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「リープフロッグ」は非民主主義国が起こす

後進国がゆえに先進国を追い抜く現象

「リープフロッグ」(蛙飛びと直訳したいが、どうやら馬飛びのことらしい)とは、後進国が、後進国であるがゆえに、先進国を追い抜いてしまう現象のことを指すことらしい。「らしい」「らしい」とは物書きとしては情けないのだが、『リープフロッグ―-逆転勝ちの経済学』という本にも、著者の野口悠紀雄氏の造語なのか、最近できた経済用語なのかが書いていないのでわからない。先進的な大企業が、大企業であるがゆえに、イノベーティブな小企業になすすべもなく敗れることを解説したクレイトン・クリステンセンの『イノベーションのジレンマ』に通じるものがあるが、『リープフロッグ』は新書ということもあり、予備校の世界史の知識すらなくても読み切れてしまうまあわかりやすい本である。
世界史では中国を追い抜いたイギリス、イギリスを追い抜いたアメリカ、アメリカを追い抜こうとする現代中国と、さまざまな逆転現象が起きているが、それらをすべて「リープフロッグ現象」で説明しようとしているところに強引さが目立つとは、私の個人的な感想である。
しかし、あらためて考えてみると、それら3例は、確かに共通点があると思いなおした。
キーワードは、私は「規制」だと思う。

朝貢以外の貿易を規制した中国

まずイギリスが中国を追い抜いた例。最近は海洋帝国の様相を見せる中国だが、中国は歴史的には海洋貿易には興味を示さず(鄭和の遠征は例外であろう)、朝貢貿易(文字通り中国の朝廷にモノを貢ぐ代わりに、返礼を貰う形式の貿易)以外には貿易を規制していた。その理由を野口氏は儒教の農本主義に求めているが、中国は中国だけが世界であり、その他の民族や領域は夷狄としか見ていなかったという世界観が前提にあるだろう。
それに比べてスペイン・ポルトガルの跡を継いだイギリスは、海洋貿易で巨額な利益を得るというモチベーションがあり、商人は株式会社を組織して世界を巡ったし、国家は彼らを軍事的・経済的に支援した。
というわけで、科学技術・軍事・経済でヨーロッパを圧倒していたはずの中国が、イギリスに敗れた。それは朝貢以外の貿易を「規制」していた中国と、むしろ支援していたイギリスとの違いが、逆転を生んだと考える。

「赤旗法」で既得権益者を守ったイギリス

次に第二次産業革命でイギリスがアメリカに抜かれてしまったリ理由を観てみたい。私は一例として、蒸気自動車を挙げたい。イギリスは蒸気機関の発明者であるジェームズ・ワットの出身地であり、ビジネスの導入も早く、1836年にはある旅客輸送業者が、1年間に1万3000人もの乗客を自動車で運んだそうである。
ところが、鉄道会社などの既得権益者や国民の抵抗からイギリス政府は1865年、「赤旗法」という蒸気機関車による速度規制(市内で時速約3.2キロメートル)を設けてしまった。その結果、自動車産業は他国に後れを取り、ドイツ、アメリカに取って代わられてしまった。(小林啓倫『ドローン・ビジネスの衝撃』より)
すべての原因とは言わないが、やはりここでも「規制」が、逆転を生んでいく。

個人の権利を無視した現代中国の飛躍

そして最後に現代中国である。固定電話や信用できる銀行・紙幣、物流網がなかった中国だからこそ、それらを飛び越えてスマートフォン、電子マネー、ネット通販に「リープフロッグ」したというのは野口氏の指摘するとおりだろう。
そしてこれからのビッグデータ、AI、電気自動車、自動運転においても、やはり「規制」がない中国が、圧倒的に有利だろう。プライバシー、安心・安全といった個人の権利を保護する裁判制度などが脆弱なため、中国は気兼ねすることなく新しいテクノロジーを普及させることができる。
3つの逆転現象を「規制」というキーワードから見てきた。結局、プライバシーなどの人権を無視した非民主主義国が、先進民主主義国を追い抜いてしまうという点では、まさに「リープフロッグ現象」なのだろう。

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