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一次産業の未来予想図?

乱獲によって海に住む魚が減少し、全世界の天然魚の漁獲量は1985年あたりから横ばいが続く。一方、新興国では所得の増加によって食文化が変化し、魚類の需要は増加の一途をたどっている。1990年から養殖による生産量は急増しているが、海面養殖では適している場所が限られるため、魚類の供給が需要に追いつかなくなることが危惧されている。そこで注目されるのが、海面ではなく陸地で魚を育てる陸上養殖だ。陸上養殖とは、陸地に設けられたプラントで魚を育てる方法で、水道水から作った人工海水を使って海の魚を育てる閉鎖循環式の技術が注目されている。水道水さえ確保できれば、内陸部でも海産物の工場を建設できる。デパートの地下にプラントを作れば、都心でも獲れたての新鮮な魚を安価で販売できるようになるし、流通倉庫内にプラントを作ればインターネットからの注文でその日のうちに新鮮な魚を届けることも可能だ。大手の通販企業が漁業に参入してもおかしくはない。

東邦ガスは2022年6月2日、愛知県知多市にある知多緑浜工場内の施設で、陸上養殖中の「トラウトサーモン」の初出荷に向けた水揚げ作業の様子を公開。約500匹のサーモンを締め、血抜きした。施設には、直径約10メートル、深さ約1.3メートルの水槽二つを設け、約3200匹を養殖している。6月の出荷量は4トン(約2千匹)程度を予定し、「知多クールサーモン」のブランド名で東海地方のスーパーの店頭に並ぶという。同工場内には、天然ガスを原料とした水素製造プラントの建設も計画している。東邦ガスは、2021年11月から日本水産と共同で実証実験を開始。マイナス162度の液化天然ガス(LNG)に熱を伝えて気化する際に利用した海水をサーモンの水槽に入れて再利用し、夏でも水温を保ち通年養殖を可能にする。従来は、温度が低下した海水の多くを海に放出していたが、再利用することでエネルギーの有効活用と食の持続性への貢献につながるとしている。海で確保できるサーモンの量に限界が近づいているため、国内では三井物産、伊藤忠商事、丸紅、三菱商事がサーモンの陸上養殖に参入している。

2022年8月10日、陸上養殖アワビの缶詰「箱入りあわび」2種が発売された。3年かけて陸上養殖で育てた「三陸翡翠あわび(貝殻がエメラルドグリーンに輝く独自ブランド)」を丸ごと1個つかい、バターソテー風と白ワイン煮味に仕立てた。岩手県大船渡市三陸町にある元正榮(げんしょうえい)北日本水産が手がけるアワビの陸上養殖は、親となるアワビを育てて産卵させるところからスタートする。通常は小さなアワビを仕入れて養殖するのが一般的で、卵から食用サイズまで育てているのは国内では同社だけ。1年間でおよそ40万個の食用アワビを生産している。高品質なアワビを安定的に提供するために、地下海水(海岸近くの地下数10メートルの井戸から汲み上げられた海水に近似した塩分を含んだ地下水)をろ過して磨き上げ、24時間365日かけ流しで使用することによって常に清潔な水・環境を維持している。ワカメや昆布を主成分とする餌をたっぷりと与え、外敵のいない環境で育てたアワビは、肉厚で柔らかく刺し身でも美味しく食べられる。2011年3月11日の東日本大震災後、取引先からの支援や国の助成制度などを用いて復興を進めてきた。しかし、2019年12月に最初の感染者が報告された新型コロナウイルスの影響で、飲食店や宿泊施設との取り引きが激減。苦し紛れにECサイトを立ち上げた。初心者でもわかりやすいアワビのさばき方動画やレシピを作るなどの工夫をこらし、現在では1000人規模のファンを抱えるサイトに成長(2021年7月時点)。全国各地から注文が舞い込んでいる。

宮城県本吉郡南三陸町の志津川湾は、東日本大震災の津波で一変。生い茂る海藻が押し流され、豊かな生態系のバランスは崩れた。海水温が上昇して生命力の強いウニが増殖し、残った海藻を食べ尽くして磯焼けを起こした。痩せて身入りの悪いウニは放置され、磯焼けはますます悪化した。水産加工会社ケーエスフーズは、「南三陸海と陸の恵み活用プロジェクト」を始動。宮城大学などと協力して、駆除された痩せウニを陸上養殖する研究を始めた。東日本大震災で被災した町の沿岸部に水槽を設置し、1時間あたり50トンの海水をくみ上げ、水温や塩分濃度を自動制御で管理し湾の環境を再現。商品加工で出るワカメの切れ端やキャベツの外葉などを使うことで、餌代を節約するとともに廃棄コストも削減した。数か月間経過したウニは、重さに占める身の割合が15%超まで増えた。プロジェクトは、農林水産業みらい基金の2019年度助成対象事業に決定した。三陸沖で多くとれるのはキタムラサキウニ。身の部分は生殖巣で、食べる餌によって色や風味が変化する。2022年3月中旬、仙台市中央卸売市場に初出荷されたウニの評判は上々で、およそ1か月で1万個近くが売れた。2020年の宮城のウニ類漁獲量は、北海道、岩手に次いで全国3位の540トン。天然物が出回らない冬場に味わえる新たな養殖物として期待がかかる。

ケーエスフーズでは、2022年7月15日からの記録的な大雨の影響で、ウニの養殖に使用していた水槽の塩分濃度が下がり、51万個のうちの8割にあたる41万個のウニが死んだ。9月と12月に予定していた出荷はキャンセルになった。通常の雨では影響を受けないが、今後、1日に50ミリを超える雨量が予想される場合は、水槽にふたをするなど雨が入らないよう対策を講じる。社長の西條盛美さんは、「数は相当減りましたが、10万個くらい残っているので、これを希望につなげていければ」と話した。

※ 見出し画像にはPixabayのフリー素材を利用しています。

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