【小説】ユキとマキ (1)

前書き

 これは「さよならくちびる」という映画の二次創作の小説です。
「さよならくちびる」に少しだけ登場する二人の中学生の女の子のその後の物語です。

その中学生を演じた二人、日髙麻鈴と新谷ゆづみは撮影時にはさくら学院という成長期限定アイドルグループのメンバーでした。さくら学院界隈ではファンを「父兄さん」というんですが、その父兄さんの小さな範囲であるとき小説を書くのが小さなブームになっていました。当時私も書きたいといくつか学院の生徒を主役にした小説を書きかけたりしてましたが諸般の事情によりお蔵入りさせていました。もうその時には映画が公開されてからずいぶん経っていたのですが、映画に出ていた日髙麻鈴さんを今も推す私にとっては、この二人の登場人物の後日譚を書かない理由はありません。

さて、ネタ?テーマ?は決まったのでただ筆を進めるだけのはずが月日が流れ、油断していたところにまさかの

「さよならくちびるの塩田明彦監督によるオリジナル脚本で日髙麻鈴、新谷ゆづみを主演にした映画を公開予定」

というニュースが飛び込んできました。もう我の体の中は歓喜の渦がマイスナー効果を起こして体が浮きあがるんじゃないかって感動に浸ってたらですね......

この「麻希のいる世界」、あらすじがさよならくちびるの二人の後日譚と言えなくもない。というか二人のバンドの話だし...ヤバイヤバイヤバイ💦

いや、これはぼやぼやしてられないぞ。早く書かないと監督の作った作品にもろに影響を受けた作品になるじゃないか!(というか存在価値がなくなってしまう~元からあんまりないけども)。それでも「まあ来年1月末だからまだ何とかなるな。」と安心してたら11月6日(すなわち今日)、東京フィルメックスでプレミア公開ってなったので、まあ、どうもならんばいこれは(大混乱)ってなったわけですが.....

ええと、どこまで書きましたっけ?

まあ2週間ちょっとで何とかなるわけもなく書き始めと話の流れを予告編みたいにしたものぐらいはせめてプレミア公開前に残しておこう(号泣)となったわけです。

どなたに読んでいただけるかはわかりませんし、所詮は自己満足の世界ではあります。もちろん日髙麻鈴さんと新谷ゆづみさんへのリスペクトを込めた妄想(?)を形にしていますし、いままで自分の中でいろいろ考えさせられてたテーマを織り込んだつもりです。

おそらく映画を見たら影響を受けまくって筋書きが変わっていくのはわかりきってますし、できればそのあたりゆる~くお付き合いいただけたら幸いです。

自分が書いた文を客観的に見るのは難しく、もし読んでいただけたならば今後のためにぜひ皆さんに感想やアドバイスを頂けたらなと思います。

今日は三つの投稿に分けて連投します。( ← (追記)続きをとりあえずいったん下書きに戻しました。エンタメ性について考え直そうかと......)

そのあとはまたボチボチと

さて前書きがずいぶん長くなりましたが、最後までお付き合いいただけたら幸いです。

スケトウダラ・ポテトより愛をこめて(要らん!www)

では本編スタート!!!

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「ユキとマキ」


「そのころの私たちは何者でもなかった。だからきっとこれからなりたいものになれるって思ってて。」 ~ ユキ

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最近いつも起きると夕方になってる。

だいたいこの時間から歩いていける場所にあるライブバーに日に一度の食事(といってもほぼビールがメイン)と仕事みたいなものを兼ねていくことにしている。店はビルの地下だし、階段は暗く狭いがまあ店内の雰囲気は悪くない。いつものように中のマスターに目で挨拶してからかってに指定席にしているカウンターの席に腰かけた。
 
この店はイイ。潰れそうになりながらも若い人たちのために安くライブできる場所を提供してるのもそうだが、なにより酒と食いモンが安い。ライブバーにしては食事メニューが多く、元居酒屋料理人のマスターが軽食よりはるかにまともなものを出してくれるのでここに通いつめる事になってしまった。とは言ってもいつもアーモンドスライスのくっついた鶏の甘辛ダレ唐揚げか焼き餃子でビールを飲むばっかりではあるので、それほどいろいろ食ってるわけでもない。ああ、実は中華もあって天津丼なんかはかなりいける。ここは普段はテーブルと椅子が配置してあるフロアで生演奏を聴きながら酒を飲む店って感じになっているが、ライブの日にはそれらは片付けられてちょっとした人数が入るライブハウスみたいなもんになるのだ。今日はそのライブの日なので座りこんでもしゃもしゃと食って酔っぱらってるのはカウンターの俺ぐらいだ。

