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サーチャーが持つべき7つの特質①~細部への執着~_コラム037

はじめに

このコラムは事業承継先のサーチ活動を続ける筆者が、日々感じたことを徒然に記録するものです。サーチファンドについて体系的に知りたい方はこちらをご覧下さい。

サーチャー向きな人材をどう判断するか

サーチファンドという未だ先行事例の少ない分野に飛び込むにあたって、そもそも「自分は向いているのかな?」と疑問に思う方は多いと思います。

スタンフォードGSBによる「サーチファンド入門(A Primer On Search Funds)」に、「How Do I Know If  A Search Fund Is Right For Me?(どうすればサーチファンドが自分に向いていると分かるか?)」という一節があります。

この章の中で、サーチャーに求められる特性として7つが挙げられていますが、その前段として以下のような断り書きがおかれています。

成功するサーチャーに共通する個人的特性のようなものが多くある。次に掲げる特性は、絶対的な条件ではないし、これで必要条件がすべて満たされるわけでもないが、自分自身に当てはまるかどうかを自分でチェックすることで、自分がサーチファンドに向いているかどうかを占う手掛かりにはなるだろう

「自分がサーチファンドに向いているかどうかを占う手掛かり」と言われればサーチファンドに興味がある方ならきいてみたいと思われるでしょう。

そこで今回から数回にわたって、サーチャーに必要な7つの条件を解説して行きます。1回目の今回は①Attention to detail(細部へのこだわり)です。

サーチャーに必要な7つの特性
①Attention to detail(細部へのこだわり)

②Perseverance(忍耐力)
③Ability to build relationships and networks(人間関係構築力/ネットワーキング力)
④Belief in one’s leadership ability(己のリーダーシップ力への自信)
⑤Willingness to seek, and heed, advice(アドバイスを求め、耳を傾ける意欲)
⑥Flexibility(柔軟性)
⑦Adaptable and modest lifestyle(融通が利く質素なライフスタイル)

さぁ行こうぜ

なぜ細部のこだわり=三現主義が必要か?

のっけから抽象的というか少々よく分からないものが出てきました。果たしてこれが「個人的特性」と言えるのかどうか気になるところですが、いきなり突っ込みを挟むではなく、詳しく述べた箇所をみてみましょう。

サーチファンドで成功するためには、鋭い洞察力と体系的なアプローチによって候補企業を探さなくてはならない。同様に、買収が完了すれば、サーチャーは会社の経営と成長にどっぷり集中しなくてはならない。経営執行のフェーズで成功するには、事業の細部にまで精通した上で、変革と成長計画のベストな方法を見極めることが必要である。

ここで述べられていることは、日本でいわれる三現主義(現場・現物・現実)に近い概念だと思いました。

経営トップやマネージャは机上の空論を弄したり他人任せにしたりせず、自ら現場に出向いて自分の目と耳と足で業務の隅々にまで把握せよ、ということですね。承継先の社員さんが何でもかんでもやってくれると思うな、親切丁寧にすべてを教えてくれると思うな、自ら動いて自分で手を下せ、ということでしょう。

歩く人と時計

なぜ三現主義が最初にくるのか

一見当たり前のように見えますが、他の項目、例えば人間関係やリーダーシップより先に来ているのはなぜか。売り手企業のソーシング力や資金調達力ではないのはなぜか。

ここからは私の解釈になりますが、「成功するサーチャーに共通する個人的特性」としては、お金の計算が出来るとか、特定の業界に詳しいとか、リーダーシップがあるとかよりも、とにかく自分で能動的に動ける人でないと向いていないよ、ということを一等最初に言いたかったのだろうと思います。

ここは、経営コンサルタントやPEファンドのマネージャと比べると違いが分かります。

コンサルは基本的にクライアントに提案するのが仕事です。「ハンズオン」が現代の主流ですが、現場仕事はクライアント社員に任せないとならない。むしろ、彼ら・彼女らをうまく動かすスキルが求められます。ファンドのマネージャも、あくまでノビシロがある企業を外側から見極める能力が試される業種であり、一部の例外を除いて、ファンドマネジャーが投資先の社長に就くケースはほとんどありません。

しかしサーチャーが買収する企業は中小企業であり、自らが経営することを目指したものです。気概としては何から何まで社長である自分自身が手を動かし、足を動かさねばなりません。

例えば、世界で戦う日本企業の経営トップにグローバル戦略を授けたいとか、国や行政を動かすという仕事に生き甲斐を求める人には、サーチャーはあまり向いていないかも知れません。こうした仕事は関係者も多く、一人でシャカリキにやり過ぎる人というのは関係者から煙たがられたり、上司としての能力が低いという評価をされたりすることもあります。

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サーチファンドの大前提=中小企業の経営であること

サーチファンドは、何よりもまず承継先企業を見つけなくてはなりません。見つからずに終わってしまえば、その後の成果も何もあったものではありません。実際にサーチ活動がいかに大変なものであるかは各種資料で述べられている通りです。

しかし本当に大事なのはM&A成約後に引き継ぐ経営でどれだけ成果を上げられるかです。まるで小姑のように(例えが悪くて恐縮ですが)細かなことをいちいち気にする人、自分の目でチェックしないと気が済まない人、何でも自分で口を挟まないといてもたってもいられない人の方が成功しやすいということを、この入門書を書いたスタンフォードGSBの筆者たちは経験から知っているのだと思います。

こうした現場に密着したスタンスを一等最初に持ってくるあたりがなかなか味わい深いと思います。

残り6つの特性については次回以降に回したいと思います。

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#サーチファンド #事業承継

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