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シナリオ小話 14 視聴者のレベル


17歳でデザイナ・構成作家としてデビューして、フリーのプランナー兼プロデューサー、そして二流の脚本家としてちょうど20年の商業作家生活を無事に送らせて頂きました「おおやぎ」が、2007年頃からMixi等で公開していた講座連載を再構成して掲載いたします。今も脚本・シナリオを学ばれるあらゆる層のかたがご笑覧くださるなら望外の幸せです。

第14回目は、請負でシナリオ執筆を生業としているわたしの雑感というか、最近とても頻繁に考えるようになったことを記しておこうかと思います。(2007頃 執筆当時)
それは「視聴者のレベル」です。
こんな風に書くと『作家の上から目線だ』と言われかねないわけですが、どうぞ誤解なきように。わたしは視聴者を「実はかなりレベルが高い」と思っているのです。

たとえば、とある小学生・中学生といった低年齢向けビデオの脚本の仕事のはなしです。もちろん教育ビデオではなくエンターテインメント。
監督さんやプロデューサーさんから何度も何度も「相手は低年齢なので」と念押しをされました。
具体的にその時は、シーンの始めに雪山の遠景、しんしんと降る雪、山に囲まれる地方都市を俯瞰、地域性を示す各種の情景描写、そして登場人物の登校風景へと転んでいく脚本だったのですが、

「低年齢は遠景からの街の描写を理解できません」

「低年齢なので舞台が地方都市であることは重要ではありません」

このようなダメ出しがありました。こんなのは序の口で、

「低年齢の視聴者は『なんでやね~ん!』のいきなりの関西弁のツッコミを理解しません」

「相手が低年齢なのでケータイメールでのやり取りは使わないで下さい」

……等々、視聴者を意識しての監督のご指摘に、へべれけに参ってしまったおおやぎでした。
低年齢の視聴者って、そんなに低能なんでしょうか?

また、最近になるとゲーム用のシナリオの案件が最も多いですが、その時におおよそいつも聞かされる言葉があります。

「相手は童貞クンなので、あんまり大人っぽい表現は通じませんから」とか

「女性経験のない視聴者が対象なので、女性心理を語っても通じない」とか

もちろん恋愛ゲームに限った話ではありませんで、たとえば映像脚本にしてお話ししますと、

和佳子「(黙って見つめ)どうしてよ・・・」
 と、健一の背中にすがりつき、
和佳子「どうしてそんな風に言うのかなあ!」
 と、鳴咽する。

こういうシーンがあったとして、監督のリアクションは「これでは和佳子が健一のことを好きかどうか(明確には)分かりません」と来る。おおよそ「(監督である)私は理解できますが、視聴者には理解できないでしょう」と付け加えられる。
……視聴者って、そんなに低能なんですか?

他にもゲーム(特に文字で読ませる形式の文書)では納得いかない表現が目白押しです。

丈一郎「俺、行かなきゃ!」
 走り去る音、画面は暗転

――こういった脚本に対して、十中八九、「俺は~~に向かって走り出した」とか「丈一郎は~~を飛び出した」と文字で表現してください、と言われます。
映像ではそういう文字による説明は存在しないので、これはむしろ小説に近い表現方法を持つ“読み物としてのゲーム”ならではの要求なのであろうということは理解できますが、絵(映像)もあって音もあって音楽もあるゲームなのに、どうして文字による補完が必要なのか、最初は戸惑ったものです。

おおよそ多くの商業シナリオは、特定の視聴者層を意識して作成します。
関西の深夜番組枠のバラエティドラマの脚本を担当していた時、おおよそ関西圏のコメディアンのギャグのパクりや古典的な落語の引用などは「イキ」でしたが、関東での低年齢向けビデオ作品では、ドリフターズの有名なコントの引用すらNGでした。
それは視聴者が違うから必然と言えば必然なのですが、果たして、世の中の監督と呼ばれる方々の思い描いておられる「視聴者のレベル」はやはり低すぎやしないのか。

今、子供向けとされるアニメ映画作品の多くは『大人が見ても感動する』と評判です。(2007年頃 執筆当時)
いっぽうで、今、実際に「子供」のドラマ離れが言われています。また同時に「大人」のゲーム離れも言われています。
その理由が、もし、「面白くなくなってきている」せいだとしたら、わたしたち脚本家は罪深いのかもしれません。

恋愛アニメの視聴者は、本当に恋愛経験の少ないお人たちなのでしょうか? アダルトゲームのユーザーは、本当にみなが童貞なのでしょうか?

脚本家の先輩ならびに同輩、監督がた、またはプロデューサーがたに、僭越ながら声を大にして申し上げたいのはこのことなのです。

視聴者って、そんなに低能なんですか?

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