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3泊4日 大峯奥駈道歩行記

 今年の夏は長く、この間山歩きからは遠ざかっていたが、いよいよ秋に入り近所の山でも気持ちよく登れる気候になった。
 気まぐれに大峰山辺りの天気を見ると珍しく晴れマークが並んでいた。
 というわけで、文化の日を絡めた三連休に一日分の有給をオンして、3泊4日で念願の大峯奥駈道を歩くことにした。

大峯奥駈道とは

 奈良県吉野山と熊野三山を結ぶ修験道で、何本かある熊野古道の中でも最も険阻な道とされている。詳しくは下記リンクへ。

行程

 ●1日目 吉野駅〜小笹ノ宿
  距離:約22km
  時間:コースタイム 約11時間、実所要時間 約7時間半
  宿泊:小笹ノ宿避難小屋
 ●2日目 小笹ノ宿〜深仙ノ宿
  距離:約23km
  時間:コースタイム 約14時間半、実所要時間 約12時間
  宿泊:深仙小屋
 ●3日目 深仙ノ宿〜玉置神社
  距離:約28km
  時間:コースタイム 約17時間、実所要時間 約14時間
  宿泊:玉置神社駐車場(ツエルト泊)
 ●4日目 玉置神社〜熊野本宮
  距離:約16km
  時間:コースタイム 約8時間 、実所要時間 約6時間

準備したもの

・ザック(30L)
・宿泊道具(ツエルト、ペグ、グランドシート、マット、シュラフ、シュラフカバー)
・衣類(ダウン、ウールシャツ、ウインドシェル、レインウェア、ロンT、手袋、ニット帽、靴下、下着、手ぬぐい)
・食料(水1.5L、アルファ米100g×3、チルド筑前煮×3、ミニ食パン2袋、カレーソース、ビッグカツ×3、POWBAR×4、ラーメンポテチ、チョコレート、ナッツ&ドライフルーツミックス、チャイ)
・その他(クッカー、固形燃料、箸、コップ、トレッキングポール、携帯浄水器、スマホ、充電器、予備電池、ヘッドライド×2、耳栓、イヤホン、ファーストエイドキット、歯磨きセット、地図、本)
 合計約9kg

1日目 吉野駅〜小笹ノ宿

 自宅の最寄りから始発に乗り、7時過ぎに吉野駅に到着。同じく大峯奥駈道を歩くであろう人がもう1人いた。
 駅からしばらくは舗装された観光道を歩く。道ゆく地域の人たちが「頑張ってね」と声をかけてくださり、朝方の吉野をとても気持ち良く歩くことができた。高城山の展望台は景色が良かったが、青根ヶ峰の山頂は展望がなかった。そんな感じでのんびり歩いていく。
 修験道だけあって道中は中々険しかったが、季節感のある風景を存分に味わえたので、楽しく歩くことができた。

道中のMIND TRAIL の展示作品
高城山展望台、ここにもMIND TRAILの展示品
修行門、身が引き締まる
これから登る山を丁寧に横から見せてくれる案内板 
紅葉しかけている木々
花すすき
紅葉の絨毯
鍵がかかって入れなくなっていた
昼ごはんのビッグカツサンド、まあまあ美味しい
ここから山上ヶ岳へ
西ノ覗から歩いて来た道を眺める
山上ヶ岳山頂、一面に広がる熊笹群に感動した

 そんなこんなで15時過ぎには1日目の目的地の小笹ノ宿に到着。テント泊の先客が2名おり、避難小屋を覗くと誰もいなかったのでありがたく使わせてもらうことにした。
 水場で水を汲み一息ついていると、中年のおじさんが上がってきた。少し話をすると、そのおじさんは30年間くらいこの近辺の山々を歩いているようで、こんなに天気が良いのは珍しいと言っていた。
 その後、小屋で昼寝をしていると別のおじさんが入ってきた。その人は東京から来たようで、大峯奥駈道を通しで歩いてみたいが、どうしても日程の関係で難しいと嘆いていた。全国津々浦々の山を登っているようで、その中でも北海道の山々は雰囲気が独特で良かったと言っており、とても気になった。
 そんな山の手練れの方々の話を聞きながら晩御飯を済ませ床についた。

避難小屋、この左の上の方にテント場があった
日が暮れていく

2日目 小笹ノ宿〜深仙ノ宿

 朝3時半くらいに小笹ノ宿を出発。ヘッドライトを点けて暗闇の山中を歩いていく。微妙に迷いながらも女人結界門を抜けて大普賢岳辺りで空が明るくなり始める。雲ひとつない夜明けの空は息を飲むほどきれいで、風の音すらしない全くの静寂に包まれながら、ほんとうに来て良かったと思った。

暗い間は地面の硬さで道を外れていないか判断する
道中至る所に祀られているお札
空と自分以外何も無い
夜明け

 快晴で景色はとても良かったが、昼が近づくと暑いくらいだったので黙々と今日の目的地の深仙ノ宿を目指す。空を飛ぶことができる役行者をしてその山容を見て引き返したと言われている行者還岳、大峯奥駈道最高峰の八経ヶ岳など険しい山々を越え、さらにその奥の釈迦ヶ岳に至る荒々しい道を経て、15時半頃に深仙ノ宿に到着。

