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宝石の国を2周したオタクの感想文

※全力でネタバレしているので履修予定のある方は絶対に読まないで下さい。
(前知識なしで宝石の国を最新話まで喰らう反応で助かる命があります)
(96話「一万年」まで読みましたが含まれるネタバレは1話~95話「終戦」までのものです

前情報として自分は、宝石の国単行本派で
今回の無料配信までに単行本11巻までとアニメを履修、市川春子作品集2作も好きです。
(ヴァイオライトの寂寥感と日下兄妹の愛おしさと
25時のバカンスの愛らしさとエッチさがとりわけ好きです。)
本誌を追うほどのガチではないけど作家単位で大分好きくらいの塩梅です。

連載再開!全話無料!の流れを受けて改めて1から読み返すと初期フォスの感じ始めとして様々な様々に情緒を狂わされてボコボコにされました。

なので新鮮な感情を忘れないうちに、宝石の国おもしろ…おもしろ~~~と思った所以をポイント別に自分なりに書き留めてみた次第です。

宝石の国の世界観と展開の強さやばい

市川春子作品全般に通ずるなと感じているんですが、宇宙や自然、未知…あらゆる万物が人の形を取っていたり言語を用いたり、そういう一見として超常の現象を「その世界ではそういうものなのだと」当たり前にさっぱりと描写する作風の没入感は市川春子作品の大きな肝の1つだなと思います。

この星にはかつて にんげん という動物がいたという
この星が5度欠けたときまではしぶとく陸に生き残ったが
6度目にはついに海に入り 魂と骨と肉 この3つに分かれたという

(第九話 魂・肉・骨)

そして宝石の国。

「粉々になっても再生する不死の体を持つ28人の宝石達と、それを装飾にしようと襲い掛かる月人との果てなき戦いの物語」というあらすじの元、宝石達の日常が描かれていくことから物語が進んでいくわけなんですけど。
主人公がとりまく小さな世界から、違う立場の、違う視点を持つ何かが現れてくることで少しずつ明らかになっていく世界の全貌…
最近だと進撃の巨人とかでも味わったんですが、今まで信じていた世界が狭窄した主観でしかなかったんだと思い知らされていく衝撃というのは言葉にならないです。宝石の国はそういう、「世界の常識」と思わされていたことががひっくり返るどんでん返しが二転も三転もある。

とりわけ月に着いてから畳み掛けられる怒涛の真実を突きつけられたときとかやばい。ジェットコースターに乗った気持ちになる。ドドンパくらいのやつ。いや本当に衝撃的なんだ。

月人が綺麗な宝石欲しさに襲ってくる(フォスの教えられたこと)
→かつて星にいたにんげんという動物に戻りたくて肉と骨と取り戻して月人はにんげんに戻りたいから襲ってくると言われている(アドミラビリス族の言い伝え)
っていう1話→9話の流れで「へえ~…なるほどねえ~~じゃあそうなんだわ」って思わされてたことが54話で「アドビラビリスは早とちりでせっかちだ」の一言で一蹴されるなんて誰も思わねえんよ…

それでいてキャラクター一人一人の行動原理というものも確かにあって、石だったり貝だったり不死だったりでも根付く感情はどうしようもなく人間臭い。

「奇抜な体だ 進化に疲れたろう 私たちもだよ」

(第五十四話 祈りのための機械)

当初こそ月人憎しで読み進めていたのに他でもない月人側の割と切実な思いが明かされて「んええ…仕方ねえよ…そら…決して良いことではなかったけど、それでも仕方ねえよ…」って気持ちになるし。

誰もが憎みきれないものを抱えていることが分かっていくからこそ、事態の流れに致し方なさを感じてしまう。

ただ、それ故にケツ持ちが主人公にばかり巡っていく状態に、中も外も歪になっていく痛ましさに、どうしようもない感情を向ける場所が分からない。
地獄…地獄か…?
いやまじで…ヒールのいない誠実な優しくて永遠の世界ってこんなに地獄なんだ…
(まあ、何か成り行きで至ったというかある程度誘導的に引き起こされた展開だったことが判明してく故に読者的にヘイトを向けるのであれば彼なのかもしれないんですけど。宝石達の安寧を望んで行動したフォスと行動原理の根っこが同じように思えるからこそ私は彼のことも憎みきれないんだ)

ただただ3族、各々が幸いを求めて、終わりを求めて、納得したくて、純粋に求めた何かに執着して、勇気をもって行動して、それが物語になっていく。
何でこんな世界が作れるんだ。すごすぎる、宝石の国の世界すごすぎるよ。

