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第27回 友人作家からの誘いとX社との出会い

 それは忘れもしない、2017年12月4日月曜日のことだった。
 週初めの仕事も終わり、クタクタになって帰途についているところに、とある友人作家より連絡が入った。

『逢巳さんってラノベ文芸で中華ファンタジー書けって言われたら書く気あります?』
『中華ファンタジーを書ける人として逢巳さんを売り出すという謎戦略を考えたんですけど』
『12月21日の夜ってあいていません? そこで編集長と飲むことになっていて、メンバーをなぜか俺が選定することになってるんですよ』

 もちろん私の答えは「イエス」だった。こんなチャンスはそう簡単に巡ってくるものではない。この機を逃したくはなかった。

 なお、色々と差し障りがあると思うので、友人作家の名前も、出版社の名前も、伏せさせてもらう。友人作家は仮にYさん、出版社はX社としておこう。

 私はYさんに感謝しながら、12月21日に向けて、準備を整えた。
 名刺の準備、当日献本するための自作の購入(もう書店に置いていないのでAmazonの古本販売を頼るしかなかった……)、自分のアピールポイントの整理、等々……。
 何せ、まだ仕事を受注できると決まったわけではなかった。あくまでも飲み会の場に赴いて、そこでYさんの協力も得ながら、自分を売り込まないといけないのである。失敗は許されなかった。

 そして、とうとう12月21日当日を迎えた。

 新宿の某所にある焼肉店に、私は乗り込んでいった。
 緊張と興奮で心臓が高鳴っていたが、なるべく平静を装った。この際、自分が打ち切り作家であることは忘れよう、と思った。自分は、書きさえすれば面白いものを提供できる逸材なのだ。そう自分自身で信じ込まなければ、どうして出版社側に信用してもらえようか。

 やがて会は始まった。

 自分とYさん以外には、他に四人の作家がいた。どの人達も直近で作品を出している、現役の商業作家だった。Yさんもまたしっかりと実績を上げているので、自分だけが2016年を最後に何も本を出せていないという、へっぽこぷりだった。それでも、気後れしてなるものかと、気合いを入れて臨んだ。
 出版社側は三名。編集長と、編集二人。和気あいあいとした雰囲気の中、酒と肉が進む前に、編集長のほうから話を切り出してきた。
 それは、ある企画のために、書き手を求めている、というものだった。まずはスタートメンバーとして、ここにいる六名の作家に執筆をお願いしたい、とのことで、早くも頭数に入れてもらえていることに、私は喜びの念を感じていた。

 そして、作家一人一人、自己紹介を求められた。
 Yさんはその出版社とはよく知った関係であるので、紹介は簡単に済ませていたが、他の四名の作家は、自分がどんな著作を手掛けているか、直近ではどんな本を出したか、立派な実績を堂々と披露していた。
 その内の一人に至っては、編集長のほうから「あなたの本を読みましたよ。実に面白かった」とお褒めの言葉までいただいていたりした。

 実績で劣るなら、意気込みで勝負するしかない――そう考えた自分は、本の紹介はほどほどにして、兼業でやっている会社の仕事はどんなことをしているか、大学時代はどんな勉強をしていてどんな知識を豊富に持っているか、そのことをアピールした。

 結果、編集長から、こう切り出されてきた。

「最近、後宮小説が流行っていますね。そういう書き手が欲しいな、と思っていたところなんですよ。それを書いてください、と言われたら、書けますか?」

 後宮小説――⁉

 予想していなかったジャンル名を出されて、私は内心動揺しつつも、

「もちろん大丈夫です!」

 と元気よく答えていた。

 しかし、そもそも後宮小説とやらを読んだことがない。主人公はどういった人間で、周りの登場人物はどんな人達で、どういう話運びのものなのか、テンプレートすら思い浮かばない状態だ。
 チャイニーズファンタジーで書かせてもらえるなら、いくらでも戦いようがあった。けれども、後宮小説はまったくの専門外だ。

 それでも、私は絶対に、自信たっぷりの表情を崩さずにいた。ここが自分の作家人生における重大な分岐点だと思っていた。
 わからないなら、勉強すればいい。中国の後宮に関する小説、ドラマ、資料……あらゆるものを吸収して、新たな自分の糧とすればいい。
 中国史は得意とするジャンルだ。すぐにサラサラと書けるようになる。

 会が終わった後、さっそく私はレンタルビデオ屋に行き、中国ドラマの「武則天」を借りてみた。取り急ぎ、まずはインターネットで調べて、中国の後宮に関する基礎知識を蓄えたりした。

「見てろよ! 逢巳花堂はここからだ! 面白い作品を作ってやる!」

 激しく闘志を燃やしながら、パソコンに向かい、X社へ提出するためのプロットを作成し始めた。

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