画家ホセ・サボガルとペルー民藝
すでにブラジル民藝運動の先駆者マリオ・ジ・アンドラージについて紹介していますが、今回から数回にわたり、ペルーの民藝運動について書こうと思います。
ペルーでは、インディへニスモが深く影響している点が重要です。
インディヘニスモとは、「ペルー先住民(「インディオ」あるいは「インディヘナ」)の擁護と文化的、社会的復権を求める社会運動。19世紀から20世紀にかけてのペルーにおいて、思想や文学に大きな影響を与えた・・・」
(ウィキペディアより抜粋https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%98%E3%83%8B%E3%82%B9%E3%83%A2)
インディへニスモは、20世紀20年代に絶頂期を迎え、芸術分野にもその影響は及びました。
このムーブメントにより、首都リマのインディヘニスタの芸術家グループは、従来の西洋絵画のモチーフを捨て、ペルー内陸を旅し、その土地の風景や各地域の先住民を絵画に取り入れました。
そのグループの中心人物だったホセ・サボガルは、ペルー民藝に芸術としての価値を見出した人物で、民藝保存活動のパイオニアだったことは間違いありません。まずはこの人物について話したいと思います。
Desconocido, c. 1920, Public domain, via Wikimedia Commons
ホセ・サボガル(1888-1956)は、1888年3月19日、ペルーはカハバンバ生まれ。画家であり、芸術分野におけるインディへニスモのリーダー。
アルゼンチンのブエノスアイレス芸術アカデミーで美術を学び、卒業後、ペルーのクスコで暮らし出します。このかつてのインカ帝国の都市で、先住民をモチーフにした作品を数々作成し、ここに芸術におけるインディへニスモが誕生。1920年からリマの国立芸術学校で教鞭をとり、さらに32年~43年まで学長を務めます。
1931年、民族学者ルイス・E・バルカルセル氏の支援で国立博物館直轄のペルー芸術協会(IAP)の創設に成功します。そこで、ペルー民藝の保存に力を入れ、収集、研究誌の発行、展示をしたりします。
サボガルが民藝に注目を置くようになったのは、1922 年のメキシコ滞在がきっかけだと言われています。当時、メキシコでは民藝を国家芸術として認め、国の文化の一つとなっていました。その影響を強く受け、民藝保存・博物館創立構想へと繋がっていくのです。
民藝収集を始めたのが、1923年だと言われており、ワンカヨの日曜市を初めて訪れた時のこと。ペルー民藝のオリジナリティーあふれるクオリティを察知したサボガルは、各地の代表的な民藝(例えば、フニン県のワンカヨの瓢箪、プノ県のプカラの牛、アヤクーチョ県のワマンガの石の彫刻など)を集めました。
また、民藝は彼の作品にも大きな影響を与えます。たとえばワンカヨの瓢箪。この瓢箪には、アンデス先住民の暮らしの様子が彫刻されています。このモチーフが、彼の木版画にも大きく反映されており、彼が表紙や挿絵を担当したインディへニスモの雑誌「アマウタ」で確認することができます。
そして、ペルー独自の芸術を探求していたサボガルは、ついにワンカヨの瓢箪にアンデス文化とスペイン文化の調和された融合を見出すのです。異なる二つの文化の融合によってできた混血文化から生まれた民衆の芸術こそが、ペルーの真の芸術だと訴えたのです。
ですから、彼が定義する所の民藝は、現在認識されているものより、もっと限定的でした。つまり、プレコロンビア時代からあった芸術がスペイン文化の影響を受けて誕生した混血の民衆芸術でなければなりませんでした。
この条件にそぐわないものは、プリミティブ・アートであり、アマチュアにより作られた「悪趣味」なものとみなされ、興味を示さなかったのも事実です。
とは言え、サボガルはペルー芸術協会(IPA)を通して、民藝の展示や価値付に貢献しました。その努力が、ペルー国立文化博物館の設立に結びつきます。
インディヘニスタだったサボガルは、最終的には先住民ではなく、メスティーソ(スペイン人と先住民の混血である人々)にナショナルアイデンティティを求め、芸術もメスティーソ芸術こそがペルーのオリジナル芸術であると結論を出しました。それゆえに先住民のアートとスペイン文化が混合してできた民衆芸術を愛してやまなかったのです。
参考文献
CHIVILCHES AMPUERO, Natividad. El coleccionismo del arte popular en Lima: el caso de Alicia y Celia Bustamante Vernal y Elvira Luza Argaluza, Universidad Nacional Mayor de San Marcos, 2020
VILLEGAS, Fernando. El Instituto de Arte Peruano(1931-1973) José Sabogal y el mestizaje en arte, Illapa Mana Tukukuq, (3), 21-34, 2017
YLLIA MIRANDA, Maria Eugenia. "El mate mestizo de José Sabogal" En el fruto decorado: Mates Burilados del Valle del Mantaro - séculos XVIII a XX, Univerdsidad Ricardo Palma/ Instituto Cultural Peruano Norteamericano, Lima, pp45-55, 2006
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