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「暴力的なお笑い」には敷居があるのかもしれない


 「暴力的なお笑い」が批判されるようになって久しいです。そんな世間にやりづらさを訴える芸人の方々を様々なメディアで見かけます。「傷つけない笑い」という言葉がチラホラ飛び交った時期もありました。

 世間な流れが妥当かどうかは判断しづらいものがあります。ただ、「暴力的なお笑い」に関して、個人的に思うことはもちろんあります。

 「ビートたけしのお笑いウルトラクイズ」と言えば、身体を張る芸人を楽しむ内容のものが極めて多く、現在で言うところの「暴力的なお笑い」に該当する可能性が高い番組と言えるでしょう。

 その番組で「バス吊り下げアップダウンクイズ」というものがありました。解答者の乗ったバスをクレーンで持ち上げ、誤答するたびにバスごと海へ沈められる極めて過酷なルールです。

 初めて見た時は衝撃でした。本当にバスをしっかり海中に沈めていたのです。海からバスが上げられると、アシスタントの女性が心配しながら「ちゃんと全員いるよね」と縁起でもない確認をする。水浸しの解答者は恨めしそうにカメラを睨む。当時は恐怖が先に来てしまい、全く笑わず、ドキドキしながらテレビを見ていました。

 「バス吊り下げアップダウンクイズ」は「お笑いウルトラクイズ」の中でもインパクトが強かったのか、後年になって総集編という形で再び見る機会がありました。初めて見た頃に比べ、様々なお笑い番組を見てだいぶ成長した私、当時はいろんな点をスルーしていたと気づきました。

 クイズの1問目は〇と×、2台のバスが用意され、2択を間違えるとクレーンでバスごと海上に持っていかれる。以降は誤答のたびにバスごと海に沈められては引き上げられるを繰り返すわけです。しかし、第1問目、問題を聞くや否や解答者の芸人たちは「どっちだろう、分からないなあ」と言いながら、明らかにボロボロなほうのバスに乗り込むのです。

 また、解答者はダチョウ倶楽部やたけし軍団の方々を始めとする、ビートたけしさんが笑ってくれるなら何をされても大体OKなリアクション芸人たちでした。どこまでやりたくてやっているのかは本人に聞かなければ分かりませんが、やろうとしてやっているのは確実でしょう。

 当時はいろいろ分かっていなかった。そう考えることもできます。一方で、こうも考えられます。この手の番組はそれなりに高い敷居があると。

 「バス吊り下げアップダウンクイズ」は、演者も裏方もみんなまともにクイズをする気がなく、解答者はそれぞれ自分の意志で酷い目に遭っているのですが、番組中でそれが語られることはありません。きちんと番組を楽しむならば、視聴者は出演者やボロボロのバスなどを見て「あ、これはそういうことか」と判断する能力が求められます。他の似たような番組もまた同様です。

 お笑いが好きな人ならば、そのような能力はもう身についています。簡単だと思う人もいるでしょう。では、そうでない人はどうか。出演者のメンツで番組を察せられない可能性がある。番組をじっくり見ないあまり、ボロボロのバスを見逃してしまうかもしれない。

 そんなわけない。私もそう思いそうになります。ちゃんと見れば分かるように番組は作られていますから。ただ、まったく見逃さない人はいませんし、嘘と真実を100%正確に判断できる人もきっといないでしょう。

 「暴力的なお笑い」の話になると、好き嫌いの問題にされてしまうところを何回か見てきました。もちろん、それもあるとは思います。ただ、「暴力的なお笑い」にはそれとは別に、それなりに高い敷居が原因の場合もあるのではないか。「バス吊り下げアップダウンクイズ」でそう考えるようになりました。

 2度目に見た時はもちろん笑いました。敷居の手前と向こうで随分と変わるものです。


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