「ある+はる」はアリか

まず、こちらの漫画をご覧ください。

短いながらもテンポの良い会話の応酬で面白いですね。ラフな関西弁(大阪〜神戸あたり)が使われていますが、2枚目の2コマ目で次の台詞が出てきます。

まあ色々なんか独自の基準がありはるんちゃうか

共通語にすると「まあ色々なんか独自の基準がおありなんじゃないの」ですが、私は「そこで『はる』を使うん?」と違和感を覚えました。

「はる」は関西で広く使われている尊敬語(といっても、そんなに畏まっていない)です。特に京都から滋賀にかけての地域では、「これ、うちのおじいさんも好きでよう食べてはったわ」や「あのコメンテーター、ええこと言わはるなぁ」のように、会話のなかで誰かの話題を出す時には「なんとなくキツくならんように、とりあえず付けとこ」ぐらいの軽い感じで多用します。なお、ざっくり京都滋賀奈良では「言わはる」のように「aはる」、大阪神戸では「言いはる」のように「iはる」と言う人が多い傾向があります。


さて問題の「独自の基準がありはる」。

関西で広く使われる存在動詞には「ある」「い(て)る」「おる」の3種類ありますが、その中で私が「はる」を使えるのは「い(て)る」だけです。もっとも、「いる」も「はる」も原型を留めていない「やーる」という形で言うことが私は多いですが、それは置いといて。

「おる」はそれ自体が対象をちょっと下に見る言い方なので「はる」と相性が悪い。

「ある」は物に使う言葉で、尊敬語は使いづらい。「賛成の人もあるし、反対の人もある」のように人に対して「ある」を使うこともないではないが、「はる」を使うとなると「賛成の人もやーるし、反対の人もやーる」のように「い(て)る+はる」になる。また、物を擬人化して言う時には「い(て)る」「おる」で表現することが多いので、やはり「はる」の出る幕がない。

というわけで、「独自の基準」という形のない物に対して「はる」を使うのは、私の感覚に合わなかったのです。「はる」を付けずに言うか、「独自の基準を持ってはるんちゃうか」のように人が主体となる動詞「持つ」にして「はる」を付けるかすれば、しっくり来ます。

改めて考えると、共通語でも日常会話で「ある」に敬語を使うのは「おあり(〜の/〜です/〜だ)」という名詞化した形ばかりで、「あられる」は聖書の訳語や皇族向け敬語のような特殊な場面に限られますし、「おありになる」はほとんど聞くことがありません。「独自の基準がおありだ/おありです」はすんなり言えても、「独自の基準があられる/あられます」や「独自の基準がおありになる/おありになります」は許容度が下がるのではないでしょうか。

追記:この記事を読んだフォロワーさんが、「おあり」のような敬語表現についての論文を紹介してくださいました。ご興味のある方はぜひ→→ https://researchmap.jp/read0073373/published_papers/12006328/


なお、ツイッターを含めてネット上で「ありはる」や「あらはる」で検索すると、すごく数が多いわけではありませんが、無視できない数の使用例が出てきます。私のフォロワーさんでも

と意見が割れました(お一人目は奈良のご出身、お二人目は大阪のご出身)。改めて、関西弁にも色々あるなと思わされます。


ちなみに今回紹介した漫画の作者さんは、現在『別冊チャンピオン』で「潮が舞い子が舞い」という漫画を連載されています。ネットでも一部読めます。関西弁はそこまで出てきませんが、たくさん魅力的なキャラが出てきて、青春って感じの漫画で、とにかくオススメです。(それが言いたかっただけちゃうんかい)


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