宝石の国の関係性とその推移やばい

前段落でもちょっと触れてはいるんですけど、世界の残酷さを存分に感じさせてくれる宝石の国の魅力のもう1つはやっぱりキャラクターだなと思います。

個々の自我はもちろんだけど、関係性大好きな同人オタクにも十二分に刺さりまくる相関図が多すぎる。
好きな関係性についてちょっとここで述べさせて。

ダイヤとボルツ

「変わりたいのは僕 あんな風になりたいの」

「強くなければダイヤモンドではない
だから ボルツだけが本物のダイヤモンドよ」

「だから でも たまにほんの一瞬 ボルツさえいなければ なんてね思っちゃうの とても愛してるのに ダメね」

(第三話 ダイヤモンド)

序盤からその片鱗を遺憾なく発揮してくるのがダイヤ2人。というかダイヤモンド。
この気持ちに名前を付けて、とか何かそういうのにオタクは弱い。

「そのくらいまったく変わってしまえば 僕にどう見られてたり気にしないで 誰と比べたりもせず 嫉妬したり見栄をはったりしなくて済むのかしら」(第五話 メタモルフォス)

「別れてよかった 遠くにいるボルツは 大事に見える」 「僕もだ」(第二十五話 分岐)「ボルツがいない場所に行きたいの」

(第五十九話 動揺)

誰にでも優しくて愛らしいキャラの重めのエゴにオタクは弱い。
遠くにいる貴方が綺麗はそれはもう…本当にもう…
自分の感情表現は一途が過ぎて重かったり、他人の恋愛には脳筋思考なのも良い。(告白でもされたの?とかシンシャの心とか?辺りのくだりもわしは大好き)
本当に古き良き古典的で究極の愛の形がこの2人にはあるなと思うのです。

「変わったね 兄ちゃん」

(第八十七話 静寂)

長らく変わりたかったのはボルツに執着しない自分を望んでいたからで、離れて月で自我の主張を覚えて、それでも結局自分が一番変われたのは執着があったから。
数百年かけて至った落とし所は皮肉で愛しくて最高にクレイジーだわね。
あと第九十五話で出てくるギャラクシークレイジーダンサーの歌詞が本当に良い。かやのんの声で絶対に聴きたい。あれはもうWake up my music。最高。

ルチルとパパラチア

「たとえば 俺はルチルに俺のパズルを辞めてほしいと思ってる」

(第二十九話 パパラチア)

ラクさせてやりたいとか何かほんとパパラチアのそういうところさ~~~って一瞬でなれる即効性の罪深イケメン強キャラ感ほんとたまんねえんじゃあ………

なんか、こう、率直でイケメンで誰からも慕われて完璧すぎて底知れないミステリアスな魅力は完全に女子からモテる女子のそれだと個人的には思ってるんだけど、それに執着してしまうサイドの沼が計り知れないのも何かこう察するに余りあって…

アニキを月に連れてかれてからずっと発狂してるルチルのしっくり感に私は正直内心ニコニコですらあった グレ方がイチャイチャしてんじゃねーぞ!なのもだいすき

「ルチル ほら土産だ 参考になる」 

(第八十一話 土産)

…相手の為を思っての自己犠牲をもって拗れていたものが致命的に拗れるまでのあまりに綺麗な一部始終なんだあ

ベニトとネプちー

「僕はみんなの中でもすごくふつうだろ?だから月人みたいな超変なやつって ちょっと憧れるっていうか ネプちーが相当変じゃん?ずっと一緒にいるとさ ふつうって意味があるのかなって時々自信なくすんだ」

(第六十話 懐疑)

正直1周目のときは自分の中で認識薄めだったんだけど、87話を踏まえて2周目読んでくうちにじわじわきた2人。

ベニトが何か、ほんと、普通すぎて本当に初見だと他のキャラの強さで目が向きにくいんだな…2周目読み進めてたら何か…ほんとずっとNoと強く言えない成り行き任せな子いる…って印象残るようになったのよね

「ベニトのこと心配になった?」「ならない」
「嫌いなわけじゃないでしょ?」「好き」 (第八十三話 照返)

「ずっと!言えなかったんだけど!僕は君のわけわかんないとこが好きじゃなかった!いつも見下されてるみたいで!でも早く逃げなよ!」

(第八十七話 静寂)

聞かれなければ答えないけど当たり前のように好きだったネプちーと、見下されてるみたいで好きじゃなかったことがずっと言えなかったベニト。

伝えることのなかったお互いへの思いがどうであれ、ずっと一緒にいたから好きになったんだろうし、ずっと一緒にいたから好きじゃなかったけど壊れないで欲しかったんだなあって…重さのない感覚的な感情も数百年分だと思うとじんわり染み込むなあと思ったよ。

