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デジタル作品をNFTにする必要性について考える~贋作対策によってアートとしての信頼度が上がりそう

PACE galleryという著名なギャラリーが独自のNFTプラットフォームをつくるようです。

PACEはチームラボを取り扱ってるギャラリーで、世界的なメガギャラリーの一つです。すごいやつ。

NFTっていうものがなんかめちゃくちゃ流行ってますよね。あちこちで聞くようになりました。ものすごくざっくり、デジタル作品に所有権を紐づけられるようになったおかげで、コピー可能なデジタル作品に「唯一無二」の価値(概念)を持たせられるようになったよ!ってことだと私は理解しています。

NFTと紐づかないデジタル作品ってコピーができちゃうので、ネットに流れると誰が作者とかわかんなくなっちゃうことがあるんですよね。写真家さんとかで「勝手に作品写真使われてた!」みたいなことを見聞きしたこともこれまでにあります。

世界的なオークションハウスがNFT参入してますし、日本でもNFTを始める企業増えてきてますよね。

アートのオークションとかで高額で売れたとか、Twitterの初コメントが3億円になったとか、派手なニュースが多いので注目を集めてるんだろうなって思ってるんですが、、

NFTにすればなんでも売れるぞ!っていうわけではないと私は思っています。当たり前ですけど、私の最初のツイートをNFTにしたからといって3億円で売れるわけないですし、100円でも買う人いないですよね。

デジタルデータをNFTにしました、と言ったところで ↓ これが1万円で売れるかといったら売れないですよね。

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(うれない。かなしみ)

今後、ふつうの人のバズったツイートとかがNFTになって1000円くらいで売れるみたいなことが起こってくるのかもしれないんですが、NFTが始まったばかりの2021年現在では、高額(見込みも含む)のアートとか、ブランドとか、それこそTwitterCEOの初ツイートみたいな強力な話題性があるもののみに意味があることなのかなぁと思っています。(誰か解説して)

価値観と倫理観が変わっていきそう

NFTっていう技術がすごいので、めちゃくちゃ盛り上がってる感が出てますし、これからそれも浸透していくんでしょうが、浸透していくまでにじわじわっと変わっていく必要があることとして「価値観」と「倫理観」があるかなーと思います。

価値観というのは、デジタルの物を「所有」している感覚、所有したいという感覚です。ネットで出てる画像ってダウンロードできなくても画面キャプチャとかはできるので、表に出さない感じで勉強用として手元にとっておく人とかもいると思うんです。写真の構図参考になりそうなもの、人物の表情とかですね。

自分も海外のギャラリーや美術館で撮影可能な時は、めちゃくちゃ写真を撮りまくってくるのですが、Facebookアルバムとかにまとめて公開してあとから自分でも見やすい状態にしています。

でも、対象の作品が「写真」だと正位置で撮るのは避けて欲しいみたいなことがあったりするんですね(写真家さんから撮ってもいいけど、遠くからにして欲しいとか言われることがある)。写真の写真を撮るのって、光が映り込んだりしてしまってなかなか難しいのですが、もしうまい人が正位置できれいに作品写真を撮った場合、作品を撮影した写真が作品みたいに見えてしまうことがあるんです。そうやってコピーされたと悲しんでいた写真家さんに会ったことがありました。

デジタル作品はこんな感じで複製のしやすさと、著作者が不明になりやすいっていう点が問題としてあったんです。

東京都美術館でライゾマティクスの展示があった時は、静止画としての写真撮影はOKでしたが、動画はNGでした。動いている作品を動画で撮られてしまうと、作品として知らないところで使われてしまうリスクってありますよね。

漫画を全ページコピーして公開する違法サイトとかありましたが、NFTと紐づいていて、作品の所有権を持たずに公開しているサイトを一斉に見つけて通報していくとかも、もしかしたら技術的にできるようになっていくのかもしれません。(もうできるのかな、だれかおしえて)

NFTとデジタル作品が紐づいて浸透していくと、所有権を持っている人は堂々とネットで公開しやすくなり、持ってない人はデジタル作品のキャプチャをしても公開しにくくなるみたいなことが起こってくるかもしれません。

最近では購入した作品のコレクションをネットにアップするコレクターさんもいるので、所有権がちゃんと譲渡されることで、ネット上で公開しやすくなるというのもあるかもしれません。

贋作の問題

チームラボの猪子さんが昔言ってた気がするんですが(あいまいな話)、NFTという技術ができる前は、デジタル作品を販売する場合はCD-ROMとかDVDとかに入れて売ってたみたいなんですね。でもそれだと技術が発展した時にOSが違って見られなくなるとかソフトがもう対応してないみたいなことになっちゃうかもしれないので、これからはクラウド上に置いて、現在の技術に対応できるようにアップデートする必要があるみたいなことを猪子さんが言ってた気がするんです(あいまいな話)。

