嗚呼、ステルス戦闘記

緊急事態宣言が解除され、まだまだ安心は出来ない状況ではあるにせよ、我らが吉本興業でも、劇場での活動が再開されることが発表された。
まずは無観客配信から始まり、今月の後半からは、以前のような満席での公演は難しくても、観客を入れた公演の開始も予定されている。
わかっちゃいたが、これにはさすがの伊藤ちゃんもジャンピングガッツポーズを取らざるを得ない。
必要とあればカズダンスの追加も視野に入れている始末である。

言うまでもないが今回ばかりは、全人類が今までの生活の中に確実に感じていた当たり前の日常について、強制的にそのありがたみを再認識させられたのは間違いないであろう。
こんなにもコマンドを限定された経験なんてなかったはず。
言ってみれば、今まで無限にあった入力ボタンが片手で全部押しきれるくらいに絞られた感覚。
このnoteもそうであるし、探してみりゃ意外とまだこんなとこにボタンついてたんかいみたいなことはあれど、今まで無意識に押していたボタンを押せなくなることのストレスは半端ではなかったし、今まで無意識に出していた昇龍拳を、もう1度出せる日を夢見るばかりであった。

自粛中、そんな当たり前だった生活を思い出し、ダラダラと涎を垂らしたりもしちゃったりなんかして、やっぱり今まで出たライブを思い返してみたりなんかしちゃったりもした。
そして今、そんな数々のライブを思い返しながら、あれが当たり前として存在していたこの異常な職業に、改めて倍の量の涎を垂れ流している次第なのである。

この春に芸歴9年目を迎えた我々オズワルドであるが、TVやメディアにも数える程の出演数である僕らの礎となっているのは、現時点では間違いなく、ライブ活動からくる経験であったり、交遊関係であったりであることは間違いないと断言出切る。
もちろん、その全てを活かしきれているのかと問われれば、今そういう話じゃないじゃんと苦笑いを浮かべることしか出来なくなることも、これまた間違いなく断言出切るのである。
というか、今売れている同期や先輩や後輩も、ほとんどの芸人が最初のうちはその気構えであったはずなのだ。
ただ、個人的に1つ自負していることは、出ていたライブの幅の広さのみで言った時、自分達で言うのもなんだが、我々オズワルドは少し異質な経歴に分類されてくるという点である。

というのも、オズワルドは東京吉本に所属している芸人であるのだが、たまに、あれ俺達ってホームどこになるの?となるくらいに他事務所のライブにも出まくっていた。それはそれは出まくっていた。
元々は、僕が自宅に水爆持ってる奴くらいびびり倒している先輩であるゆにばーすの川瀬名人からの助言で、様々な客層の前でネタを叩くことを目的に出始めたのがきっかけである。
ものすごくわかりやすく言えば、大阪と東京のお客さんではなかなかに笑いのツボはずれるし、年齢性別会場の雰囲気によっても、同じネタでも大分反応が変わってくるので、その差を埋めるのに1番手っ取り早い方法であったと言える。
最初のうちはエントリー制の誰でも出れるライブに出て、そこから交遊関係が広がっていき、多方面の芸人さんにライブへと誘って頂けるようになった。
その頃には、どのライブに出ても絶対に知ってる芸人がいたし、ライブに出してくれとか言っといてあのライブには出ますがあのライブには出ませんなんてバカな話ないと思っていたのもあって、もはやネタをやらないコーナーライブにすら出るようになっていた。
当初の目的とはかなり異なるが、シンプルにめちゃめちゃ楽しかったのでなんの問題もなかった。

牛女という、東京のアンダーグラウンドライブにその名を轟かす変態コンビがいるのだが、この牛女が主催していた、阿佐ヶ谷商業会館という施設の和室を借りて行われていた朝9時から夜21時まで開催されるコーナーライブがあった。
この『牛女キャンプ』という、観ている方も観られている方も気が狂っているとしか言いようがないライブに、僕は途中から参加させてもらっていたのだが、内容においても当然気が狂っていた。
もう普通にnoteでも書けないようなコーナーもあったのと、文のみで説明することが不可能なコーナーもあったので、どうにかここで説明することが可能なコーナーを選ぶとするならば、『キャプテン翼ジェンガ』である。
タイトルがこれであっていたかどうかはうる覚えであるが、内容はバッチリ覚えている。
アニメ、映画、CMなど、いくつかのキャプテン翼のコンテンツの中から選び、その動画が再生され、日向小次郎が登場するまでの間に誰が1番ジェンガを高く積み上げられるかを競うコーナーである。


コーナーとして成立はしているのだが、僕はこのコーナーのある点に狂気を感じた。
コンテンツによって日向小次郎が現れるタイミングは異なるわけなので、当然板付きで日向小次郎がもういるなんてコンテンツもある。
再生した瞬間に立ちはだかる日向小次郎に睨み付けられ、ジェンガを1ブロックもおけないという結果になるわけなのだが、これが盛り上がる理由はわかる。
が、逆に日向小次郎がなかなか現れないコンテンツも用意されていて、完全にジェンガを全て積み上げられる人間が出てくるのである。
本来ならばここでそいつのターンは終了するべきなのだが、牛女キャンプでは、もう積めないジェンガを目の前に、勝ちが確定したまま日向小次郎を待つ時間が設けられていた。
正気の沙汰ではないと思った。
絶対に日向小次郎を待つ必要がないのである。
それでも、演者と観客が、ルール上終わりを告げる役割である日向小次郎を待つ時間は、狂気の中に、あるはずのない期待感と一体感が溢れていたのだ。
当時の僕からすると衝撃的なコーナーであった。

他にも様々なライブがあったが、こういったライブに吉本の芸人が参加することは極めて稀であり、今でも本当に楽しかったしいい経験をさせて頂いたと思える。
間違いなくこの世の全てのライブに出たわけではないので、あくまで個人的になんとなくではあるが、吉本のライブとこういった他事務所のライブはかなり色が違っていて、僕の中では吉本が白いライブが多く、他事務所は黒いライブが多いイメージだった。これは面白さの種類のイメージであり、どちらがいいとかではなく、少なくとも僕にとってはどちらも必要であったと、今になって強く思うのである。

だがしかし、吉本のライブの中にも、黒というか、ほぼ暗黒に近いライブはいくつか存在していた。
その中でも特に印象が深いライブが2つある。
1つは、カゲヤマさんといぬさんという先輩と3組でやっていた『のぼり三本』というユニットコントライブ。
そのライブ中にやったコーナーがかなり狂っていた。が、このライブに関しては別の観点からの問題もかなり生じていたので、のぼり三本で1つの記事を書く日を改めて設けさせて頂く。

もう1つは、『ステルス戦闘記』というライブ。
今回は、今は亡きこの暗黒ライブについて書かせて頂く。
僕はこのライブをこよなく愛していた。
本当に嘘みたいなライブだったので是非読んでみて欲しい。

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