アメシスト

「僕らうまれてからずっと一緒だから一緒に月に攫われるのも怖いけど バラバラに離されたらどうなっちゃうかが一番怖いんだよね 安全な方法で離れる練習ができないかなあって最近ずっと思ってたんだ エイティには言ってないけど」
「エイティ・フォーね」「だましてごめんね」

バラバラが怖いから安全に離れる練習がしたかったサーティと、いちばん怖がってた月に一人残して行っちゃうエイティの個体差~~~ってなったやつ
見た目もキャラクターの性質も一見見分けがつかない双子キャラの深堀りの中で見えてくる根っこの決定的な差異がオタクは大好き。

二百二十年を月で経て、自我を発達させたことで月人の技術吸収に明け暮れる科学者肌に目覚めたとこを見ても、元来の探究心があったからこそ離れる恐怖もサーティより乏しかったんだろうなあ
フォス、月に連れてきてくれてありがとね……ウッ頭が

カンゴームとフォス

どうしてもつらい時はアンタークでもゴーストでも俺のことは好きに呼べ

(第三十九話 自戒)

シリアスと悪態のバランスも空気が読め合える気の置けない悪友関係がオタクはry

とりわけ男男でこの関係性持ってこられると私は好きがちなオタクだったのでカンゴームと仲良かったときのフォスがオカッパだったのは完全に恣意的だと思っている
いやまじで好きだった…のでお姫さんショックは割と結構本当にショックだった…

「趣味わっる」「うるせえ複合体ブスまた頭割られてえか」
「んだと暴力ブス気軽に頭割ってんじゃねえよ」

(第七十二話 救世主)

…でもあんだけ男子学生ノリだったのに、すっかり女子学生ノリになった初期姫ちゃんとのやりとりはこれはこれで好き

姫と王子

「君の願いは自由だったね」
「願い事変わったんだ 俺もおまえと無に行く 方法は自分で探す!」
(第七十五話 願い事)

「わかった!おまえにぴったりくっついてれば俺も一緒に無に行けるんじゃないか!?絶対そう!おまえいつもくっつきたがるし!」

(第七十八話 経過)

えぇ…カンゴーム…うそお……そんな180度キャラ変することある…???
って最初すんごいめちゃめちゃ戸惑ってたんですけど5話10話くらいの間に何かしっかり愛着湧いちゃうキャラメイキングの妙よな…

どこからどう見てもバカップルなのにバカップルの素のまま宝石と月人としての運命に抗うスタンスなので何か…何か愛おしくなっちゃった…愛…

シンシャとフォス

「夜の見回りよりずっと楽しくて君にしかできない仕事を僕が必ず見つけてみせるから!」「月に行くなんて言うなよ!(第二話 シンシャ)

「見つけたんだ 君の仕事」「君としかできない仕事だ 手伝ってほしいんだ」「楽しいは? 楽しいはどうした 楽しいが抜けてる」

(第三十六話 新しい仕事)

物語の肝の1つであったろうシンシャとフォスの「約束」。

優しくて聡明で、だからこそ周囲を鑑みて孤立を選んでいたシンシャに、向こう見ずだからこそ差し伸べられた提案が嬉しかったんだろうなってことは「嘘つきというのだけは待ってやってもいい」にしても言動の節々から伝わってとにかくかわいい。

ウェントリコススに「誰かに頼られたのは初めてなんだ」って語るフォスもまた、期待されてない、一方的な約束なのだと自負しながらも、多分自分から何かしたいと思った初めての「やりがい」だったんだろうなと思うとあ~~~…ってなる…このシーンはアニメのともよさんの演技がまためちゃくちゃ良い…宝石の国は…アニメも良い…

純粋な2人のピュアで少女漫画みたいな関係性がベースにあるからこそ展開ごとの…フォスの変容に対する「約束」「新しい仕事」の本質の変化さあ…あのさ~~~~~!!!