崖にかけられた木道
とても綺麗な行者還避難小屋、奥に見えるのが行者還岳
行者還岳山頂
弥山小屋で補給、地獄に仏
滑ると下まで止まらなさそうな道
最後の最後に釈迦には泣かされた

 深仙ノ宿ではテント泊が1組おり、例のごとくものぐさな自分は小屋を覗いてみる。中には女性の先客が1名いたが、「今日は1人だと思っていたから安心した」と快く迎え入れてくださった。その後東京から来たという青年を加えて、この日は3人での賑やかな小屋泊となった。2人とも去年に大峯奥駈道を縦走しているが、この道は何度も歩きたくなると言っていた。通しで歩いてみた今、この気持ちがとても良く分かる。
 また、実はこの日、道中の水場がことごとく枯れており、深刻な水不足に悩まされていたが、セクションハイクなので明日には下山するという女性が水を分けてくれた。深仙の香精水はポタポタと水滴が落ちるくらいで、補充するにはかなりの時間がかかるため本当に助かった。(とはいえ、ポタポタの香精水がなければかなり危ない状況ではあった)
 この日、深仙では色々な人を見た。先述の女性は去年に縦走をして今回はのんびりセクションハイクをしていた、八ヶ岳で歩荷をしながら小屋番をしていた青年は20kgの大きなザックを背負って7日間ほどかけて大峯奥駈道を歩くと言っていた。今日出発したというトレイルランナーも何人か見かけ、皆ここから一気に本宮まで行くと言っていた。それぞれの楽しみ方が交差して、皆が皆、自分が気持ちいいと思えるポイントで楽しんでいる感じが、なんだかとてもいいなと感じた。
 この日も雲ひとつなく、天の川が見えるほどの満天の星空を3人で眺め、早々に床についた。

香精水
深仙小屋

3日目 深仙ノ宿〜玉置神社

 寝ている2人を起こさないよう準備し、朝の1時半過ぎに小屋を出発した。ここから南奥駈道に入り、道はよりプリミティブな様相になる。ロストしないように道の硬さを確かめながら慎重に進む。疲れが溜まり、登りではすぐに息が上がるし、ザックの重みで肩も痛い。距離が長く気持ち的にも結構辛い日だったが、休憩すると気持ちが切れそうだったので、堅実に一歩ずつ進み続ける。
 この日の難所は笠捨山から地蔵岳に至る区間で、笠捨山はピークっぽいところを登るとさらに高いピークが現れる山で、手前の行仙岳方面から見ると中々に迫力のある山だった。地蔵岳は峻険な岩峰の山で、鎖場も多くなかなか前に進まないハードな山だった。さすがに修験道、一筋縄ではいかないと泣かされながら、なんとかもがいて16時前に玉置神社に着いた。
 玉置神社の駐車場にある売店がギリギリやっていたので、咽び泣きそうになりながら牛丼とビールを流し込んで、駐車場にツエルトを設営してすぐに寝た。

気を引き締める
シャクナゲの群生地を通過する
信用できるのは地面の硬さとこいつだけ
日の出と雲海
めちゃくちゃ強そうな名前の倶利迦羅岳
第3形態くらいまである真のボス
売店の牛丼とビール、店主がテントを張る場所など親切に教えてくれた
設営の乱れは心の乱れ

4日目 玉置神社〜熊野本宮

 最終日、熊野本宮前から大和八木駅まで行くバスの9:07発の便に乗りたかったので、朝2時に玉置神社を出発。下って行くだけと油断していたら、大森山の登りで早速泣かされた。下りも結構難しく、ダラダラと歩いていると、山の中からバキバキと枝を踏む音が聞こえた。音の激しさから察するに、鹿以外の動物、イノシシかクマと思われた。少し様子を伺っていると、何も見え無い暗闇から音だけが近づいてくる。もうめちゃくちゃ怖かったが、こちらも奇声を上げて対抗すると、獣の音は遠ざかっていった。そんなことが3回くらい続いて、夜が明けたときは心底安心した。家の近所の山を夜に走っている時に一度イノシシと対面した時も相当肝を冷やしたが、姿が見えずに音だけ聞こえる方が100倍怖かった。
 最後の最後に怖い思いもしながら、なんとか7時半ごろに大斎原に到着。三途の川のような熊野川を渡渉し、大鳥居をくぐって、熊野本宮に参詣し大峯奥駈が終了。大和八木駅行きのバスに5時間以上揺られて帰宅した。

玉置神社
木の上にも何かが
大斎原、熊野川の冷たい水がとても気持ち良かった
大鳥居
奈良交通の八木新宮線、最終的に車内の運賃表示板がカンストしていた
車両も普通の路線バス
途中の途中の休憩で寄った十津川村のゆずこんにゃく、とても美味しかった
谷瀬の吊り橋、休憩中に観光もできる

感想

 とても険しく楽しい道で、また歩きたい。5泊6日、6泊7日くらいでもう少しのんびり行っても楽しいし、トレランスタイルでエクストリームな感じで行ってもそれはそれで達成感があって楽しそうだと思った。
 また、修験道であることを思うと、大峯奥駈道を通しで歩き切ることも目的としては大事だが、それよりも自然と向き合って自分なりにもがくこと自体に意味があるように感じた。熊野本宮についたとき、不意に寂しさが込み上げてきて、ついそんなことを考えてしまった。

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