TSUCHIGUMO~夜明けのないまち~ 03
03
何分くらいそのまま座っていただろうか。
気色悪い。
たったその一言で勇助は意気消沈していた。
幸い、赤池が何と返答したのかわからないので悲観することは無いのかもしれないが、友達からあんなふうに言われてしまったらイメージダウンは免れない。
ダウンするほどの印象が、そもそも自分にあるのかは別として。
怒りに任せて机に拳を叩きつけた。体が震え、変な汗が出て、今にも泣きそうだった。机から拳を離すと、じわじわと痛みを感じてきた。関節部分の皮が赤くめくれて血が出てきた。格闘技なんてやったことのない、貧弱で臆病な、薄っぺらい拳。
勇助はよろよろと立ち上がり、肩を落として学校を後にした。
梅雨の時期だ。外はじめじめしていて、引いた汗がまた浮き出てきた。嫌な気分だ。
赤池は俺のことをどう思っただろうか。
気になって仕方がなかった。あの後、友達に対して赤池は何を言っただろうか。何を思っただろうか。
ズボンのポケットの中でスマホが震えた。メールが届いていた。よく活用しているゲーム販売サイト経由だろう、ニューフロンティア・コーポレーションというメーカーからのPRだった。
こんな気分の日は、ゲームでもして気を紛らわせたほうがいいな。
歩きスマホにならないよう、路上の自販機に体を預けて文面を読んだ。
【話題の新作! MMOホラーゲーム『TSUCHIGUMO~夜明けのないまち~』とは?】
そんなタイトルだった。MMOホラーゲーム?
【今作は、世にも珍しいネットワーク対応型MMOホラーゲームです。PCとネットワーク環境があれば、世界のどこにいてもプレーヤーであるあなたを恐怖のどん底に強制連行し、誰とでも恐怖体験をリアルタイムでシェアすることが可能な……(以下略)】
少し文面が長かったので、勇助は画面をスクロールさせていく。社長自らがテストを重ねて開発した超画期的な新システムが導入されているとかなんとか書かれていた。
MMOといえばMassively Multiplayer Onlineの略。ネット環境を利用し多人数のプレーヤーが同時にプレイできることを意味する。イメージするならオンラインの『モンスターハンター』みたいに、一つの舞台に個々のプレーヤーが集い、各々自由にプレイしたり、協力プレイをしたりできるシステム。特にロールプレイングゲームとの相性が良い。
『TSUCHIGUMO』は、そのホラーゲーム版ということだ。
正直全然イメージが湧かない。勇助はそもそもホラーゲームすら怖くてやったことがないので、それがMMO化したと言われてもピンとこない。
怖いのは苦手だ。ホラー映画も観たくない。夏のテレビの心霊特番だって、目に入ったらすかさず避難する。
ホラーゲーム。
その名前が出た時点で、スマホをポケットに突っ込んでしまえばよかったのだ。
いつもならそうしただろう。
「あれ、これって……」
思わず声を漏らした。ハッとして周囲を見回すが、近くを歩く人は誰もいない。
勇助はそのゲーム『TSUCHIGUMO』の公式サイトに進んでいた。そこにはゲームの簡単な説明と、リアリティのあるCG画像などが掲載されていた。そして恐怖感を煽るような、ゲームタイトルのロゴ。
背筋をぞわぞわと何かが這い降りていくような感覚。背中に手を当てがいつつ、勇助は気づいていた。
間違いない。さっき教室で話しかけようとした時、目に入っていた。これと同じ画面を、赤池がタブレットで見ていた!
勇助は急いで帰宅するべく走り出していた。
夕焼けの空には目もくれない。
二度と太陽が拝めなくなるかもしれないのに。
お支払いとか、お礼とか、こちらのボタンからできます!