ふくろう

海外文学を読む人。編集/執筆/マーケティングの人。読書感想ブログ「ボヘミアの海岸線」を…

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海外文学を読む人。編集/執筆/マーケティングの人。読書感想ブログ「ボヘミアの海岸線」を書いている。『本の雑誌』で、海外文学の新刊レビューを月間連載中。 https://linktr.ee/owlman_bohemia

マガジン

  • スコットランド巨石日記

    スコットランドを歩き、首都エディンバラで暮らす日記。

  • 意識の低い原稿術

    15年書いているライター/編集者が、ない時間をひねり出し、意識を低く保ちながら原稿を執筆する方法を書きます。子育て中なので、さらに意識は低め。2023年中に最低5本、更新予定。

  • 珍奇不動産

    不思議な不動産に住んでみた日記

  • 積読一家の育児

    積読が自己増殖する家での育児記録。

最近の記事

  • 固定された記事

【なるべく意識を低く保て】 書けないと悩む人のための、原稿の書き方 : 〜雑誌原稿を実例に〜

この記事は、執筆業を15年(専業5年/副業10年)ほど続けている人間が、どのように原稿を書いているかを解説する、執筆メイキング記事です。 私が2年、寄稿していた『本の雑誌』新刊レビュー原稿を例として、初稿から完成稿までどのようにバージョンを重ねているか、説明します。 ◆【前置き】この記事を書いた背景◇想定読者 想定読者は、「原稿をなかなか書き出せない人」「原稿を書くのに時間がかかる人」「原稿を思うように書けずに苦悶している人」です。 ◇きっかけ もともと本稿は、執筆

    • 冬至の夜には灯台へ

      冬至の夜に、離島の灯台ホテルに泊まる。 太陽は14時に沈み、空は青く暗く、灯台の明かりが夜の雲を照らしては消える。 灯台の螺旋階段を登り、窓ガラスの外を見る。黒い海の気配が、冷気とともに忍びこむ。どどうと風の音がする。 私は布団にもぐりこむ。 最も長い夜に、夜を百年照らしてきた明かりの下で眠る。

      • 飛行機雲トワイライト|スコットランド巨石日記

        晴れわたった夕暮れ時に、飛行機雲を見た。 新市街での用事を済ませて、中央駅まで戻ってきた時のことだった。 ひさしぶりの雲ひとつない宵時である。空は淡い藍色に染まり、地平線のあたりは残光で輝いている。群青、藍、薄水色、橙、山吹色と移り変わる空を、白い飛行機雲がまっすぐと渡っていく。 空港から市内までバスで30分の距離にあるエディンバラでは、飛行機雲はそれほどめずらしくはないが、快晴の飛行機雲はめずらしい。これほど鮮やかな夕焼け時を渡っていく飛行機雲は、はじめて見た。 雲

        • 一夜にして観覧車|スコットランド巨石日記

          古い伝説には、一夜城や巨大な木馬など、一夜にして現れた巨大な建築物に人々が驚く逸話がある。 人間は、見慣れた景色が今日も明日も変わらずに続いていくし、変化はゆっくりやってくる、と信じている。だから、夜が明けていつもの景観ががらりと変わっていると、これは夢かと驚く。 巨大な観覧車がいきなり現れた時の私は、伝説で語られた人たちときっと同じ動きをしたことだろう。 いつものように、ロイヤル・マイルの石畳を登っていた時のことだった。大通りから無数に伸びている狭い横道のひとつに入る

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        記事

          日帰りの荒野|スコットランド巨石日記

          都市の先にはなにがあるか? 荒野(ムーア)がある。 晩秋のハイランドに行こう、と声をかけられた。潮の香りが混じる冷たい大気の朝、車の助手席に乗りこんで、私たちはエディンバラから郊外に向かう道を走る。 見慣れた旧市街から新市街へ抜け、さらに郊外へと向かう。郊外の一軒家は庭がいい、さすがガーデニングの国だと眺めていると、民家がどんどん少なくなり、ひらけた牧草地に出る。草をはむ羊、牧草の大俵の群れが現れては消えて、やがて途切れる。 そうすれば、もうそこは荒野だった。 なだら

