新電力経営者の徒然なるままに

新電力の経営者としてのバイアスを除いた公平な観点から今回の電力価格高騰についてコメントしてみたいと思います。
 ちょっと(いやかなり)長いのですがお付き合いください。  

まず今回の件、私は調子に乗り過ぎた新電力に対する地域電力及び一般送配電からの強烈なしっぺ返しだと思っています。
考えてみてください。新電力はその器の全てを地域電力及び送配電に頼っています。
送配電がコストをかけて整備したインフラを使い、いざという時の供給義務を地域電力に負わせた上で我々のビジネスは成り立っているのです。
それに対し、新電力側は託送料という最低限の費用は負担していますが、その他のメンテナンス及び、インフラを維持する費用は何も負担していません(それを小売り各社に負担させる仕組みが2024年から始まる「容量市場」です)。
 いざという時のセーフティネットを求めるのならば、預金保険機構のような業界団体を設立し、各々がセーフティネットのコスト負担をするべきだという意見を見かけましたが、尤もな話だと思います。
 その手厚い庇護の下、電力価格の低位安定をいいことに、極端な低価格や低位の入札で地域電力からバンバン契約を奪っていけば、彼らはどう思うでしょう?
これ、他業種なら間違いなく潰されますよね?
 何のことは無い。インフラ事業という特殊性を除いた市場原理に照らせば起こるべきことが起こっただけです。
抑々、何十年も前に償却が終わった水力発電所や原子力発電所を保有している地域電力と、何もリソースを持たない新電力が正面から価格競争をして勝てる訳がないのです。
我々は地域電力及び、送配電の掌の上で生かされている存在に過ぎません。  

本来ならば、電力自由化の入り口で、そのような現状を踏まえて適正な競争と、互いが共存共栄できるような骨組みをもっと議論すべきだったのでしょうが、理念だけが先行した結果、700社以上の新電力が乱立しているにもかかわらず、JEPXの登録企業として需給管理まで含めた社会インフラとしての責任を担える会社は200社強という歪な構造が生まれてしまいました。
 言葉を選ばず言うと、電力供給という生活の根幹を担うに値しない新電力もたくさんあると思っています。
私は以前から新電力の統廃合は消費者保護の観点からも必須だと考えており、何らかの強制力をもってしてもそれは実現すべきであるとは思っておりました。  

ただ、それらを前提にしても今回の結果はあまりにもハードランディングが過ぎるのではないかと。
今回の価格の異常高騰はLNG不足が直接的な原因ではありません。
偏にマーケットの価格調整機能の不備であり、システムやプレイヤーを含めたJEPXの構造的欠陥であると思います。
それにより新電力各社に立ち直れない程の深い傷を負わせ、真っ当な経営をしていた企業を死に追いやる。
 電力小売自由化の結末がこれならば、最初から地域電力の寡占のまま置いておくべきでした。
今後新電力各社は今までのような市場リスクを取ることは不可能になります。
必然的にカバーコストが増え、それは0.1円の単位で地域電力と鎬を削る新電力にとっては致命傷となるでしょう。
 そしてそこに追い打ちをかけるように始まる2024年の容量市場。
自社電源を持たない新電力には緩やかな死しか残されていません。

 ただ単に新電力が倒れるだけならばまだ良いのでしょうが、それらの多くは、再エネ企業と資本的に結びついています。
 今後国内で再エネ事業を遂行するためには新電力の受け皿が必須となるためです。
 この時点で新電力の活力を削ぐことは、日本における再エネ導入促進の芽を摘むことと同義であると思います。
 京セラやNEC、JFEプラントエンジなどの大企業が冠になろうとも、現場で杭を打ち、結線をするのは地場のEPCの職人なのです。
産業振興の観点から、今後の再エネ導入の礎となるような企業が今回の一件でバタバタ倒れたらどうなるでしょうか?
 経産省及び地域電力の皆さんにはその辺りを深く考えていただきたいです。
 そして新電力は、今までの杜撰なリスク管理を見直した上で、インフラ企業としての自社の方向性を再検討する必要があると思います。

 「損して得取れ」
私の好きな言葉なのですが、電力事業に携わる皆が皆、少しづつ損を取る覚悟があればこの業界はもっと良くなるような気がしています。