 自分は少し前まで音楽関係の記者だった。いやはたして音楽関係と言い切れるだろうか? 比較的メジャーな出版社に勤めていたサラリーマンで、そこでたまに書く(それもメジャー系だけの)音楽関連の記事の仕事を得るために毎日音楽とは縁のないPV目当てのあおり記事とか芸能ネタ記事を書いていた。それなりに文章も書けるようになって何年も我慢してやってきたものの、中身のない表題で読者を釣ることを目的にした記事にいいかげん嫌気がさしてその会社を辞めた。そのあとは今はまだ世間に知られてなくても心に刺さる音楽を演ってる人たちを探して記事を書いている。こんな仕事で食っていけるわけもないが、他に取り立ててとりえも無いし記者を続けるにしても今さら大会社様に媚びる記事も書きたくない。

 しばらくすると店がだんだんにぎやかになってきた。今日のこのバーのライブはいつもより客が多い。まあ実はそれには俺が一役買ってるのもあって、いつもの格安な食事の恩返しがちょっとできた気がしていい気分ではあった。客層は若い女の子が多いかな?それとアート系の学生みたいな男子も。

そんなもの思いにふけってたらふいに声をかけられた。珍しいことにそれは元の会社の後輩で音楽記者の中本だった。

「山口さんお久しぶりです。」

「中本、久しぶりだな。メジャー音楽評論家殿にこんなとこで会うとは思わなかったよ。」

「相変わらずひどいっすね、先輩。
読みましたよ、ユキマキのライブ紹介記事。批判記事の多い先輩にしちゃあちゃんと褒めてるまともな記事だなあって思って今日のこのライブ見に来たんですよ。ツイートも結構たくさんいいねがついてたじゃないですか?」

「俺にしちゃあって余計だろ。
ちょっとこれまでとは違う感じのバンドなんでレポートの書き方も変わったのかもな。
いいねはな、記事にじゃなくてバンドについたんだよ。」

ユキマキは今日ここでライブをするバンドの名前だ。ここで若いバンドの記事ネタも収集しているのだが、少し前にたまたまライブを見たこのバンドは演奏技術はまだまだ未熟ながらも音楽性が独特で演出の完成度も高くなにか惹きつけられるモノがあった。そういうライブの素直な感想とインタビューを一週間ほど前にバンドの紹介記事にしてWEB媒体にあげて、ちょっとしたライブ映像と一緒に記事のリンクをツイートしたら思いのほか反響があったんでて少し驚いていたところだ。その影響もあって今日は客が多いのだと勝手に思っている。

「なんか記事読んでたら聞いてみたくなっちゃって、すごく楽しみにしてたんですよ。観客の女の子にももう何人かにバンドの事きいてみました。」

「おいおい、せっかく俺が見つけたネタを横から持っていこうっていうんじゃないだろうな?」

「でね、今そこで聞いたんですけど、バンドの熱烈なファンの子が最近亡くなったって。自殺じゃないかとか......知ってましたか?」

「いや、今初めて聞いた。」

「若いバンドはちょっとしたことで壊れちゃうから影響がなきゃいいですけどね。」

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「マキの歌がバンドのまん中にいて他の音が周りで遊んでる感じにしたかったんです。」 ~ ユキ

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ー Live Report ー

「ユキマキ」

 最初の一音目から場を支配するバンドは今までも確かにあったし、人気があるバンドならば客の期待で始まる前から異常な興奮に包まれることもある。でもこのライブは最初の曲の幽玄な始まり方が見た目のポップさ裏切ることで意表を突くが、何よりボーカルの第一声を聴いた時の衝撃は凄く、観客全員が息のむ音が聞こえてくる気がするぐらいだった。あいさつ代わりの一曲目の深いエフェクトのかかった幽玄な曲から次の二曲目の「君の魔法」という曲は小刻みに進むシンセギターのフレーズをボーカルの魔法の呪文が追いかけるという不思議な曲だ。縦にのるお客さんはいないが常にフロアが横に揺れているようにも見えてまるで集団催眠か本当の魔法にかかった様にも見える。そのまま全6曲程度の短いライブではあったが目も耳ももっと長い時間この空間に漂ってたかのように思える。久しぶりに面白いバンドに出会った。

 ユキマキはBa.&Gt.&Vo.のマキ、Gt.&Ba.のユキ、Dr.の真介のスリーピースバンドで高校の同級生で結成され、卒業後はバンド活動をメインに行ってきたとのこと。どちらかというと小柄な二人の女の子がこのバンドのフロントマンである。メンバーの見た目はそのへんの普通のポップなバンドと変わらない。フロントの二人は演奏中ダンスというか、比較的よく動くので目を引くのだがそれは曲の幽玄な雰囲気にも合った動きで、これもノリノリに観客をあおるのとは異なる。だがDr.はパワフルに刻むリズムが意外にこの雰囲気とは合っているかもしれない。どこからこの不思議なコンセプトの楽曲とライブ空間を作ることができるのか? ユキマキではメインに作曲しているというGt.のユキに話を聞いた。

