2020年6月3日、動物園前〔動楽亭〕での『リハビリ落語会』へ。
2020年の3月末日以来、実に2ヶ月ぶりの、落語会。いや、生の舞台へ。
緊急事態宣言が解かれて、まず、映画館が再開、しかし、国立系統の劇場、また、歌舞伎座や宝塚などの大劇場はまだ再開の目途は立たず、来るお知らせは延期か中止ばかり。況やライブハウスをや。
そんな中、東京は新宿末廣亭と浅草演芸ホール、関西では此花千鳥亭と動楽亭がまず、入場者をだいぶと制限して6月1日より、営業再開しだした。
その、感染予防対策がどのようなものだったのか、を見たく、いや、そんな殊勝な心掛けではなく、ま、しんぼーたまらん。
という訳で、6月3日の動楽亭の夜、桂吉の丞さんの呼びかけに応じた、桂佐ん吉さん、桂あおばさん、桂小鯛さんによる、『リハビリ落語会』へ。
チラシなど無いので、吉の丞さんのツイッターを頼りに「オフィス吉の丞」の加藤マネージャーに電話して、先着30名のうちに滑り込む。
米朝事務所公式YouTube『【動楽亭】昼席再開のお知らせ』で確認して下さい、の呼びかけに従い、まず、入場までの流れを確認。確認しましたか。では、参りましょう。
が、いつものクセで、開演5分前に到着。待機列に並ぶこともなく、
こんな感じで並んではったんやな、と思いながら、入場。
入場時、アルコールで手指を消毒し、受付の方(マスクを着けた小鯛さん)に、検温してもらい、入場料を支払う。2000円。
客席入った扉に、
と、席亭桂ざこばさんと米朝事務所の連名でのお願いが貼り出されており、画像では切れているけど、その下には、「大阪コロナ追跡システム」のQRコードが印刷されたプリントも一緒に貼られていた。
客席は、いつもなら、舞台前から3列位は座椅子エリア、1列に6席ほど置いてあり、次に三人掛けの長椅子エリア、1列に3脚づつほど並べ、あとは、イスや座布団を、入り具合によって出してくる感じ。
で、今日は、ほとんど座椅子で、壁に接した席のみ、椅子を出してらした。椅子は、座布団に変更可能。1列に4人づつの案配で、1つの座椅子に対し、前後左右斜めの八方、そう、将棋の駒の王将の動ける範囲で空けている。そういや来る途中で見た、新世界名物のあそこ、なかなかの三密クラブやった。閑話休題。
夜七時、開演。
久々に聴く、生の太鼓、笛の音。
山の上に、吉の丞さん、佐ん吉さんが、座布団1枚分隔てて座る。あおばさんは舞台上手まで行き、客席に降りて、立っている。
吉の丞「1人来てへん。何してんねん」
の声に、小鯛さんが受付から客席を通って、こちらは下手へ。
小鯛が楽屋に来たら始めよか、言うてたのに、何しててん、に小鯛さん、
「いや、受付してました」
佐ん吉「当日券ないのに。もうお客さん全員来てはんねんから、扉閉めて来たらええねやがな」
ハハハハハ、そんな幕開きで、リハビリ落語会スタート。
まず、追跡システムへの協力願い、
吉の丞「もし、動楽亭に来てたのがバレたらマズイ、言う人は、受付でお名前とメールアドレスを記入して下さい」
ここで感染者が発生した場合は後日、連絡があるそうな。
さて、リハビリがてらに、4人でトークから。
あおば「こっから見たら、皆さんマスク着けて、スゴいですね」
3人からツッコまれる。当たり前やがな。……この感じはリハビリ以前からかな。
佐ん吉「吉の丞、すごい汗かいてるやん」
吉の丞「いや、この照明にあたるのかて久しぶりやから、熱い熱い」
あおば「ちょっと兄さん、めっちゃ声デカい」
吉の丞「久しぶりやから」
あおば「サンケイホールブリーゼくらい声出してますね」
話は、自粛期間中にやっていた事、始めた事。佐ん吉さんは筋トレ、小鯛さんは苦手だったSNS、ツイッターを始め、料理をアップしだした、と。
そして話題はやはり、発起人の吉の丞さんの、妹さんのお話。
妹さんは、日本に緊急事態宣言がなされる前にYouTubeに上げられた、「ニューヨークのシングルマザーから」と始まる、現状レポ動画のあの方。動画のタイトル『⚠ほんまに聞いてほしい⚠マジでコロナを舐めたらアカン』でも窺える堺の人感。吉の丞さんの分析によると、この泉州弁の感じとニューヨークの惨状が合致した為に、拡散されたのではないか、と。
