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四つ打ちの美学と時間の芸術 (((さらうんど))) / After Hours

(((さらうんど)))が新譜『After Hours』をリリースした。元から好きなバンドだが、この2~3年は特に彼らの音楽性がグッとくる。とくにXTAL『Guitar Esuquisse Volume One』や『Aburelu』、Jun Kamodaの「Escape The Night」や〈JUN RECORDS〉としての活動には影響されっぱなしである。7年の時を経てリリースされた本作には、”クリスタル”な質感のシンセ、浮遊感のあるアシッドベース、有機的なエフェクト処理が統一感を保ちながら混在している。そして、焦らすように抜き差しされるビート。幻想の中のダンスフロア。

本人らがソリッドな作品になった、と言うように本作は抑制の効いた構成が練られている。思うに製作初期のプロジェクトファイルは、もう少しトラック数も多かったのではないだろうか。こうした感覚は2020年7月にリリースされたXTAL「A Leap featuring Achico」で既に見られる。キックのないハウス・ミュージック。

話が逸れるが、私はクラブにおいて何よりも朝焼けの帰り道が好きである。だが、実際には朝焼けなんてほとんど見られないし、渋谷の朝方は嘔吐物の匂いが充満している。身体は重く、タバコの匂いが塗り付けられた髪が気持ち悪い。そんなにいいものじゃないのだ。それでも、いつか本当にあったかもしれないそんな体験が、記憶を書き換える。

クラブでは瞬間と瞬間が積み重なって、遠大な時間のスケールを織りなす。パーティーは必ず終わる。音はいつか止まる。そのことをみんなが知っている。しかし、繰り返しのミュージックは時間をいつまでも引き伸ばし、スケールは曖昧になる。文章は書くことによって思考を規定する。脳内で曖昧に渦巻く言葉の種は、書くことによって初めて芽吹く。私がDJで表現したいものがあるとすれば、この時間的な表現である。

本作に話を戻そう。サウンド面に注目すれば、先鋭的でもあるし、(((さらうんど)))らしいポップさの同居も忘れていない。質感だけでいえば、Planet Rave的な向きと通じる部分もあるかもしれないが、本作が目指しているのは真逆の方向性だろう。Planet Rave的な音楽性が目指しているものが、ポップさとエモーショナルを突き詰めることによって、フィナーレ・クライマックスへのイグジットを目指すものだとすれば、本作は過程の引き伸ばしであり、瞬間の連続化であり、遡行的な体験の編集である。私はここに、韓国のエレクトロニカ・デュオ、Salamandaの「Knowledge」と共通するものを感じる。リキッドに揺蕩うアルペジオ、ノイズ。抑制の効いた繰り返しが(しかし、確かに変化し続けている)、かえって深みを持ってグルーヴを生み出すさま。

ここまで明言を避けてきたが、つまるところ四つ打ちの美学である。本作は確かに四つ打ちの解放や快楽があり、よりそれを慎重に追い求め、捉え直すものだ。解放や快楽に浸かるのではなく、その正体を解き明かそうとする姿勢。アフターアワーズ。確かにあった、その光景。憧憬の音楽であり、美学の表出であり、探求の音楽。


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