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自分が好きなビジネスをサーチするのは好手/悪手?_コラム003

はじめに

このコラムは事業承継先のサーチ活動を続ける筆者が、日々感じたことを徒然に記録するものです。サーチファンドについて体系的に知りたい方はこちらの連載を御笑覧下さい。

趣味を仕事にしてはならない?

今回はハーバード・ビジネススクール(HBS)の教授2人が2017年に出版した「HBR Guide to Buying a Small Business」というサーチファンドの入門書を参考に考えてみたいと思います。

You should be passionate about making money and building the professional life that you desire. Hobbies and social causes rarely make good businesses. It doesn’t make sense to require that you love the products or services of the company you buy. Remember: Dull is good. 
(意訳)あなたはお金稼ぎに情熱を燃やすべきだ、そして自分の欲するプロフェッショナルな人生を築くべきだ。趣味や社会貢献活動が良いビジネスになることはまずない。自分が買収する企業の製品やサービスを愛することに意味はない。覚えておくが良い「退屈こそ善である」と。

HBSらしい(?)直截な書き方です。以前、HBSに留学した方から聴いた話ですが「頼むから社会貢献やNPOには手を出さないでくれ」と授業中に懇願されたそうです。

好き嫌いに対する私の見解

私自身は商品・サービスへの愛着があるならばそれに越したことは無いという意見です。これには私のキャリアが関係しています。

2002年に大卒後に入社した広告代理店で一番最初に担当したクライアントは消費者金融の会社でした。2000年代前半、全盛期を迎えていた消費者金融各社はテレビCMを大量に流しており、代理店にとっては優良クライアントだったのです。

しかし、グレーゾーン金利(利息制限法上限を超えているが刑事罰がある出資法範囲内の金利、違法だが罰則がない)に依拠したビジネスには中々共感できませんでした。

クライアント企業は皆さん素晴らしい方ばかりでしたが、どこか気が引ける思いがしたものです。2006年末の貸金業法改正でグレーゾーンは撤廃され、その後は過払い金返還請求の大量CMにとって代わったのは皆さまよくご存知の通りです。

担当した期間は2年半、家族や友人から「会社の仕事はどう(楽しい)?」ときかれても返答に窮する時期が続きました。

少し極端な例かも知れません。

しかし、自分がどうしても共感できないビジネスはたとえ儲かるものであっても手を出すべきではありません。強い愛着までは感じなくとも、その商品の良さを信じることができなければ、顧客に本心から売り込めないと思います(サーチファンドではサーチャーCEOは営業部長を兼務するケースが多い)。

投資家に説明できるか?

では投資家の視点でみたらどうでしょうか。

投資家にとってサーチャー個人の好き嫌いはあまり問題にならないと思います。経営者が自社サービスを愛することは素晴らしいことでしょうが、それと企業の繁栄や経済的なリターンとの因果関係は不明です。

また投資家だけでなく、経営者自身がビジネスに徹するスタンスを取ることも、決して否定するつもりもありません。㈱ミスミの元社長・三枝匡さんからきいた話ですが、GEのジャック・ウェルチは "Don't Fall In Love With Your Business" と言って憚らなかったそうです。勝ち目のない事業は躊躇なく売却した"ニュートロン"ジャックらしい発言です。圧倒的な成果を挙げた経営者だけに説得力もあります(三枝さんはこの発言を「心底軽蔑している」と仰っていましたが)。

自己資金によるETA(Entrepreneurship Through Acquisition)と異なり、サーチファンドは投資家による出資が前提ですから、「この商品が大好きなんです!!」は参考にはなれど、事業の見立てや数字に説得力がなければ無意味ですらあるかも知れません。

日本的な事業承継にはプラス効果あり?

最後に、事業を譲渡する側のオーナー経営者からみたらどうでしょうか。

実はここでサーチャーの好き・嫌いが重要な意味を持ってきます。「自社の商品を心から愛してくれる人に経営を継いで欲しい」というオーナー経営者が少なくないのです。

オーナー社長にとって会社は自分の子供のようなものです。大切に育てて来た我が子に愛情を持ってくれない人に、たとえ売却額が望むレベルに到達していたとしても、事業を託してくれるでしょうか。

そう考えると、上記のハーバード・ビジネススクールの言葉を参考にするときは注意した方が良いかも知れません。

こうした事情が、日本的な(ウェットな?)感情移入による特殊事情なのか、日本以外の世界でも同じなのかは分かりません。この点はサーチファンド研究という点で興味深いテーマです。

繰り返しますが、サーチャー自身の製品への愛着度と企業業績との間の因果関係は分かりません。経済原理的にはほとんど関係ないようにも思います。

しかし、もしサーチファンドの投資実行の成否を左右する重要なファクターだとしたら、そうも言ってられません。サーチャーは最初からそのつもりで企業サーチした方が良いかも知れないからです。

1人(オーナー経営者)対1人(サーチャー)という、限られた人物の事情で行方が決まるサーチファンドだからこそ、経済原理や大型のM&Aとは異なることが起こるのではないかと思います。

#サーチファンド #事業承継 #経営承継 #searchfund #entrepreneurshipthroughacquisition #ETA

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