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食品由来の培養液で筋細胞を増殖

世界的な人口増加や新興国の経済成長に伴って食肉需要が急速に拡大し、国際連合食糧農業機関 (FAO) によると2050年には2007年比で1.8倍に上昇すると予測されている。また、家畜の生産には、エサとなる飼料や多量の水、広い土地を必要とするほか、げっぷによるメタンをはじめ温室効果ガスを多く排出することから、地球環境に与える負荷が問題になっている。こうした中で、食肉不足を解決するサステナブルな食材として「培養肉」が注目されている。培養肉は、動物の肉の筋細胞を用いて作られている。シンガポール食品庁(SFA)は、培養肉の販売を2020年12月に世界に先駆けて承認した。

日本ハムは2022年10月4日、培養肉を作るために必要な培養液の主成分を、動物の血清から食品成分に置き換えることに成功したと発表した。食品成分を加えた培養液を使って、ニワトリやウシの細胞を血清をベースにした培養液と同等の増殖率で増やし、コストを約20分の1に削減できた。記者会見では、ニワトリの細胞から作った縦3.5センチ、横2.5センチ、厚さ5ミリの培養肉が公開された。培養肉は動物の体から採取した血清を使って作ることが多いが、血清は高価で安定調達が難しく、商用化に向けた課題となっていた。特許出願中のため具体的な食品成分については明らかにされていないが、一般的に流通している食品のため、安全性を確保しながらコスト削減や安定調達ができるとしている。日本ハムは、実用化に向けて大規模に培養する技術の確立を進める。

事業参入するのは大手食品メーカーだけではなく、島津製作所や凸版印刷なども培養肉での協業や開発に参画している。日揮は2022年1月、培養肉の商業プラントを手掛ける新会社・オルガノイドファーム(神奈川県藤沢市)を設立。2030年の運営開始を目指している。欧米やイスラエル、シンガポールなどを中心にした、培養肉関連の起業や事業参入、投資も進んでいる。培養肉を製造する流れは――1.牛や豚、魚といった動物から種細胞を採取。2.培地(培養液)で細胞を生育。3.バイオリアクターに移し細胞を大量に増殖。4.最後に、3Dプリンターなどで立体形成する。この工程は再生医療分野で人間の人工臓器をつくる流れとほぼ同じで、培養肉工場で大量生産が可能になれば、人工臓器を低コストでつくれるようになると考える人々もいる。培養肉工場で必要とされるのは、培養液への不純物混入を防ぐクリーンルームのノウハウ。無菌培養の必要があるため、半導体工場や精密部品工場、自動車部品工場の技術を生かせる。農林水産省が2020年に立ち上げた「フードテック官民協議会」では、作業部会のテーマの1つに培養肉の産業化に向けた検討を設定している。

※ 見出し画像にはPixabayのフリー素材を利用しています。

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