所有権を譲渡するために、デジタルでも物理として渡す必要があったんですね。でもNFTと紐づいてくれたら、わざわざメディアに落として手渡しする必要がなくなります。

高額の現代アート作品の場合、常につきまとっているのが贋作問題です。人気作家の奈良美智さんは、作品が高額なこともあって、贋作がオークションに出品されちゃうことなんかもあるようで。

リアル作品の場合、サインが作品に書かれてなかったとしても、現代の技術で生きている作家なら、作家の汗からDNAを抽出的なサムシングで、真贋は分かるんじゃないかなぁと思っています。ただ、デジタルだと真贋証明はかなり難しいはず。

ある人がネットにあげてる作品を、世界のどこかで勝手に誰かがコピーして自作のように振る舞っていたとしても、もう見つけることすら困難です。

ただ真贋問題という点で言えば、制作の過程をアーカイブとして残しておくというのは、自分がつくったことの証明になるかもしれません。

コピーが容易だからこそ、取引価格が高額になる現代アートの場合には、真贋証明のためにもNFT化が大事なんだろうなって思います。じゃないと、大金はたいて偽物つかんじゃった人が気の毒すぎますし。

NFTと紐づくと何がいいかっていうと、デジタル作品も転売可能になるってことです。高額の現代アート作品は、オークションで転売されることで元の価格よりも数十倍に跳ね上がることがありますよね。

NFTの流れは同時に、デジタル作品も「アートとして認める」っていう流れでもあるなと思っています。写真が出たばかりの頃って、写真はアートとして認められてなかったんですよ。その後はアートになったけれど、価格はそれほど上がらないと思われていました。その理由として、同じように現像すれば複製できてしまうという「写真の複製可能性」があったと思います。杉本博司さんの写真作品が1億円以上で取引されるようになったのって、そういう意味でもすごいことなんですね。

デジタル作品でもアートなんだっていうのはあったけど、複製の容易さから、これまでのアートの業態では扱いが難しかったんじゃないかなと考えられます。所有できるようにデータを物理にしないといけなかったですが、それだって買った人がCDを複製するとかできちゃってたわけですし、こっそりコピーして配布するとかもやろうと思えばできちゃったんですよね。NFTという技術のおかげでそこの不安が解消されたので、デジタルアート作品を積極的に扱いやすくなったというイメージでいます。

今後、バーチャルMuseumみたいな場所で、世界中の人と一緒にアバターを使ってデジタル作品を見るVR展覧会とかが開催されるようになったら、物理よりもデジタル作品のほうが取り扱いやすいみたいなことが起こってくるかもしれません。

とはいえ、フィジカルにはフィジカルの、その場所に行かないと見られないという限定された良さがあるので、このあたりはちゃんと棲み分けされそうな気がします。

デジタル作品をつくったら全部NFTにすべきなのか?

NFTと紐づかないですが、現在でもデジタルデータを販売するっていうのはあちこちでできます。

BASEでもできますし、eluというサービスでもできます。

単にデジタル作品を売ってみたいというだけなら、こういうサービスを使うだけで十分かなという気がします。というのも、現在ではほとんどのアート作品はNFTに紐づく紐づかない、デジタル・アナログに関わらず、制作する人の数から考えたらそんなに売れてないはずです。わざわざNFTと紐づけるためにはイーサリウムという仮想通貨を自分で購入するとかしないといけないので、ぶっちゃけ手間が多くて大変なんです。

物理的なモノが残るアートだって、すごいものを創ってる人はたくさんいるけど、全員が売れっ子なわけじゃないですよね。それを考えたら、NFTになれば自分のデジタル作品が、すぐに高額で売れるなんてことは起こるわけないって分かります。

初期にうっかり売れるとしたら、アートのことがよく分からなくて、NFTになってればなんでもいいのかなと思って買っちゃう人がいるからなんじゃないかなと。あとはイーサリウムの調査をしたいとか。いや、作品を好きで買うならぜんぜん素晴らしいことなんですが、なんかNFTっていう名前に期待値がこもりすぎて、「NFTを買った」ことに価値を置いちゃってないかなっていう気がしたんです。

作品が好きで買うというより、デジタルみたいにコピー可能な物の所有権を買ったという体験というか。火星の土地の保有証明書を買う、みたいなイメージでしょうか。あとで自分の買ったNFTアートはなんで転売できないんだろう、、みたいにならないといいなと。

そういう意味ではPACEのような信頼できるギャラリーがNFTを始めてくれれば、高額のデジタルアートを買いたい人たちも、プラットフォームを選ぶことで安心して取引できる気がしますね。

所有権と紐づくっていうことは「転売可能(=交換価値がある)」ということ。冷静に自分のつくった作品が転売されるかどうかと考えると、ほとんどのデジタル作品は交換価値をもつほどには至ってないはずです。交換価値をもてるほど価値を上げられるように日々努力しているのが、作家とギャラリー、それを支援するコレクターなどアート関係者なわけですから。