「忘れないよ 君のことは」 (第四十九話 辿る)

「月に行ってくる 一緒にどう?」「行くな」

(第五十二話 旅路)

月に行くなんて言うなよ!から立場がすっかり逆転するの、どんな気持ちで受け止めたら良いんだよ…

「今度こそ一緒に行こう」「俺は行かない」
「月人にすら好かれるおまえに 独りの気持ちはわからない」

(第六十一話 訣別)

皆のためにと思いながら、思えば思うほど孤立してくフォス、
いやだから…どんな気持ちで受け止めたら良いんだよ…

第六話エクストラクトで、シンシャは自分の毒でフォスのシルエットを形作るんだけど、第九十二話 夜の冒頭でもフォスを前に同じことをしてるんですよね
それを、九十二話ではああしてしまうのが…聡明な彼女が出した結論であり諦めであり、それでも、ずっと忘れられなかったことだったんだなって感じで…
下手に死別するよりも諦めのつかない感情に諦めをつけるのってどれだけ勇気が要ることなんだろうね…ああもう……なあ…???

「おまえのおかげで みんなと仲良くできた 楽しかった
ありがとう 約束を」  

(第九十三話 約束)

ヒン……………

フォスフォフィライト

宝石の国におけるフォスフォフィライト概念ってテセウスの船だよねって話。

ある物体において、それを構成するパーツが全て置き換えられたとき、過去のそれと現在のそれは「同じそれ」だと言えるのか否か、という問題(同一性の問題)をさす。

(wikipedia)

多分なんですけど、最新話まで読んでフォスフォフィライトを見て過去と現在のそれは「同じそれ」だと思うか思わないかで、フォスに対する受け止め方ってかなり違うんだろうなと思います。

ただ、ずるいのは宝石の国という物語は、起点としてのフォスフォフィライトの主観を追っていて視点が変わることがない。
「仲間のために」という行動原理もブレなくてそれが行き詰まりになったから自分のために祈ってもらうために「仲間を粉々にしたい」という理屈にいきつくまでにも思考の連続性はある。
だからこそ読み手にとっては1つの視点でずっと見ている「彼」が当初と変わらない「同じそれ」=「フォスフォフィライト」であることを諦めきれない構造をしてる。

でも、世界の全貌を知らない作中一人一人のキャラクターからしたら「フォスがすっかり変わりきって成れ果ててしまった」って思い至ってしまうのもまた自然なことで。
それがすごく残酷ですごくずるいなと思っています。

なんでかはわかんないけど 誰でもよかったとは思いたくないんだ 僕さ
誰かに頼られたのははじめてなんだ だから次は絶対僕が助けてあげなくちゃ(第七話 ウェントリコスス)

ずるい そんなの聞いたら 王のこと怒れないじゃない (第十話 帰還)先生が大好きだから助けたいんです(第十二話 イエローダイヤモンド)肝心な時怖くて走れなくて 怒られなかったのが くやしくてねむれない

(第十五話 冬眠)

考えなしのあんぽんたんで純粋な頃から仲間思いのフォスの自我は初期の頃から愛おしい…弱くて動けなくて守れない自分が悔しいから強さを求める流れもすごく自然…

「生き物はこんな速さで変わっていくんですね 怖いな……」
「おまえもだよ」
「それは…… そうです…… そうですね……怖い」(第二十話 冬の終わり)

「そうか そんなに ヘンか」「今まで気にならなかったけど全身ハデではずかしくなってきた……」(第二十一話 春)
「あんなに憧れた戦争の仕事も 今はもう 危険な作業?」
(二十二話 変容)

「僕は本当にことが知りたい 先生に訊くのは勇気がいる 勇気 また勇気かどれだけいるんだ 僕の最初の願いはなんだっけ……」
(第二十八話 しろ)

「いつかこうなるという予感はあったのですか」「まさか 根拠なく明るい予感に甘えられていた頃がふしぎで うらやましいよ」

(第三十話 虚黒点)

無我夢中て手に入れた強さと変化。

ふと周囲を振り返ったときの変化に対する怖さと憧れていて手に入れたもののろくでもない現実を悟る姿が見られるようになった中期フォスもまたモラトリアムを脱する人間的な成長が感じられて苦いながらも愛おしい。

ただ、愛おしいで済まないのは体が欠けた分記憶を喪失するっていう人間とは違う宝石のシステム故で、何かもうこの頃から不穏っちゃ不穏だった。

「仲間を見捨てて月人を見逃そうとしたのは先生じゃなくて 僕だ」
(第三十四話 反転)

「みんなやさしい みんなと一緒に戦うのはいいね」(第四十三話 盤上)

「なんでだろう できるなら先生から本当のことを聞きたいそっかまだ 先生を愛してる」

(第五十一話 伝説)

月人を調べ始めて、「仲間の為」以外の目的故に仲間を見捨てる残忍性が自分の中に出てきたことにショックを受けて、ラピスラズリの頭になって尚、先生への愛はそこにある。

ただ、記憶はどこまで残ってるのか怪しいし、フォス自身が変化を恐れてるからこそのショックを受ける描写だったり自分の中の感情を再確認する姿から見える人間味は何か次第に痛ましいニュアンスを伴ってくる。