ー ライブお疲れさまでした。とても幽玄というか幻想的というか?独特な雰囲気がありますね? ー

ユキ「ありがとうございます。今の雰囲気は確かに独特かなって思うんですけど、最初から雰囲気を狙って作ってたわけでも無くて曲とライブを徐々に作っていくうちにそうなってきた感じです。」

ー とても完成度の高いライブだなって印象を受けたのですが、演出やセトリはいつも同じですか? ー

ユキ「新しい曲ができたときは曲の構成や順序も変えるんですけど、だいたい同じかな?ライブ中にマキの気分で突然変えるときもあります(笑)。」

ー では演出も狙ってない? ー

ユキ「とりたててこう演出しようみたいなのはないです。」

ー 曲はいつもユキさんが作曲されるのですか? ー

ユキ「作曲といえばそうなんですが、実際にはマキとマースケ(編注:Dr.真介氏の事)も一緒につくっています。マキが持ってきた歌詞とボーカルメロディを歌って私とマースケがそれに合わせてセッションしながらできていったものに、また私がギターの部分を編集してさらにのっけて、またセッションして固めていく感じが多いですね。どの曲もみなマキの歌がバンドのまん中にいて他の音が周りで遊んでる感じにしたかったんです。」

ー マキさんのボーカルに大変驚きました。このバンドはどうやって始まったのですか? ー

ユキ「ねっ、すごいでしょマキのボーカルっ! 初めて聞いた時は驚いて本当に妖精がいるのならこんな声なんじゃないかって思いました(笑)
少し前にハルレオ(編:脚注※参照)ってアコースティックデュオがあったんですけど、まだ彼女たちが路上で歌ってるころいつも聴きに通ってて、その聴衆の中にたまたまマキもいました(笑)。それからしばらく一緒にハルレオを追っかけてたんですけど、ハルレオが解散してからは会ってなくて。たまたま同じ高校に進学して再会してしばらくしたときに、また歌声を聞いて、それでその時もう一緒に演るならマキしか居ないって感じで(笑)」

ー 真介くんは(笑)? ー

ユキ「彼はまあ、腐れ縁?でしょうか(笑)」

ー ユキマキってバンド名はハルレオをリスペクトして? ー

ユキ「そうです。私たちのきっかけであり目標なので。」

ー ユキさんのギターもギターを使ったシンセサイザーのようで今時の他のギタリストたちの演奏とは少し違う感じがします。 ー

ユキ「私はもともと小さいころにエレクトーンをやっていて家庭の事情で辞めちゃったんですけど、やめてからもキーボードで変な音(笑)を使いながら簡単な曲を作って遊んでました。バンドだとギターの方が自由に動けるし今はギターシンセもずいぶん進んでてキーボードよりたまに面白いことができたりするんでギターで演奏しています。」

ー マキさんも弾きますよね? ー

ユキ「生の(シンセじゃない)ギターの音が欲しい時にいっしょに弾いてもらってます。もともと彼女は私たちと出会う前には一人で弾き語りをしていたんです。ほとんどの曲では私がギターを弾いて、彼女はベースを弾きながら歌う形ですね。」

ー ドラムの真介くんも面白いグルーブ感がありますね? ー

ユキ「マースケ(真介)とは小さいころからたまに遊ぶ友達で割と気心も知れてるというか、言いたいことがいえるので助かります(笑) 確かにリズム感が独特ですね。彼はレゲエが好きで暇なときはいつも聴いてるみたいです。」

ー 今後のユキマキの方向性や予定を教えてください。ー

ユキ「このままの雰囲気?でまだ観たことも無いような新しい演出のライブを作り出して行きたいって思ってます。三週間後にまたここでライブをします。そのあとは県内で何カ所かでライブを予定していますので私たちのツイッターとインスタグラムで確認してぜひお越しください。」

ー 本日はありがとうございました。ー

ユキ「ありがとうございました。」

Report & Interview : 山口晴也

※ ハルレオ:ハルとレオの2人の女声ボーカル&ギターで構成されるアコースティックデュオで代表曲は「さよならくちびる」「誰にだって訳がある」他。一時期解散と再結成を繰り返していたが、現在はハルは一人でシンガーとして、レオは女優として活躍している。

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「つづく」

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