          日帰りの荒野|スコットランド巨石日記

          秋は黄金|スコットランド巨石日記

          国王爆殺未遂事件を祝う奇祭「ボンファイア・ナイト」の花火と焚火を見送った夜あたりから、エディンバラはますます黄金に染まってきた。 秋の葉っぱたちがやってくる季節である。日本語で「紅葉」と呼ぶ現象を、英語では「秋の葉 autumn leaves」と呼ぶ。「紅」と限定する日本語よりも、ざっくり「秋」とくくる英語のほうがそのものに近いけれど、私にとって「秋の葉」という表現はあまり馴染みがなく、なにか別のこと(たとえば、キノコのカサがぽわぽわに広がって蜂蜜色になる現象とか)のように

          秋は黄金|スコットランド巨石日記

          やがて雨雲に似てくる私|スコットランド巨石日記

          人の気質は、土地に似る。住む土地を変えれば、気質も土地にしたがって変わってくる。 私はエディンバラに住んでから即興的になった。 もともと決めた予定どおりに動くより、その日の気分で動くほうが楽しい人間であったが、グレート・ブリテン島にきてから、その気質が強くなった。 私をこのようにしたのは、この土地の天気である。 「1日のうちに四季がある」という通説どおり、この海岸沿いの都市は、天気も気温もくるくると変わる。朝は晴れていても午後に大雨がどっさり降るし、雲が空をおおってい

          やがて雨雲に似てくる私|スコットランド巨石日記

          海外文学の書評・レビュー連載を2年続けたまとめ【執筆Works】

          藤ふくろう名義で、海外文学の紹介や書評を執筆している。 2021年1月~2022年12月号の2年間、『本の雑誌』の新刊レビュー連載「新刊めったくたガイド」の海外文学を担当した。 「新刊めったくたガイド」は、1978年6月発行『本の雑誌』からスタートした看板コーナーで、直近2か月に発売された新刊を、月4~7冊を紹介する。私はこの2年で、140冊ほど読みまくって紹介しまくった。 いやーすごかった。海外文学を読んでブログで感想を書き続けて15年ぐらいになるけれど、新刊ばかりを

          海外文学の書評・レビュー連載を2年続けたまとめ【執筆Works】

          魔女たちの霧 |スコットランド巨石日記

          きれいは汚い、汚いはきれい、にごった霧の中、飛んでいこう、と歌いながら、『マクベス』の魔女たちはスコットランドの上空を飛んだ。 『マクベス』の舞台コーダーはエディンバラよりずっと北の町インヴァネス近郊にあるが、魔女たちが箒で切り裂いたであろう霧は、ここエディンバラでもよく見られる。 今朝は、とりわけ深い霧が出た。数メートル先を見通せないほどの白い霧に飲まれて、向かいの信号がまったく見えなかったので、車が来ないことを祈りながら、おっかなびっくり道路を渡った。 人と木と車の

          魔女たちの霧 |スコットランド巨石日記

          旧市街と地下街のハロウィン | スコットランド巨石日記

          数世紀ものあいだ糞尿と雨と霧を吸い続けてきた旧市街の黒い石畳を、3組の黒いブーツが通りすぎる。黒いブーツに黒いパンツ、黒いニット、そして黒いマントに、黒いとんがり帽子。そろいの格好をした黒ずくめの魔女たちは歌いながら、エディンバラ城の立つ丘に向かって、蛇行する石畳をのぼっていく。 旧市街の目抜き通りであるロイヤル・マイルは、今朝の深い霧のせいか、しっとりと濡れている。16世紀の面影を残すゴシック様式の尖塔たちが、槍のように曇天を突き刺している。黒い雲の切れ間から、太陽の白い

          旧市街と地下街のハロウィン | スコットランド巨石日記