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並行書簡-17

 さて、本日は、どのような、ご用件でしょうか。ご用件がなくては、来てはいけない、ということは、ありません。ご用件が、あっても、なくても、違いは、ありません。書きたいなら、書く。書きたくならない時は、書かない。私は、書くという、状態が、好きだ。この“書く”には、“読む”という、“おまけ”が、もれなく、ついてくる。この、“読む”は、またの名を、“聞く”と言う。聞かずに書くなど、ありえない。必ず、聞き取って、書くからだ。“聞く”と、“書く”は、同時であることがほとんどだが、全てではない。聞き取った全てを、その通りそのまま“書く”わけではない、ということだ。とはいえ、私はここまでの三百字近くを、結局、聞き取ったそのままを書いてしまっている。それは、あくまでも、“今のところ”の話ですよーーというわけである。
 こうして書いていると言葉は勝手に出てくるもので、いくら書いても、基本的には、書ける。それでも、筆が止まることが、全くないというわけではない。止まることも、そりゃあ、あるだろう。しかし、「あるだろう」と言っているくらいだから、実際に、こうして止まらずに書けている最中の私には、筆が止まるウンヌンの話が、どうにも、よそよそしい。他人事なのである。
 これは、いわゆる、“同一性”という言葉で、よく話題になる事柄なのだろうか。たしかに、私は、筆が止まったことが、ある。今日は、なんだか、止まらずに、ここに至るまで、走りっぱなしだが、止まった経験は、ある。『小説風日記』の第三章を読めば、やれ「筆が止まった」だの、「そう書いたら走り出したのもなんだかおもろいなぁ」だの、“証拠”のオンパレードである。
 しかし、それはそれ、これはこれ、というのが、今、私が書こうとしていることだ。
 かの第三章で、止まったり走ったりしていたのも、私だと、私は思っている。「あれは、私じゃない!同姓同名の、別の人物だ!」などとは、思わない。私は、病んでいない。
 同時に、私は、当時の私に、全然共感しない。「うん、それ、オレだよ。うんうん、止まったり、走ったり、してたよ。」

 はい、ここで、突然ですが、本日初めての、筆が止まった箇所の、発表です。それは、前段落の最終部分の、「してたよ」の直後で、「。」を打ち、私は、筆が止まりました。つまり、セリフの続きが、出てこなかったのです。
 考えてみれば、当たり前の話である。私は、「私は、当時の私に、全然共感しない」ということの説明として、そのセリフを書いていたのである。「共感しない」ことは、書けない。それ以上に、書けてはいけない。私は、それが書けてしまったら、今回の、この人生で、生まれてきた意味が、なくなってしまう。
 私は、自分自身の意思を、そっくりそのまま、言語化しなければ、ならない。ズレたら、死刑だ、などと、甘えたことを言っても、いけない。死ねばチャラになる、という発想は、甘えどころか、単に、勘違いである。なぜなら、死のうが、生きようが、同じだからである。
 “生”と“死”は違う、と主張する者は、言葉によって分けられた後の状態だけを、注視している。私は、違う。言葉によって分けられる以前の領域においては、違いなど、ない。“生”も“死”も、違わない。
 私は、あの世とこの世を、くっつけたいと、思っていた。『小説風日記』にも、そんなことを、書いた。引用してみよう。

【引用始め】 私は「(視座が)上がる」という言葉から、「(仏たちのいる世界、すなわち『お空』に)上がる」を連想する。そこには、今までに地球に遊びに来て戻っていった全ての存在たちの「データ」がある。私はそこにアクセスする能力をとにかく磨きたい。私たちはそこから来た。なんとしてでも、私は生きている間に全てを思い出す。【引用終わり】

 それらしいところは後日出版を持って公開の第四章だったので、第二章の、似たような雰囲気の記述を引用した。
 この男は、「お空」を、どこだと思っているんだろうか。どこから、「お空」なんだ?
 私は、今、部屋で、寝っ転がって、スマホでこれをポチポチ入力しながら書いている。この空間は、まるごと、「お空」だ。そして、まるごと“大地”だ。
 「お空」に、上空何メートル以上、などという決まりは、ない。あったとしても、他人が決めたそれに、従う必要は、ない。私がないと言えば、私には、ない。私に、「お空」の、厳密な定義は、ない。だから、ここも、「お空」だ。そして、建物の中とはいえ、ここは、“大地”でもある。
 私は以前、「“天”と“地”を結びたい」と言っていたが、今はまぁ、気持ちは、わからなくはないけど、でも、まあ、そもそも、別のものじゃないのよ、おニイさん?ーーぐらいの気持ちに、なっている。

 私は、以前の私に共感できない私を感じて、あぁ、よかった、ちゃんと、成長できてるなぁ、と思って、来る日も来る日も気持ちよくなり、その点だけは、いつまで経っても、なんにも変わりゃしないという、なんだか、複雑でも単純でもあるような、そんな奴だなぁ、と私は思っている。

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