終わりと始まり

2023年8月2日(記載日)

フランスW杯が開幕したこのタイミングでは相応しくはないのだが、書き留めて途中だったもの、しかも自分にとって非常に大きな出来事だったので、W杯について書く前にしっかり書き残しておきたい。

7月14日、南アフリカから帰国した。20歳以下日本代表に関わることができ、世界大会に帯同してきた。してきたというか、させてもらった。当時の所属チームの不祥事による活動停止で、わずか4試合でシーズンが終わった。自分自身からだが空いたこともあって、他のチームメイトが一切のラグビー活動ができなかった(試合観戦すら認められない)、自分だけ日本代表に関わるというとてもとても幸運な時間だった。

チームに参加したのは3月7日から。まだ選考過程にある第3次合宿、の2日目、辰巳ラグビー場から私のU20活動が始まった。右も左も全く分からない。ヘッドコーチやコーチが有名な方で、マネージャーに元トップレフリーだった方が関わってる、くらいしか分からなかった。これまで20年近くものあいだ主として社会人選手しか関わってこなかったので、大学生、しかも1、2年生をの選手のことも全然知らない。
ただ、所属チームの一ヶ月の謹慎が解ける、ラグビーに関わる喜びしかなく、50歳も過ぎたくせに、辰巳の駅からワクワクしながら歩いていったのを覚えている。

それから4ヶ月、自分なりの全力は尽くした。コーチや選手によっては、自分の仕事は決して十分に満足できなかった、かもしれない。もっとちゃんと、きちんとやれたアナリストはいる、と思う。もう少しやれたかもしれないが、まあ、おおむね、この4ヶ月、すべて、とても光栄に、やらせてもらった。

やはり代表チームに関わるのはとても名誉なことである。桜のマークをつけたウェアで活動、これ以上のモチベーションはない。若い有望な選手はこれからの日本ラグビーを支えて行く。スタッフ陣、メディカルスタッフもコーチングスタッフもこの世界では有数な人たちばかり。この集団のなかで、世界大会へ向けて活動させてもらえる。繰り返すがまだまだチームメートが自粛してるなかで、光栄しかない。

日本が入ったプールは目下2連覇中(コロナ中断前)のフランス、ラグビー王国のNZ、そしてこれまたラグビー強豪国のウェールズだ。強いチームばかりだがなによりケープタウンという日本から遙か遠い地でこうしたチームと試合が出来ることに興奮した。第1戦のフランスはとてつもなく、そして予想どおり強かった。メンバーの多くが日本のリーグワンにあたるTop14に所属、FWのバックローやバックス選手はレギュラーで試合にでている選手もいる。日本に置き換えるとリーグワンで試合に出ている大学生がいる時点で異例だ。ましてや2人の選手は9月のW杯スコッドに選ばれてしまって大会に参加すらしない。フランスは調べれば調べるほどその強さが恐ろしかった。実際の試合では日本の選手は前半で圧倒された。後半に少し持ち直したもの圧倒的な力量差を痛感した。第2戦のウェールズ。唯一、力が劣る。チャンスがあるとしたらここしかなかった。2〜3月のU20での6カ国対抗でもFWは他国に比べて苦戦していた。人口を考えてもこの年代はまだまだ成熟が足りないのかもしれない。試合でも日本の選手はFWのスクラムやモールでかなり頑張ったが、不運(とだけでは済まされない)レフリングに泣いた。日本のレッドカードはともかく、その前のウェールズ選手の頭部へのコンタクト。あれこそもレッド対象だったはず。後日のワールドラグビーのヒアリングでレフリーマネージャーが日本側に、あれはレッドをだすべきだったと謝罪したのを目の当たりにして非常に悲しくなった。第3戦のNZも数名の選手だがクルセーダースやハリケーンズの主力だし、7人制で世界を駆け巡る選手もいる。どう考えても日本の選手達のこれまでの戦うフィールドとスケールが違い過ぎた。実際の試合では前半日本はスクラムから目の覚めるようなプレーでトライを奪うなど大善戦したものの、終わってみればNZのスピードとスキルに完敗した。プレーオフ、順位決定戦ステージでの第4戦の相手となったアルゼンチンはディフェンスが強固で、雨の多い季節で泥濘んだグラウンドでも力強いコンタクトで日本の強みであるモールを抑え込まれ、この試合も落とした。最終戦、これで負けた方が来季降格する大事な一戦の相手はイタリア。南アに勝つなど、ここに来るのが不思議なくらいの相手で、大きな選手も多く、日本選手も全力を尽くし、途中までは膠着した試合展開だったが、最後は息切れして降格してしまった

帰国して8月2日、機材を保管する倉庫へ行って整理してきた。まだまだ整理が完了していないが、一つひとつ作業を終えるごとにU20チームから離れていくステップを踏むのがさみしい。最終戦のイタリア戦前も、これが最後の練習、最後のキャプテンラン、最後のジャージプレゼンなど思うたびに寂しく感じた。忙しい遠征が終わり帰ることができるのを嬉しいと思う気持ちがないではないが、このチームが終わる哀しささみしさがそれを上回った。未練がましい性格なのか、当時の練習映像などを見てU20ロスに陥ってる。若い有望な選手達との日々はいまでも夢のよう。もっと選手と会話すればよかった。そしてトップクラスの専門スタッフ、コーチと協働できたのも自分の財産だ。テーブルマウンテンの絶景とともに今でも燦々と輝いている。まだまだこれからどうにでも変われる選手達のこれからが楽しみだ。関東関西、全国の大学ラグビーシーンで活躍する彼らの今後を見守れる。なんか勝手ながらすごく得した気分であり、楽しみが増えた。

しかししかし結果はしっかりと受け止めなければいけない。あれだけ全力だったからこそ、全く勝負にもならなかった戦い、3月からの4ヶ月の活動はしっかり評価されないといけないだろう。4ヶ月、100%コミットさせてもらって痛感した世界との差、課題、なかには強みもある。次の担当にとってよりよい環境で活動してもらうためにも、可能な限りのお手伝いはしていきたい。

あっという間に、とはいえ実はケープタウンからの移動は確かに長かったが、帰国、解散、そして帰宅。日本は暑かった。ケープタウンでの日々が思い出しづらいくらい、日本は暑い。そして翌週から次の所属チームの活動準備に入った。

こちらも大変幸運でありがたいことに、今季から東芝ブレイブルーパス東京に所属させてもらうことになった。実にありがたい。いまや日本を代表するラグビー選手のマイケルリーチ。そして世界を代表するリッチーモウンガとラグビーができる。これ以上ワクワクする状況はない。そして東芝といえば、私が20年位前に関わったトヨタがいくら全力でぶつかっても跳ね返された強力チーム。鍛え上げられた選手、どんな文化なのか、当時も非常に興味があったが、いまここでそのチームの一員として関われるとは、光栄であるし、身が引き締まる思いだ。まだチーム練習は本格的に始まっているわけではないが、自分がどのようにしてチームに貢献できるか、チームや選手を知って、理解していって、その辺りを探っていって、アクションしていきたい。なにより、自分自身がその場に立って、いいこと悪いこと、経験しながら楽しんでいきたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?