「なにひとつ 想定と違う どうする どうするも何も考えろ 考えろ 正気に戻れば崩れる」(五十五話 呪い)

「先生がさびしくないように 早く完全に壊してあげないと」
(第六十八話 変転)

「月人からみた僕は宝石で 皆からみたら月人だ 僕は何だ」

(第七十二話 救世主)

月人の事情を知って、仲間を取り戻すという大義が困難なことが分かってきて、そのために裏切ってきた自分はじゃあ何なんだって行き詰まり。
半分狂いながらもなまじ冷静な頭は状況も状態も俯瞰する。
いや…何て丁寧に段階を踏んで1人の人格を狂わせるのが上手いんだよ…

「合理性がある!」「信じたいだけだ」
「変わらなければならない」「弱かったおまえは変わりたいだけだ」

(第七十話 未明)

このボルツとフォスの問答がまた絶妙で…

~しなければならないのだと、大義を掲げて、でもそれは最初から外でもない自身の為の行動でしかなかったのではないかっていう。

(ボルツは周囲と比較して感情よりも理屈の比率強いオタクだからこそ客観視が刺さる…っていうカードをこのどたんばで切ってくるのがおげえええ…って感じ)

事態全体から見える月人の限界値からしたら「緩やかな破滅へ至る箱庭の維持」か「辿り着けるか分からない希望を求めて足掻く」かっていう状態であった以上結果論なのかなって感じだし、結局のところそのどちらを選ぶのも誤ってはいないからこそ対立がしんどいんだよな……なあ…

「低硬度から勇気をとったらなにもない」
「できることしかできないよ」「できることしかやらないからだ」
「できることならせいいっっぱいやるよ」
「できることしかできないままだな」

(第十六話 流氷)

問答といえばアンタークとのこれも好き

「こんなことがしたいわけじゃないでしょう?一緒に考えましょう 僕らの未来にはあなたが必要よ」

ほとんど自分が分からなくなってきたその段階で、ユークのこの言葉に白金の涙を零すフォス、「涙」の概念を誰も知らない世界で、誰もその感情に寄り添えないの…なあ………なあ…

「祈れ機械 僕のために おまえさえいなければ」(第八十話 三族)

「次は僕の邪魔をする すべての宝石を粉にしてから望む」
「宝石さえいなければ」(第八十二話 成り行き)

「あなたは生まれつき弱くて」「できることなど何ひとつない」「変われないのね」「誰もおまえを愛さない」「おまえさえいなければ」(第八十三話 照返)「早く 地上の全てを破壊しなくては」

(第八十四話 前夜)

守りたかった対象も、愛していたその人も、早く終わらせたい一心で憎しみに取って代わったけど、誰のことを犠牲にできないまま行き詰まって疲れ果てた先にその感情ってあるんですよね…

一面だけ見ると残忍な別人にしか見えなくても、連続性はずっと保たれていて、その復讐の感情ってすーごく建設的で人間的な機序をもって発生していて。

「せんせーそのこは戦うんですかー?」
「まだわからないが やさしい子だ」

(第三十一話 新鮮な)

今も昔も壊れても、もうずっとフォスは優しい子なんだなと。

あー…何て世界だ…

軽やかなタッチで描かれる緩やかな破滅と淡々と示されていく個々のエゴ、平然と為される最大多数の最大幸福、そうして得られたら一万年の「幸福な生活」至るべくして至ってしまった第一部の結末を迎えて尚、私はやっぱりフォスを含めて作中のキャラ全てが人間的で愛おしい。

あーもう…本当に…何て世界だ…

これからの幸福

「本当だとも いつか僕が会わせるから 訊いてみて」

(第四十七話 百二年)

月にいったモルガとゴーシェの代わりに生まれた新しい内気なモルガに向けた言葉。
「あいつも君が好きだと思うな」「ほんと?」の掛け合いに対して返したフォスの返答。気休め的なものだと当時は受け取っていたんですけど、ああ、きっとモルガはモルガに月で会ったんだろうなと思ったりしたのでした。

この先の行く末を見届け切るまでわしゃ死んでも死にきれねえ…
願わくばフォスが、3族が、皆が納得のいく最期を迎えられたらいいなと思っています。これからの展開が本当に待ち遠しいです。本当の幸いとはなんだろうね

強くてもろくて美しい、宝石の国を形作る世界・感情・物語が
私はとても愛しくて大好きです。

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