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サーチファンドは海外ではどのように普及していったのか(4/4)_コラム018

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アジアのサーチファンド普及はこれから

さて最終回はアジアを概観してみます。

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出展:International Search Funds – 2020 - IESE Business School

これまでみてきた欧州や中南米と比べると圧倒的に数が少ないことが見て取れます。ちなみに日本の「1」は嶋津紀子さんらが立ち上げたJaSFAのことかと思います。

私がサポートして貰っている㈱サーチファンド・ジャパンは立ち上げが2020年10月なので、2019年までがカウントの対象期間であるこの図には入っていないと思います。また黒澤慶昭さんのサーチファンドや、サーチファンドと明確には謳っていなくとも近しい仕組みで活動なさっている個人や組織もあるため、実際にはもう少しあるように思います。

いずれにせよアジアも日本もまだまだ黎明期を脱しているとは言えません。実際私も活動をしていますが、サーチファンドの実績も認知度も圧倒的に足りないと痛感する日々です。

インド人によるサーチファンドの事例??

その中で今回はインドを取り上げてみます。

インドの新聞 Times of India紙 のウェブサイトに取り上げられた Arun Shekar氏 というサーチファンドを立ち上げた連続起業家の話をみてみましょう。

無題

Arun Shekar氏は2つの企業を創業したのち(Two-time Founder)サーチファンドを立ち上げます。これまで見て来た例とは少し違いますね。彼の生い立ちに触れた箇所からみてみましょう。

Growing up in India with parents who were serial entrepreneurs, Arun Shekar had the opportunity to learn how to build and scale businesses at a young age. (....) Having a family so inclined towards entrepreneurship also exposed him to the lows that that path has to offer, such as its intensity and volatility.
(意訳) インドで生まれ育ったでアルン・シェカーには、連続起業家の両親のもとで幼時からビジネスを創業したり拡大する方法を学ぶ機会が身近にありました。(中略)起業家志向の家族だったため、起業家が持つ大変さや浮き沈みの激しさといった、その道がもたらす負の側面にも触れることが出来ました。

「連続起業家の両親」のもとに生まれ子供の頃からビジネスや起業家が非常に身近にあったことが分かります。

カリフォルニア大学バークレー校のHaas School of Businessを卒業したのち、ShopQuickという小売店向けの予測分析プラットフォーム(在庫管理、品揃えや在庫などのデータ管理ソフト)を創業した後、次にはAugment Advisoryというコンサルティング会社を立ち上げます。

2つの会社の立ち上げ後の経緯についてはあまり詳しくは書かれていませんが、当初の目論見通りには成功しなったようです。その後Eコマース企業でサラリーマンをした後、ついにRedwood Growth Partnersというサーチファンドを立ち上げます。

活動開始が2018年7月とのことで、丁度3年ほど経過した現在、通常2年が上限であるサーチファンドですから何らかの結果は出ているはずですが、投資実行はなされたのか、なされたとしたらどんな企業なのかといった情報は、サイトには記載されていませんでした。気になるところではありますね。

インド国内のサーチファンドはどうなってる?

さて、上記のTimes of Indiaの記事ですが実はインド本国ではなくインドから米国に渡ったインド人が立ち上げたサーチファンドの話でした。その点では英国でサーチファンドを立ち上げたチリ人のお話と同じですね。

ではインド国内のサーチファンドはどうでしょうか。ネットで色々探してみると、サーチファンドらしきサイトを見つけることが出来ますし、幾つかのレポート等ではインドの浸透についての記載があるものも散見されます。

しかし IESE Business School のレポートではわずか2件となっています、しかも2012年以前に立ち上げ。潜在的なマーケットは非常に大きいはずのインド、米国等へのMBA留学生も多く、いくつかのITジャイアントの経営トップの出身国であるインドとしてはやや少ないように思います。「母国でサーチファンドをやろう」という人がもっと沢山いても良いはずだと思うからです。

インドにおけるサーチファンド浸透を阻害する要因

IESEレポートをもう少し読み込んでみるといくつか、この疑問への答えになりそうなヒントらしき記述があります。

Many international searchers found cultural sensitivities particular to their country of origin.  (....)  In India, it is almost shameful for a family to sell their multigenerational enterprise; and in the few cases when families did decide to sell their company, it was still hard to replace not only the owner but also other family members who held key roles in the company.
(意訳) 世界各国にいる多くのサーチャーは、自分の母国に特有な文化や感覚に直面します。(中略) インドでは、代々受け継がれてきた家業を売却することは不名誉なことと思われており、仮に売却するケースであっても、オーナー本人に加え、重職にある親族メンバーを交代させることが難しいのです。

ファミリービジネスを一族以外の人物に引き継ぐいわゆる第三者承継の難しさというのは日本でもあります。ファミリービジネスとは本来は創業家メンバーが代々守っていくものであり、この感覚は日本やインドだけでなく世界中の創業家にある程度共通したものだと思います。

そうした中であっても、IESEがわざわざ "almost shameful" と言うインドの文化(?)に言及しているのは、各国と比較してもインドは抜きんでてそうした感覚が強いのかも知れません。

インドのお国事情について更に気になる記述もあります。

U.S. search funds have traditionally relied on bank debt to help finance an acquisition, at times representing around 50% of the purchase capital. However, this has sometimes been impossible in other countries. In India, where banks are not allowed to lend for acquiring company shares, searchers report that the only available options are nontraditional financing, such as asset-backed or working capital loans that carry high interest rates and short payback periods.
(意訳) 米国のサーチファンドは従来、買収資金の50%程度を銀行借入に頼っていました。しかし、それ以外の国ではそれが不可能な場合があります。銀行が株式取得のための融資を認めていないインドでは、サーチファンドは、高金利で返済期間の短い資産担保融資や運転資金融資などの非伝統的な融資しか利用できないといいます。

いずれサーチファンドにおけるLBOローンについては別の回で詳述しようと思いますが、多く場合、買収には銀行借り入れが伴うことが多いです。自己資金だけでなく借入を利用して投資先に適切な資金を調達できるようにするだけでなく、ファンド自体の収益性を高める効果も期待できるからです。

インド国内の金融規制についてはこのコラムの範囲を超えるので、詳細を述べることは出来ませんが、インドのサーチャーが買収に際して銀行借り入れを利用できないのだとしたら、それは大きな障害になるでしょう。

もし上記のような規制が所与としてあるのなら、インド国内でサーチファンドをやろうとしたら、ファンド資金を積みあげるか、インド国外から資金調達するといった手段を取るしかないでしょう。推測の域を出ませんが、インドがもしサーチファンドの導入と浸透に苦戦しているとしたら上記のような事情があるのではないかと思います。

その他の連載記事

このコラムでは事業承継サーチ活動を通して日々感じたことを徒然に記録しています。他の連載も含め以下のマガジンにまとめていますので宜しければ御笑覧下さい。
    45歳で挑む経営者キャリア サーチ活動日誌
    45歳で挑む経営者キャリア サーチャーの徒然コラム

#サーチファンド #事業承継 #searchfund

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