動かない陽に当たらない、何より落語がやれないで、気分の上げ下げが激しくなり、Zoomの飲み会での普段なら他愛ない冗談でもブチっと血管と回線を切ってしまう事もあった吉の丞さん。「今は、心を静める薬、を飲んでるねん」に、ちょうど開けた窓から救急車のサイレン。あおば「迎えに来たん違いますか」。
一頻り自粛期間中の事を話して、あおばさんポツリと、
「でも、今話してて、マジでブランク感じますね」
に客席も皆笑う。この一体感。
サイレンの窓は落語中は勿論閉めます、中入時に10分程換気がてら開けます。
それでは、と、ジャンケンで勝ったもん順で好きな出番を決めていき、あおば、吉の丞、中入、小鯛、佐ん吉の順に。普通にやってもこの順やったのではないだろうか。
『リハビリ落語会』
あおば「軽業講釈」
吉の丞「米揚げ笊」
換気中入(10分)
小鯛「落語夫婦」(小鯛さん作)
佐ん吉「短命」
マクラも自ずと自粛期間中の出来事になり、そこは皆さん、閉じ籠っていても、話す事ありで、あおばさんは自粛中のアルバイトの話、吉の丞さんは妹さんへのメディア対応苦労話、小鯛さんはZoom落語会に就いて。
配信の落語会だと、家で見られるので、未就学児を持つ親御さんから、「子どもと一緒に見られて良かった」という声が多かったそう。今の何て意味?にも答えてあげられる、と。
しばらくはこのコロナ枕が聴かれるだろう。そういや、「空席以外は満席ですね」、自粛期間前からよく聴いたこのフレーズ、今後聴けるのだろうか。
いつもなら、終演後に番組が貼り出されるのだが、あれを写真に撮ろうとなると密になるからか、無し。
小鯛さんの演題「落語夫婦」は、ツイッターで検索した。以前作った落語だそうで、質屋芝居や蛸芝居みたいな芝居に憑かれた人間の、落語版のような現代の夫婦の話。落語ファンあるあるが散りばめられてる。こんな時に来るお客だからか、爆発するようにウケていた。
その後に上がった佐ん吉さん、「今日の、ここしかハマらんようなネタやがな」とボヤき、「もうあれでしょ、4席目ともなれば、最初の感動は薄れてるでしょ」と掴んで、マクラは振らずに、サラリと噺に入った。
夜9時、予定通りの時間で終演。皆さん出て来られ、
「こんな大変な時にありがとうございました」
「ソーシャルディスタンスのこともありますので、順々に退室して下さい」
と、追跡システムのQRコードにまた触れられた。
この上に、番組を書いた小さなホワイトボードが置かれる時がある。
QRコードの前で、「メールアドレスを送らないかんのは、ちょっとイヤやなぁ」という声を聴いた。ごもっとも。
月並みだが、やっぱり、生の舞台は良い。
吉の丞さんの喜六が「鰻でも呼ばれましょか」と見台から身を乗り出す。この、身を乗り出す迫力。
短命の理由を話す佐ん吉さんの、
「ナニが、ヨカッタんかは……」
「ははぁ、そうですか」
「解ったんか?」
「いいえ」
みたいな、この、所作や声の強弱による、空気。ボソッと言う一言の、声の小ささも含めた可笑し味。
でも、吉の丞さんが
「年末まではこんな感じかも解りません」
と言ってらっしゃった。
6月19日以降、吉本興業が、お客さんを入れての興行を再開し、同時に、有料配信も始める。米朝事務所でも同じように、動楽亭にお客さんを入れ、また、その様子を有料配信するそうな。
配信用に企画した落語会と、お客さんを入れての落語会の配信。別物、と考えた方がいいかも知れない。
十三浪曲寄席さんの販売されている配信番組は、その辺りを考慮されており、実験的な新作とお家芸を並べ、副音声動画をオマケして付けて下さり、その中では曲師にスポットを当てながら解説してくれている。数ある配信の中でも、白眉。
落語家さんの中でも、配信はチョットね、と、トークは配信するけれど落語はしない方もいる。これは、お客さんも、ご同様。トークは買うけど、や、Zoomはチョット、等。
さっき、空気に就いて触れたが、この空気至上主義は、ひょっとして日本人特有なのかしら。
ま、今日は兎に角、久々に落語会に行って、笑った、つまり出養生でした。
小鯛さんの「落語夫婦」でこんなやりとりがあった。
「問題。2020年6月3日時点で、上方落語家は何人いるでしょうか?チ・チ・チ・チ・チ……」
「うーん、◯◯人」
「正解。6月3日時点でね。でも、明日は減ってるかも知れない」
減っていいのは、感染者だけ。