よう頑張りやった

今日、選抜高校野球の決勝戦がありましたね。

京都国際がコロナ陽性者多数で出場を辞退し、我らが滋賀の近江高校が開会三日前に代替出場決定。思いがけない出場でありながら、息を飲む延長戦を次々制し、滋賀県勢で初めて決勝まで進みました・・・が、残念ながら大阪桐蔭には叶いませんでした。大阪桐蔭は攻守とも桁外れの強さでしたが、近江高校打線を抑え込んだのが滋賀県出身の投手だったというのは少し複雑な気持ちでしたね・・・。

高校球児のような自分より年下の人達が頑張っているを見ていると、思わずタイトルのような一言が出てきます。

[よ]ー [がんばり]やった

共通語に訳すと「よく頑張った」です。
・・・「りや」はどこ行った?と思われる方もおられるでしょうが、共通語だとぴったり来る表現がないんですよね。

「頑張りやった」は「頑張りやる」の過去形ですが、「~やる」というのは「自分より目下の人がやっている言動である」ということを明示する助動詞です。「〜よる」に似ていますが、見下すニュアンスが強い「〜よる」と比べると、「〜やる」はその言動をほほえましく感じている時に使うことが多いです。「頑張る」なんてまさにそうですね。

さてこの「~やる」、滋賀県湖東地方のほかに大阪や奈良などでも使われますが、次の特徴があります。
・連用形または「~て」のあとに使う。
・「~やる」でアクセントが下がる。
・話し相手には直接使わない。

例えば「走る」「書く」に「~やる」を足したら
[はしり]やる か[き]やる
「走っている」「書いている」に「~やる」を足したら
[はしって]やる かい[て]やる
になります。なお、「はしってやる」をずっと平らに、「かいてやる」を尻上がりに発音すると、共通語にもある「走ってやる」「書いてやる」(関西らしい形だと「走ったる」「書いたる」)という意味になります。

ところで、選抜決勝の中継は母と見ていましたが、球児に対する母のリアクションを観察していると

(点を)取[り]やる

[よ]ー 打[ち]やん[なぁ(=打ちやるなぁ)

[よ]ーけ 投げ[て]やんにゃ(=投げてやるんや)

のようにセオリー通りの言い方をしていることもあれば

投[げ]やーる

投げ[や]ーる

のようにイレギュラーな言い方もしていました。「投げる」+「~やる」の場合、セオリー通りなら「な[げ]やる」になるはずです。

湖東地方の方言には「~やる」とは別に「~やーる」という言い方もあります。「~やーる」には次のような特徴があります。
・連用形または「~て」のあとに使う。ただし、五段動詞には使わない。五段動詞の場合、「頑張らーる」「取らーる」「打たーる」のように「未然形+ーる」と言う。
・「~やーる」でアクセントが下がらない。最後まで平ら、または尻上がり。
・目下だけでなく、目上にもばんばん使う。
・話し相手にも使える。
・過去形などでは「~やった」のように短く言うこともある。

母の「投げやーる」は一見この「~やーる」のようにも思えますが、「投げる」+「~やーる」と解釈するにしてもアクセントがイレギュラーです。セオリー通りなら、尻上がりの「なげやー[る」になるはずです。

「~やる」と「~やーる」の境目は曖昧なのかもしれません。生きた言葉は必ずしも規則通りにはいかんというのがよく分かる一例です。

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