごとごくりと飲み干した。この数日間で俺は嘔吐という生理現象に順応した。蟻だけじゃない、この家は色んな生き物との共生で成り立っている。天井にはネズミが走り回ってるし、元の住人の趣味なのか、部屋の隅の水槽ではミドリガメががさごそと壁の縁を這いあがろうと足掻いている。「直近の課題はネズミだな」俺はそう呟いて、買ってきた殺鼠剤と、カントリーマアムをスーパーのレジ袋から取り出した。こいつの大まかな機序は、人間が飲む抗凝固剤と一緒で、ネズミの血をサラッサラにして多量出血で殺す。こいつ自体の餌としての価値はあまりない。カントリーマアムのかけらに仕込んで殺鼠剤ごと食わせる。それが田舎暮らしで学んだやり方だった。カントリーマアムの袋を開け、小袋を開封して俺はため息を吐いた。小さすぎる。一口かじって残りを使うつもりだったが、これじゃかじる余裕がない。余裕のない時代になったもんだ。俺はそう思いながらカントリーマアムを半分に割り、殺鼠剤をそこに突っ込んだ。風呂場に行き、換気扇をこじ開ける。祈りを込めてなるべく奥の方にカントリーマアムをねじ込んだ。一息つく。
「……待てよ」戸棚を開けて、お薬手帳を確認。案の定ワルファリンが含まれていた。そうだよな。心臓発作を一回でもやってたならこいつは一生飲み続けないといけない代物だ。「じゃあ殺鼠剤、買わなくてよかったじゃねえか」いずれ部屋の探索が進んだら出てくるのだろう。いい加減目を逸らすのをやめて取り組むべきだろう。死体を始末しないといけない。バスタブに沈んだ、腐りかけの元住人を。
【続く】

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