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捻転に対して思い込みがあったんです

 本当はもっといろんな言葉に使えるはずなのに、日常生活では特定の事柄でしか使われなくなってしまっているため、「それ専用」みたいになっている単語がございませんか。

 例えば、「捻転ねんてん」です。何やら読みづらい言葉ですが、意味は以下の通りです。

ねじれること。ねじれて向きが変わること。また、ねじって向きを変えること。

 私がこの言葉を初めて知ったのは、病気について描かれた漫画でした。腸の病気として「腸閉塞」と共に「腸捻転」が載っていたんです。腸閉塞は腸に何かがつまってしまう病気で、腸捻転は腸がねじれてしまう病気です。

 「腸ってねじれることがあるんだ」という事実も驚きでしたが、何より「捻転」です。こんな言葉があるんだと、目からうろこが落ちる思いでした。世の中にはいろんな言葉があるんだなあと思い知った次第です。

 しかし、それ以降、「捻転」という文字になかなか出会わないんです。たまに出会ったかと思えば腸捻転ばかり。先ほども辞書から引用した通り、捻転はあくまで「ねじれること」を意味する言葉でありまして、別に腸だけに適用される言葉ではないんです。ねじれたら割と何でも捻転のはず。でも、何か私と出会う捻転と言えば腸だけだったんです。

 原因は「捻転」のマイナーさだと考えられます。もちろん、日常生活で何かがねじれることはあるでしょうけれども、だったらわざわざ「捻転」なんて分かりにくい表現を使わず、「ねじれた」と言うのが普通でしょう。結果として「腸捻転」みたいな固有名詞でしか使われなくなり、捻転と言えば腸専用みたいな言葉になってしまった。そう思ってたんです。

 先ほど、何の気なしにGoogleで「捻転」を検索してみたんです。きっとおびただしい数の腸捻転サイトがヒットしまくるんだろうなと思っていたんですが、違いました。代わりに出てきたのは精巣捻転でした。もうおびただしい数の精巣捻転サイトがヒットしまくったんです。

 「精巣なんて丸いもんがねじれるのか?」と一瞬思うんですが、どうやら精巣の中でも「精索せいさく」と呼ばれる、身体と繋がっている細長い部分がねじれてしまうのだそうです。だから「精索捻転」という名前で呼んでいるサイトもございました。

 しかし、「捻転」で検索したら本当に精巣捻転ばかり出てくるんです。「捻転」の意味を知ろうと検索した人はきっと面食らうでしょう。検索結果を下のほうまでスクロールさせ、様々な精巣捻転をかいくぐらないと捻転の意味について書かれたページが出てこないからです。

 捻転と言えば腸捻転だった私にとっては結構な驚きでした。まさか医療業界では捻転と言えば精巣捻転だったとは。ちなみに、次点は胃軸捻転で、こちらは胃がねじれる病気だそうです。つまり我らが腸捻転は捻転の頂点を決める捻転選手権で3位以下が確定している。なんということでしょう。こんなよく分からないカルチャーショックを受けるなんて。

 とは言え、捻転と言えば身体の一部がねじれることばかりに使われている点は変わりないようです。どうしてなのでしょうか。身体以外の物体はそんなにねじらないものなのでしょうか。今日もまた捻転は私を惑わせてきます。

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