誰がJEPX高騰を引き起こしているのか

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昨日ツイートした、JEPXの価格形成の歪みについて、もう少し掘り下げてみたいと思います。
まずは、こちらのグラフをご覧ください(経産省1月15日資料より抜粋)。
これは、市場において、売りが枯れた場合のJEPXの需給曲線(赤が供給、青が需要)です。
通常時、JEPX価格は需要曲線と供給曲線の交点で決まります。
需給を付き合わせた交点の価格でスポット取引がなされ、それよりも高い売値、低い買値は約定せず時間前市場に持ち越されることとなります。
ところが、売りが枯れた場合、供給曲線は垂直に立ち上がり、その時点での買い指値の価格でJEPX価格が決まるシステムとなっているのです。

ここで一つ大きな問題があります。
この垂直に立ち上がった交点では本来、価格決定のプロセス上売り玉がない訳ですから取引を成立させることは不可能です。
にも拘らず、その価格が全市場参加者の取引価格となる。
実際は取引が成立していない価格で買い手側は強制的に電気を引き取らされるのです。
かたや、市場参加者は全員小売電気事業者として、インバランスを規定量以内に収める義務を負っています。
それは何を意味するかというと、「買わない」という選択をすることが出来ないということです。
そのため、必然的にシステム管理者は、事前の計画値に相当する量を、確実に買えるであろう指値でシステムに発注することとなります。

JEPXのビッグプレイヤーは言わずもがな地域電力です。
特に売り手側としてのボリュームは絶大で、彼らの売りがあるからJEPX市場が成り立っていると言っても過言ではありません。
そして彼らと対になる送配電は、小売電気事業者のインバランス発生を取り締まる「警察」の役割を果たしています。
この状況下で、大量に高値で買いを入れるとどうなると思いますか?

新電力の担当者が当然買えると思っていた価格で、予定量の8割しか買えていない!
まずいと思った担当者は、時間前でなんとしてでも調達すべく、更に高い価格で買い注文を出します。
当然、前日の価格に合わせる形で、翌日のスポット入札価格もより高い価格へと変更するのです。
このプロセスに選択権はありません。インバランスを出し続けると免許が飛んでしまうのですから。
そして翌日、流石に買えるだろうと思った価格でまた買えていない!
こうなるともう地獄です。
自身の買いが約定単価を釣り上げ、他の小売電気事業者の買い指値を釣り上げる負のスパイラルの完成です。

私は今回の件、売りを絞ったのが原因ではなく、買いを大量に入れたのが価格高騰の原因であると思っています。
勿論、需給逼迫の状況下で売り物が少なくなったのは事実ですが、OCCTOから広域融通の指示まで出ている状況下、意図的に供給を絞るような真似は流石にやらない(やれない)と思います。
ただ、買い手側の行動としては別です。
地域電力も、見方を変えれば一小売電気事業者で、当然インバランス発生を制御する義務を負っています。
グロス・ビディングでの不足時における高値買戻し容認も相まって、インバランス発生を防ぐ目的での買いを入れる「大義名分」を彼らは保有しています。
その大義名分に基づき、全量買い切れないことを想定しながら、高い価格で彼らは買い注文を出すわけです。

より大量の買い注文を入れれば入れるほど、供給曲線の立ち上がりは早くなり、JEPXの約定単価は上振れします。
それが意図したものであろうとなかろうと、彼らほどのビッグプレイヤーならば、自分の行動がどのような結論に結びつくかは容易に想像がつくはずです。
全市場参加者が、シングルプライスで取引することを知りながら、市場外にスポット価格と相関性のある大量の取引を持つプレイヤーが、全約定しない大量買いを連日続けるというのは、公正な価格形成を阻害する行為であり、価格高騰に対する未必の故意があるとみなされても仕方がないのではないでしょうか?

これはデータからも読み取ることが出来ます。
価格が200円や199.99円で何コマも張り付くというのは、到底約定しきらない大量の買い注文が連続して入っているから起こる現象でもあります。
インバランス上限が200円に決定し、インバランス発生抑制は現在の状況下で形骸化している今、多くの事業者にとって、その価格でスポット買いを入れることは支払いのターム含めて経済的合理性のない行動ということになります。
では、誰の買いで価格が高騰しているのか?
その答えを確認したいからこそ新電力各社があのような要望書を出すに至ったのではないかと思っています。