アート作品をつくるって、ある意味では仮想通貨をつくろうとしてる、みたいなことなんですよね。草間彌生さんみたいに、世界に交換価値があると認められれば、作品づくりはお金をつくっているのと同じことになります。新しいお金をつくるのが簡単なわけないですし、そこには当然、責任も伴うことになります。

責任というのは、まず「やめない」かどうか。作家が途中でアーティストをやめてしまうと、それまでに創ったアート作品の価値はゼロになります。将来に期待して買ってたコレクターは、作品の交換価値という意味では大損しちゃうんです。

作家(作品)の価値を上げるという意味で、作家のキャリア(展示歴・賞歴・助成金受給・批評家の論文・誰にコレクションされたかなど)は重要なんですが、これは作家が「やめない」ことの証明にもなってるんじゃないかなと思っています。

私はアートをやめることはないのですが、そこにはやっぱりこれまで買い支えてくれた人たち、展示場所を準備してくれたり、批評文を書いてくれたりして作家の価値をあげようとしてくれた人たちがいるからです。かけていただいたお金と時間をなかったことにはしたくないですし、価値をあげていくことで恩返しをしたいです。

NFTアートについて考えていること

私は最近、デジタル作品を多くつくっているのですが、これはNFTアートを意識してのことです。簡単に売れるとはぜんぜん思っていないのですが、もともとインスタレーション(人が中に入れるくらいの大型作品)を創っていた自分は、平面がちょっと苦手なんです。

インスタレーションは有名作家でないと売れないと言われてる感じで、ポートフォリオの充実には強いんですが、作品販売にはだいぶ向いていなかったりします。

そろそろ平面もできるようにならなければと思って試行錯誤していたんですが、デジタルだと制作が早いので、膨大に試行錯誤できるというメリットがあります。アナログで1点つくるのって乾く時間を考えるとアクリル絵の具でも数日かかっちゃいますが、デジタルだと動きがないやつは1時間くらいで完成と思うところまでつくれます。ネットに公開して反応を見てみたいなのが圧倒的に早いです。エスキース(アイデアスケッチ)のつもりでどんどん描いて、良さそうなのをリアルに制作するのは、デジタル制作と並行してできるので制作の密度が上がっていいんですね。

あとはアナログが得意な作家と戦わなくて済むかもしれないという点です。アナログが得意な作家さんとか、すでにアナログでスタイルを持っている作家さんはわざわざスタイルを崩してNFT参入するメリットがないので、そういう作家さんたちと戦わなくて済むんじゃないかと考えています。

ただ、世界のデジタル作家と戦うことになるので、戦いが楽になるわけではないです。むしろ世界戦になったら厳しいかもしれない。(そこも踏まえて漢字とかオノマトペ入れてるんですが)

最近、作品に動きを入れていますが、自分がまじめに獣医をやっていた時、キャラクターを使ったFlashアニメをつくってたことがあったので、このくらいの動きを入れるのってぜんぜん苦じゃないんです(むしろ楽しい)。

そういう自分との相性や人と競合しないこと、作品の量産を考えると、デジタル作品はありだなぁと思っています。(インスタレーションって制作に3か月くらい、構想に下手すると1年以上かかるのに、作品は1点しかできなかったりします)

それとNFTの場合、海外コレクターへのアプローチがもしかしたら楽になるかもしれないという点です。物理的に送る必要がなく、ネットで見て買えるからですね。日本のアート市場って最近伸びてきてスタートアップとかも増えてるんですが、世界的に見るとぜんぜん小規模なので、海外のコレクターに持ってもらえる可能性がある場所に出せるほうがなんとなくいい気がするんですよね(なんとなく)。

これはプラットフォームにどこまで信用があるか、海外へのコネを持っているかによってくるので、単にNFT販売できるよ、みたいなところに出してもダメで、厳選されたアーティストのもののみを扱ってますよ感が出るところに出したいんですが、どこがいいのか全然わからないです。

そんなわけで自分がデジタル作品をつくってる理由としては
・海外へのアプローチ
・アナログ作家と競合しない
・アニメつくるの好き
・制作時間の短縮ができるため膨大につくれる
みたいな点があったりしますよっていう感じです。

現代アートまわりの知識や経験がなく、デジタルで作品制作してるからNFTでやりたいみたいなのはたぶん、将来的にしんどくなりそうなので、自分だったらわざわざ今すぐにNFTにはしないかなって思います。(eluやBASEで作品を売るくらいにしておいて、NFTのことを調べる時間を自分のファンづくりに使うほうが賢い気がするよ)

日本からもNFT販売がしやすいプラットフォームみたいなのもたぶんそのうち出るので、そのくらいからやるのがいい気がしますよね。どうでしょうか。

NFTまわりについては、もっと専門家の意見がいっぱい出てると思うので、この記事はイチアーティストががんばって考えてますよっていうくらいに思ってもらえると助かります。


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