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サーチファンドは海外ではどのように普及していったのか(1/4)_コラム015

はじめに

事業承継サーチ活動を通して日々感じたことを徒然に記録しています。他の連載も含め以下のマガジンにまとめていますので宜しければ御笑覧下さい。
45歳で挑む経営者キャリア サーチ活動日誌
45歳で挑む経営者キャリア サーチャーの徒然コラム

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米国以外の動向をみてみる

さて、今回は海外のサーチファンドのこれまでと現在について簡単に概観してみたいと思います。まず本国アメリカは1980年代に生まれてこの方約40年の歴史がありますが、それ以外の国も含めた世界での件数の推移をみてみます。出展はスタンフォードGSBの2020 Search Fund Studyです。

プレゼンテーション1

2015年前後から大きな盛り上がりをみせています。ほとんどが米国の事例ですので、つまり本国と言えど本格的に広まりを見せ始めたのはこの5~6年くらいなのですね。

ここで2014年8月に米国Forbesのウェブサイトに掲載された「サーチファンド・モデル:28歳のCEOは如何にして誕生したか」と題する記事をみてみましょう。

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取り上げられているのは、2009年からサーチファンド活動を開始したChris Hendriksen氏で、苦難の末に成功に導くまでのプロセスがインタビューに則って記述されています。

彼が立ち上げたPacific Lake Partnersはファンド運用開始後、多数のサーチャーを支援するアクセラレータとなり、現在までに70社以上の企業(=70人以上のサーチャー)に投資実行の実績があるサーチファンド業界の老舗(?)です。

「28歳のCEO」の誕生が物珍しいこととしてForbes誌に掲載されるということは、当時(2014年)は米国ですら一部の人を除いてサーチファンドはほとんど知られていなかったのだと推察されます。

日本におけるサーチファンドの勃興

米国以外の他の地域ではどのようにいつごろから広まっていったのかについてまとめてみたいと思います。

まず最初に日本についてですが、日本でサーチファンド始めたのは㈱サーチファンドジャパンの伊藤公健さんが始めた2014年からの活動が最初だと言われています(詳しくはこちらのnoteをどうぞ)。

その後しばらくして2018年に山口FGのサーチファンドが立ち上がったり、2019年に黒澤慶昭さんがサーチファンド活動を開始したり、私が契約させて貰っている㈱サーチファンド・ジャパンが立ち上がったり、というのは近年の動きです。伊藤公健さんの先行事例の後はしばらくなかったのが、直近この3年で盛り上がりつつあるという状況です。米国などと比べるとまだまだではありますが。

日本での普及のためには、まずは誰もが認める成功事例、つまりオーナー様・従業員様・お客様・取引先様・投資家・サーチャーすべてが納得するような(なかなか難しいですが)事例が1つでも2つでも積みあげることが必要です。

そういう意味では先行する山口FGさん(既に5件もの投資実績あり)には、このまま成功して頂きたいですし、遅行する私なども背中を追いかけてなんとか成果を挙げたいものです。

欧州におけるサーチファンドの勃興

では米国に次いで一流のMBAがある欧州(ロンドン・ビジネススクール、IESE、INSEADなど)に目を向けてみましょう。欧州には、米国から飛び火するような形で広まったようです。その様子をフィナンシャル・タイムズの2015年3月の記事から抜粋してみてみます。記事の中にはサイモン・ウェブスターというサーチャーが登場します。

Simon Webster was the first person outside North America to create a search fund, after reading about a US one on his MBA at London Business School in 1989. “Most [case studies] send me to sleep but this one kept me awake all night,” he admits.
(意訳) サイモン・ウェブスターは、1989年にロンドン・ビジネス・スクールのMBAで米国のサーチ・ファンドについて学んだ後、北米以外で初めてサーチ・ファンドを設立した人物です。「たいていのケーススタディでは寝てしまうのですが、これは一晩中眠れませんでした」と彼は述べている。

サイモン・ウェブスター氏が「米国のサーチ・ファンドについて学んだ」のは、授業やケース資料を通してでしょう(現在でも世界のビジネススクールで使われているケース資料の大半がMade in USA です)。

LBSのような素晴らしい環境にいたとはいえ、1989年時点でサーチファンドに触れたのはかなり早い段階だったのではないかと思います。その後彼は自分自身でサーチファンドを実行に移します。

Although it only took Mr Webster seven months to persuade 70 US and UK-based investors to back him — raising £80,000 — he admits it was “bloody hard” to get the British backers on board compared with their counterparts.
(意訳) ウェブスター氏は、アメリカとイギリスに拠点を置く70の投資家を説得し、8万ポンド(約1200万円、1㍀=153円)をわずか7か月で調達しましたが、イギリスの投資家を味方につけるのは、他の投資家に比べて「死ぬほど大変だった」と認めています。

8万ポンドは最初の活動フィーに相当すると思いますが、恐らく1年くらいの活動のための資金でしょう。

イギリスの投資家からの資金調達に苦労したのは、当時はサーチファンドの認知自体が広まっていなかったのだろうと推察します。この点については、20年以上経過した現在では大きく事情が変わったはずです。

Europe should be ripe for search fund entrepreneurs because it has so many family businesses with succession problems. Recent years have also seen a more risk-taking culture among investors, encouraged by the emergence of start-up hotspots in cities such as London, Berlin, Stockholm and Barcelona. However, understanding of the concept remains limited largely to those who have been through business school.
(意訳) 欧州には後継者問題を抱えるファミリービジネスが多く、サーチファンドにとって適した土壌があると言えるでしょう。近年、ロンドン、ベルリン、ストックホルム、バルセロナなどスタートアップ隆盛にみられるような投資家のリスク志向が高まっていますが、このコンセプトが浸透しているのは現時点では主にMBA卒業生に限られています。

6年前の2015年に英国の経済紙に書かれたこうした状況は、2021年現在の日本と似ているように思えます。「サーチファンドが広まりそうな土壌はあるが、そもそも、それが何なのか知られていない」状況です。これより更に遡って1989年に活動したサイモン・ウェブスター氏はかなりの先行者だったのだと分かります。

その後の英国でのサーチファンドの広がりについて経緯については分かりませんでしたが(調べる時間がありませんでした)、スペインのビジネススクールのIESEが統計的な数字を公表していますのでそこから抜粋させて頂きます。

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出展:International Search Funds – 2020 - IESE Business School

欧州で最もサーチファンドの実績が積みあがっているのはIESEのおひざ元のスペインで、それに次ぐのが英国のようです。例えばGoogleで「search fund uk」「search fund england」などと検索して頂くと、サーチファンドのアクセラレータやサーチファンド専用のコミュニティサイトなどがずらずらっと出て来ます。

欧州について英国以外の事例についてもみてみましょう、次回はイタリアのサーチファンドを取り上げたいと思います。

#サーチファンド  #事業承継 #searchfund



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