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福岡市は本当に起業が成功しやすい街なのか

2010年から福岡市長を務める高島宗一郎氏は、2018年に著した『福岡市を経営する』の冒頭、8年間の実績を次のように語っている。

国際会議の開催件数は、全国の政令都市の中で一位。クルーズ船誘致と港湾エリアの整備により、クルーズ船の寄港回数も横浜を抜いて日本一。新しいビジネスを生み出すスタートアップに力を入れて、現在4年連続での開業率7%は全国唯一です。

これは2018年10月時点のデータに基づいているが、コロナ禍前の2019年には、上述のランキングのほとんどは首位から陥落している。
国際会議の開催件数は2017年には神戸・京都に抜かれて4位、クルーズ船の寄港回数は2016年以降減少を続け2019年には那覇に抜かれて2位、開業率は依然として7.2%と1位を保っているが、廃業率も4.3%とこちらも首位である。

福岡市は近年、アジアの拠点都市を目指し、その実績をアピールしてきた。実際、人口も税収も増え、地価も上昇している。
だが、人口増は、2011年に開業した九州新幹線のストロー効果ではないかという疑問が残る。2014年の1年間だけでも九州各県からの転入が2万346人。6375人の転入超過である。合計特殊出生率は19政令指定都市中16位の1.25と、決して自然増が多いともいえない。若者の比率が多いというのも、ひとえに九州各県の学生と新卒を吸収してきたからゆえだろう。
しかし、今回取り上げたいのは、「開業率7%」というアピールである。事業者数のうち新規開業者が7%いることは果たして「いいこと」なのだろうか。
高島市長の文脈ではまるで高島市政がスタートアップを奨励したためベンチャー企業が日本一に増えたかのような印象を与える。しかし指摘したいのは、次の3点である。
まず、前述してきたように福岡市はもともとサービス業の比率が高く、したがって飲食店や美容室などの開業が多い。これらの業種は廃業率が高い。「福岡市は国家戦略特区を取る前から福岡市はスタートアップが多かった」とは福岡市の創業支援課長自らが認めていることである。私個人の感覚でも、私の地元・南区大橋では焼鳥屋さんや美容室が激しい競争をしており、できては潰れ、できては潰れている感じだ。とてもITベンチャーがタケノコのように育っているという印象はない。これは福岡大学経済学部の木下敏之氏も指摘している。
ふたつめは、廃業率が高いには、単にスタートアップが廃業したということなのではないかということ。データもとの「福岡アジア都市研究機構」によれば、「新陳代謝が進んでいる」ということになるが、果たして、旧態依然とした企業が廃業しているのか、失敗したスタートアップが廃業しているだけのか、このデータだけでは分からない。ただし、一般的にスタートアップの方が廃業率が高いのは事実としてあるだろう。
そして、3つめである。70年継続している企業と、スタートアップ企業と、どちらがイノベーションに成功しやすいのか、それは議論が分かれるということである。例えば私は印刷業の業界誌記者の出身だが、戦後創業し、70年経ったいまでも操業している会社というのは変化に強い。ダーヴィンの進化論でいえば、「変化に強い企業ほど優れた企業である」ということだ。70年企業のなかには、衰退産業の印刷業だからだとか、ITの時代だからとかで諦めることなく、例えば生産工程の自動化や見える化、ネット通販への進出、販売促進支援やBPO(アウトソーシング事業)、ウェブや動画配信などのマルチメディア化で生き残っている会社も多い。
高島市長はスタートアップを奨励している理由として、新規雇用の4割はスタートアップが生み出すという中小企業白書のデータを挙げている。しかし現時点での雇用を支えているのは、まぎれもなく中・長期的な継続企業である。雇用という面でも、イノベーションという面でも、継続企業をおろそかにしてはいけないのではないか、というのが私の持論である。

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