見出し画像

新福ビルの起工式に際して思うこと

「えい、おう、えい、おう」との掛け声が、ドーム型テントの中に響きわたる。事業主、建築関係者、来賓、地権者の代表が、玉串を祭壇に捧げる。厳粛に、つつがなく福ビル街区の起工式は行われた。2021年の暮れも押し迫った12月22日のことである。

福ビル街区とは、福岡市の中心街、天神のど真ん中もど真ん中、1丁目1番地のビル建設予定地である。旧福岡ビル、天神ビブレ、天神コアの3棟を取り壊したこの場所に、高さ約97メートルの1棟の複合ビルが2024年末にも竣工する予定である。オフィスフロアの床面積は西日本最大級になるという。

起工式が終わると、事業主の西日本鉄道の林田浩一社長、施工主の鹿島建設の天野裕正社長らがあいさつをしたが、関係者の間で「全部持ってかれちゃいましたね」と囁かれたのが、高島宗一郎市長によるスピーチである。アナウンサー出身、47歳という若さみなぎる声で、原稿も読まず、身振り手振りを交えて、出席者にこうあいさつした。

「まさにこの場所は、天神ビッグバンの中心でございまして、これから始まるワクワク感、そして福岡の未来が、今日からスタートすると感じています。この場所は、福ビルがあって、ビブレがあって、コアがあって、福岡の人たちは、その名前を聞くだけでも、いろんな思い出が浮かんでくる、そのビルが新しく生まれ変わるという、特別なプロジェクトであると思っています。この9月には、天神ビッグバンの規制緩和を利用した第1号のビル、素晴らしいビル(天神ビジネスセンター)が完成をいたしました。これまでの耳で聞く天神ビッグバン、頭で想像する天神ビッグバンから、今年はまさに、目で見る、感じる天神ビッグバンへと変わる、そんな年になったと思いますが、そんな年に今日、地鎮祭が行われ、福ビル街のプロジェクトがスタートすることで、まさにこの2年間、コロナ禍で沸々としていた人々が、福岡は未来に向かって歩み始めるぞ、という希望を感じるんじゃないかなと思っています。

そしてこのビル、100メートルという高さになるわけでございます。これまでのビルでいきますと旧福ビルが67m、天神コアが44mですから、倍近い高さになるわけですし、床面積は1.5倍になるわけでございます。そしてワークフロアのオフィス面積は西日本で最大級にスケールアップするわけでございます。

こうした規制緩和ができたというのは当時(2014年)、アベノミクスということで、国家戦略特区を福岡市がとり(ました)。そして高さの規制緩和ということですけれども、最初は76mという発表があったわけですが、ちょうど岩田屋の方にありますNTTビルが110メートルありましたので、この高さまではできるだろうと再交渉をした結果(であります)。渡辺通の東側についてはゼロ回答だったのですけれども、当時、航空局と連日のように協議をいたしまして、この高さを渡辺通りの東側も勝ち取ることができました。

(こうして)100mという高さのビルが建てることができました。それで、非常に大きなインセンティブを得ることができたわけで、これまで以上のデザイン性と機能、ワークフロアの面積等を取ることができました。そして新しいビルでも、感染症対応シティというコンセプトを取っていただいて、非常に高機能な感染症対応がなされると聞いております。まさにグリーン、環境配慮といった、世界が重視している新しい価値観というものも取り込んでおられますので、商業フロア、ホテルフロアを含めて、国際競争力をもった先進的なビルになるだろうと、非常に期待をしております。

ぜひここから、グローバルな人材が育ち、たくさんの企業が活躍し、新しい価値が、この場所から生まれてくることが期待されます。天神ビッグバンで生まれ変わる他のビルとも切磋琢磨しながら、日本の未来、世界の未来というのも、ここから生まれていく、そんな街に、福岡天神がなってくれればということを期待します」

とうわけで付け足しようのない内容であるが、「福ビル街区」のプロジェクトについて、私見を述べようと思う。

新福ビル(仮称)は福岡市でもっとも地価の高い天神1丁目1番地に、幅110m、奥行き80m、高さ97mもの規模で建てられる。地下2階-地上4階がショッピング、6-17階がビジネス/オフィス、18-19階がホテルとなる。総床面積14万5000㎡、総事業費850億円という福岡では過去最大のビッグプロジェクトになる。当然福岡市民も期待もする一方、不安になるだろう。

だが私は、「東京や大阪に比べたら一般的なプロジェクト」と考えている。東京・丸の内に2027年竣工予定の「Torch Tower」は63階建て、総床面積54万4000㎡、総事業費5000億円(周辺街区含む)である。万博が迫る大阪では2024年に竣工予定の「うめきた2期プロジェクト」があり、総床面積55万㎡超である。名古屋にも2026年竣工予定の「錦3丁目25番地プロジェクト」があり、総床面積10万9700㎡、41階建てである。これらのプロジェクトを筆頭に、3大都市圏では次々と高層ビルが建てられている。

「なぜ3大都市圏と比較するのか」という当然の疑問もあると思うが、福岡は国際都市として、これらの都市と競合していかなければならないと思うからである。すでにMICE(国際会議や展示会など)関係では2021年に「博多国際展示場&カンファレンスセンター」「マリンメッセ福岡B館」などが開業した。また前述の「TEAM FUKUOKA」というプロジェクトで、国際金融都市を目指して、海外からの企業を誘致している。その受け皿として、福岡にはぜひとも国際基準のハイグレードオフィスが必要だったのである。

私は「天神ビッグバン」により高さ規制が100mになったといっても、「まだ低い」と考えている。スケーラビリティ(規模)の面から言っても、超高層ビルが建てられないため、天神ビブレの土地を買収してでも敷地面積を広くし、総床面積を確保しなければならない。10万㎡以上の総床面積がないと、海外の大手企業のアジア支社や国内企業の本社機能を誘致できないと考える。

多様性という意味でもそうだ。これだけのスケールがあれば、多種多様な企業も集まり、前述した(経済用語での)「クラスター」が成立すると思うのである。価値の異なる企業や人材が集まり、情報を交換し、切磋琢磨することで、新しい価値観が生まれる。西日本鉄道が新福ビルのコンセプトに「創造交差点」「MEETS DIFFERENT IDEAS」を掲げ、コワーキングスペースやカンファレンススペースを設け、交流を促進しようと試みていることに、私は賛成だ。

「なにも天神の一等地に巨大なオフィスビルを構えるなんて」という批判もあるだろう。なにしろコロナ禍を機にリモートワークが促進され、働き方改革により必ずしもオフィスに縛られる必要もない時代がくるとされているからだ。

答えのヒントは、福ビル街区の隣に2021年に竣工した「天神ビジネスセンター」にあるだろう。佐世保と東京に本社機能があったジャパネットは、天神ビジネスセンターの3フロアを区分所有した。NECは福岡市内に分散していたオフィスを集約して賃借したが、社員の4~5割ほどしか出社しないそうだ。そしてグーグルは、営業拠点ではなくエンジニアの働く場所として、天神ビジネスセンターを選んだ。

言いたいのは次の3点である。ジャパネットという中堅会社でさえ、3フロアを所有しなければならなかったということは、大企業ではもっと大きなフロアのオフィスビルが求められるということ。そしてNECのように働き方改革を実践し、5割の社員しか出社しないのに、それでも3フロアが必要だということ。そしてグーグルのエンジニアような高度な人材が必要な企業は、一等地の場所を選ぶということだ。

①スケーラビリティという面でも、②新しい働き方改革の面でも、③高度な人材の招致という面でも、「新福ビル」は、時代に合ったビルになると私は考えている。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?