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バンドやろうぜ!というゲームアプリがくれたもの

2018年5月22日の深夜、風呂に入っている間にバンドやろうぜ!のことを考えていた。シャンプーを濯ぎながら過った詩が、誰の詩だか思い出せないまま風呂から上がる。明日出す予定の可燃ごみをまとめて……ごみ袋を玄関に放り投げて、ふっと思い出した。確か嵯峨信之という詩人の野火という詩の、こういう結びだ。  

“たれに記されることもなく燃えさかりそして消えてしまうものは尊い”  

ねえ、これではまるでバンドやろうぜ!のようではないですか。いま、バンドやろうぜ!はその限られたいのちをもやしています。そして消えてしまう。バンドやろうぜ!は尊い。ねえ、これではまるでバンドやろうぜ!のようではないですか。  

ところで、あなたは尊いという言葉をご存知ですか。価値が高い、大切だ、貴重だ、という意味の言葉です。  

バンドやろうぜ!が尊くなければ、一体他のなにが尊いというのでしょう。バンドやろうぜ!はかけがえのないものを私たちに与えてくれました。先週、バンドやろうぜ!の更新停止が発表されたその日。席を立てず画面をぼーっと見ていた私は、会社の隣の席の人にバンドやろうぜ!が更新停止してしまうということを伝えました。彼は私がバンドやろうぜ!をプレイしていることを知っていたから。

彼はモニタを見つつキーボードを叩きながら言いました。他に何かバンド系のソシャゲあるんじゃないですか?と。  

そうだね、でも最近はアイドルが多いからどうだろうね。と笑うことしかできなかった。どうしてそこで、バンドやろうぜ!は替えがきかないんだよ。と、正直にひとこと言えなかったんだろう。  

会社にいって仕事をして、休みは家のことをして……その繰り返しの中で、ある時に僅かに差した光がバンドやろうぜ!だった。2017年のハロウィンのイベストで、七瀬一真の首が取れて——確か会社の帰りのバスに乗っていた時だった——私は、すごくおかしなゲームをダウンロードしてしまったぞと思ったことを鮮明に覚えている。そこからもう1年と半年も、おかしくて楽しいこのゲームと一緒に過ごしてきて……僅かに差した光だったはずが、気付けば確かに心へ灯る炎となっていた。  

バンドやろうぜ!は、1部をクリアすると「あるアイテム」が貰える。各バンドの「音楽魂(スピリッツ)」と呼ばれるアイテムだ。何に使うものかどうかは分からない。公式から提示されているわけでもない。恐らくは「何にも使わないアイテム」なんだと思う。ただクリアしたことを示すだけのアイテムなのかもしれない。  

それは、実態のないデータだ。しかし、アイテム欄に在るだけではないものであることも確かだ。入手したとき、自分の心にそれぞれの色の炎が灯ったような、そんな気持ちにすらなった。真っ暗な背景、手前に表示されるウィンドウ、中央に確かに灯る画像データ。それらは本来、形に残るものではない。  

さりとて、記憶に残りつづけさえすれば、語られ続けさえすれば、もうこの世から消えることはない。  

「音楽魂(スピリッツ)」はもう“此処”にあるのだ。  

劇中で、ユーゼスというボーカリストが言った。
「音楽は聞いた人のものだ」
その言葉を借りよう。譜がそうだと仮定して、詩だってそうだと仮定して。  

“たれに記されることもなく燃えさかりそして消えてしまうものは尊い”  

という結びは、私にとっては、  

“バンドやろうぜ!は、音楽魂は永遠だ”  

という意味だ、ってことにしたっていいはずだ。

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