あのゲイは東京に呼ばれたの

僕の地元は千葉県の千葉市であり、東京に出るまでに車でも電車でも1時間とかからない。
だから初めて東京で遊んだみたいな記憶も、多分中1とかであったし、大人になってから、東京ってすげえと思うことはあまりなかった。
いつでも行ける距離だったし、正直東京にあるもんは大体は千葉にもある。いや本当に本当に。田舎者の負け惜しみとかじゃなくて。
いやいやお前らんとこには東京タワーもスカイツリーもないじゃないか、みたいな声も当然あるだろうが、そんなこと言ってくるやつにはディズニーランドをお見舞いしてやる。次にディズニーシーでボディいって、弱ったところに船橋アンデルセン公園でとどめっすわ。完全にノックダウンした横で優々とピーナッツつまんでやりますわ。すいませんね、自分手加減とか教わってこなかったんで。(サングラスの下から上目使い)

このままだと、東京との戦争を視野に入れているただの地元大好きシャコ短フルスモークだと思われかねないので、一応別の言い方もさせてもらうと、これはまあ住めば都なんて言葉があるしどこの土地でも当てはまることではあるのだけども、東京には外から見た景色よりも、内側に住んでみて初めてわかる魅力というものがある。
東京タワーやスカイツリーみたいな、建造物や有名スポットなんかでは非にならないくらいの魅力。
そのうちの1つを、僕は東京に集まる人間達から感じるのである。

東京に住めばみんなすぐに気がつくと思うのだが、東京東京言いましても、実際のところ、純粋な東京育ち東京生まれの人間に出会うことはあまり多くはない。もちろん東京生まれヒップホップ育ちの人間ともなかなか巡り会わない。悪そうな奴は大体友達な人間とはたまに会うが、それもまた東京出身の人間はほぼ見ない。ZEEBRAは東京出身らしいけど、あの人に関してはもはや本当に実在するのかもわからないのである。恐らく実在しないと思っている。
要するにほとんどがお上りさん。
そりゃ東京って言ってんだから、東京出身の人間もめちゃめちゃにいるはずなのだが、どういうわけか、どこに姿をくらましているのかわからないが、東京はお上りさんで埋め尽くされている。完全に僕個人の今までの統計からとっているので、絶対にそんなことはないとしても、事実として東京で出会ったそのほとんどは、地方からのお上りさんなのである。
そして、僕の言うところの東京の魅力とは、このお上りさん達の人生から形成されているものなのだ。

昔うちの社長(畠中)から薦められてとても感銘を受けたのだが、谷川俊太郎の東京バラードという詩をご存じだろうか。
お上りさん達の人生から形成されているなんて言っても、なんだかうまいこと言葉として表現しきれていないなあともどかしさが残ってしまっていたのだが、この詩の中の言葉が、東京の魅力を感じる為の最短距離を導いてくれていると感じることが出来る。

東京では 空はしっかり目をつむっていなければ見えない

東京では 夢はしっかり目をあけていなければ見えない

まあまあ、感じ方は人それぞれであるので、谷川俊太郎本人の意思だとか、他の人がこの詩からなにを感じ取ったかとかは、僕の思うところと多少の差異はあるかもしれないが、僕はこの詩こそが、東京の魅力を表すのに最適な言葉達であると思えてならないのである。
東京に憧れ、集まり、落ち込み、喜び、散り、または叶う人々の哀愁やらなにやらが全て詰まっているように感じるのだ。

つまりは、東京の魅力とは東京で夢を追いかけ奮闘する人々の生きざまのことである。
もちろん僕自身もそうであるが、東京で夢を叶えようともがいている人に触れることで、ああなるほど、こりゃさすがの千葉県も敵いはしないなと思うのだ。千葉県にもそういう人はいるでしょうが、圧倒的に人を集める力が違う。そこはもう泣きながらピーナッツつまむ以外ないんですわ。
地方から夢を叶いに来ている人間の数だけで言うと、東京は他の追随を許さないのである。

福岡に営業に行かせて頂いた際にも、今まさに東京の魅力に引き寄せられようとしている方に出会った。
ライブが終わり、福岡の旨いもんもしこたま食わしてもらって、もう少しだけ福岡を満喫したいなあと、ダイタクの拓さんという先輩と街を練り歩いていると、2人組の女性に声を掛けられる。

M-1見ました!面白かったです!これからも頑張って下さい!

とてもありがたい言葉を頂いた。
多分みなさんが思っているよりも、あんな風に街で見つけて声を掛けてくれることは、少なくとも僕にとっては励みになっている。
少しだけ会話をした後、そのまま拓さんと朝まで飲んだ。
その次の日。
昨日声を掛けてくれた2人組のうちの1人の方からDMが届いた。
要約すると、自分も歌手を目指していて、今度東京でオーディションがあるので頑張りますとのこと。
普段は、リプやDMに対して、照れちゃったりなんだりであまり返せないことも多いのだが、実際に顔を合わせた人から、自分と同じように東京で戦っていこうとしている事実を告げられ、どの立場からわからないが激励の返信をさせて頂いた。
それから2週間程経った頃、その方からもう1度DMが来た。

今オーディションで東京に来てます。どうなるかわかりませんが、精一杯やってきます。

これもなにかの縁だと、また激励の返信をさせて頂いた。たった1度顔を合わせただけなのだが、1人の人間の人生が大きく変わるかもしれない瞬間に携われていることに、なんというかとても魂が震える感覚を覚えた。
それから何日かしたあと、また彼女からDMが届いた。

合格しました!今度また東京で収録させてもらいます!

たった1度顔を合わせただけの女性の吉報に、ガッツポーズをとる日が来るとは思わなかった。
残念ながら、コロナによって収録は延期となってしまったのだが、僕も頑張っていつかなにかの仕事で一緒になれたとしたら、こんなに素敵なことはないであろう。
これもまた、東京に魅せられた結果であり、東京の持つ魅力へと繋がっていくのである。

そんな東京の魅力の源ともなる、夢を持つ人間の奮闘に触れる中で、最も忘れられない人間が1人いる。
新宿2丁目で出会った、ゲイバーの新人である。
僕は、彼女との出会いが、今でも鮮明に、脳裏にこびりついて離れないのである。

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