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パニック症

アメリカ精神医学会の診断基準改定(DSM-5)に伴い、日本でも「パニック障害」から「パニック症」への呼称変更が増えてきた。この改名は、かつて「不安障害」と呼ばれた際、重症で不可逆的な病気との印象を与えてしまうため、「不安症」という呼び名に変更されたのと同じ理由からだ。

昔「心臓神経症」と誤解されたこともあるパニック症だが、最近は正しく理解されるようになってきた。この症状では、日常生活の中で突然、胸がドキドキし、息苦しさ、めまい、吐き気などの身体症状が現れ、「もうダメかも」と思い込んで救急車で病院へ駆け込むことが多い。しかし、病院に着く頃には症状はほとんど収まり、心電図検査でも異常は見られない。帰宅しても、数日後には再び発作が起こる。患者は、なぜこのような状態になるのか、当初は戸惑うことが特徴だ。適切な治療を受けないと、中心となる不安感や恐怖感が強まり、発作が収まっても様々な症状が現れ、慢性化して重症になり、家に閉じこもるような生活を送ることになる。ちなみに、パニック症患者の半数以上が抑うつを併発すると言われている。

パニック症の症状としては、「パニック発作」「予期不安」「広場恐怖症」がよく知られているが、発作の間に感じる「非発作性不定愁訴」というものもある。これには、理由のない持続した不安感や現実感が薄れた感じ、体がゾクゾクする嫌な感じ、喉が詰まる感じなどの神経感覚症状が含まれる。

「パニック発作」はパニック症の特徴的な症状で、急性で突発性の予期しない不安発作のことを指す。PTSDやうつ病、発達障害、その他の身体疾患、物質依存障害でも同様の発作が認められるが、パニック症でのパニック発作は「予期しない発作」という点が重要である。原因やきっかけなしに、いつどこで起こるか分からない発作を「予期しない発作」と呼ぶ。

パニック症では、恐ろしいパニック発作を経験することで、「また発作が起こるのではないか」という心配が続くことが多く、これを「予期不安」と呼ぶ。発作を予期してしまうことによる続く不安のことであり、「心臓発作ではないか」「自分を失ってしまうのではないか」といったことを心配し続ける。口には出さなくても、発作を心配するあまりに仕事を辞めてしまうなどの行動上の変化がみられる場合がある。

さらに「広場恐怖症」とは、パニック発作が起きたときに逃れられない、助けが得られないような場所や状況を恐れ、避ける症状を指す。そのような場所や状況は、一人での外出、乗り物に乗る、人混み、行列に並ぶ、橋の上、高速道路、美容院、歯医者、劇場、会議などが挙げられる。行動の自由が束縛されて、発作が起きたときにすぐに逃げられない空間や状況を恐れて避けるようになる。

パニック症の原因は脳機能の異常が関係することは分かっているが、詳細は不明である。重要なのは、決して「性格が暗い」や「心掛けが悪い」からではないということである。

病理学的には、大脳辺縁系の扁桃体を中心とした「恐怖神経回路」の過活動があるとする説が有力であり、ノルアドレナリンやセロトニンなどの神経伝達物質を調節する薬物療法が有効であることが示されている。薬物療法では、SSRIを主体に、ベンゾジアゼピン系抗不安薬の頓用を併用するなど、薬剤の長所・短所を十分考慮しながら使用される。パニック発作を寛解させれば、その後に心の余裕が生まれるので、認知行動療法などの心理行動アプローチが推奨される。パニック症患者は、男性に比べて女性の方が約2.5倍多いとされており、その背景には、月経周期、出産、子育てなど、女性のライフサイクル特有のストレスの高さが影響していると考えられる。男性でも、職場などの生活上の過剰なストレス負荷が発症契機になることが認められる。

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