観光地にほとんど触れない旅行記(山梨編)

友人と山梨に行った。二泊三日。と言っても、最初の一泊は神奈川に住んでいる友人の家に泊まらせてもらった。お邪魔するのに手ぶらでは…ということで、アイリッシュウイスキーを買って行った。アイリッシュウイスキーというのは、三回蒸留しているので癖がなくて飲みやすいんです。と、店員さんが言っていた。私は酒が飲めないので酒に関する知識もなく、ウィスキーというのはハイボールとかのやつですよね?くらいの認識であったが、良い店員さんのおかげで何とかなったし、実際喜んでもらえた。

ただ、この友人とは幼稚園から高校までずっと仲が良く、まさしく親友と言っていい存在なのだが、それほどの友人に対してウケ狙いとかではなく「いかにももっともらしいお土産」を買って行った自分の「24歳さ」に打ちひしがれる瞬間はあった。正直、口に合わないものを贈りたくなさすぎて、トリスやサントリーの一番無難なウィスキーを選ぶことすら考えの一つにあった。しかし、時を十年遡ってみると、中学生だったわれわれ二人は、誕生日の友人に対して長ねぎを8本くらいプレゼントするという奇行を、結託して行った末に、声変わりを終えていない甲高い声でキャキャキャ!と笑っていたのである。さながら桃鉄のデビルであった私たちが、十年経っただけでこうなってしまうのは寂しいですね。寂しいですよね?デビルたれ。少年よ、デビルたれですよね。

何度か旅行しているうちに気付いたのは、旅行というのは観光地を楽しむものにあらず、というのは言い過ぎにしても、観光地を巡るというのはある種の建前であって、実際はそうしたスケジュールの余白やごたごたを楽しんでいるのだということ。①完璧に観光地を巡って、②事前に予約しておいた美味しいお店でディナーを楽しみ、③23時消灯。というのも悪くないかもしれないが、少なくとも私はまだそれを楽しめる段階にない。実際、今回の私たちの旅行では、①適当に観光地を巡って、②夕飯にカレーを作り、③分量を間違え、④七人前くらいできちゃったけど⑤25時半消灯であった。また翌朝食べればいいという判断である。元々は、雰囲気のいい喫茶店でモーニングを楽しもうという話もあったが、結果的には短い睡眠を挟んで二度、大盛りのカレーを食べることになった。こんなことは二度と起きてはいけないし起こしてはならないので、資料館を作ってもいいくらいである。私たちが作りすぎたカレーのサンプルを作成し、飾るのだ。そして出口では、適切な分量のカレーのレシピを配布する。どうだろうか。一般400円。中学生以下立ち入り禁止。俺、うるさいの嫌いだから…

山梨で良かったのは、何と言っても「ほうとう」である。とにかく具だくさん。かぼちゃ、にんじん、さといも、白菜、しいたけ、などなど。目白押しである。お野菜がたっぷり取れて、よかったですね。こういうのっていつも書き始めてから分かるんだけど、たしかに美味しかったけどそれ以外あんまり言うことなかったです。すいません。まあでもおすすめです。ほうとうっていう文字を見てほうとう息子って思うの、やめられない人は一生やめられないと思います。

さて、私がアイリッシュウイスキーを贈った友人は、たしかに親友と呼べる存在なのだが、何か共通点があるというわけではなく、むしろ子供の頃から完全に対照的だった。彼は何でも卒なくこなすし、いつでも落ち着いている(ように見えた)のに対して、私はできないことの方が多くて、常に余裕がなかった。高校ではともに書道部で、男子はわれわれ二人だけだった。高三の文化祭では書道パフォーマンスをしたのだが、その際、うちの部活では後輩が部員紹介を行うのが慣例になっていて、ひとりひとり名前と(後輩から見た)人物像みたいなものがセットで発表される。たしか私は「やさしくて、何ちゃら(忘れた)な先輩」みたいな感じで、その友人は「クールでミステリアスな先輩」と紹介されていた。クールでミステリアスなんて、高校生からしたら最高の褒め言葉だと思うんだけど、彼はそんなことすら思わなかったかもしれない。

話を旅行に戻そう。そもそも説明していなかったが、私たちは山梨のコテージに宿泊していた。夜はみんなでカレーを作って食べて、先ほど説明したような経緯から、朝もカレーを食べることになった。

朝、冷蔵庫を見ると、昨晩使い切れなかった卵が二つ。さて、どうしよう。これを持ち歩きながら旅を続けるわけにもいかないので、朝のうちに何とかして食べ切る必要がある。しかし、フライパンや鍋はシンクの底に沈んでおり、洗って使う必要がある。でも、洗うのは面倒だ。どう調理するか決めかねていると、クールでミステリアスな先輩が「レンジで温泉卵みたいにするか」と言った。レンジで温泉卵?何だそれは。そもそも、そんなことができるのか。知らなかった。俺なら、確実に爆発させてしまうだろう。

彼に温泉卵を任せて、私たちはカレーを食べていた。ズッキーニが多すぎる。何だこのカレーは。もっとズッキーニを減らすべきだ。そもそもカレーにズッキーニって定番というわけでもないのに、なんで入れすぎてるんだ。このカレーを売り出すならズッキーニカレーという名前にしなければクレームが来るくらいズッキーニが多い。このカレーが国会だとしたら、余裕で単独過半数を取れるくらいズッキーニが多い。さながら自民党。そのくらい入っている。にも関わらず、じゃがいもがれいわ新撰組くらいしか入っていない。何なんだこのカレーは。どう考えても配分がおかしい。ふざけたカレーである。

何せ七人前くらい作っているので、朝とはいえおかわりをしなければならない。おかわりマストのズッキーニカレー。バカみたい。そう思いながら席を立ち、カレーをよそいに行くと、キッチンの隅に小さな皿が置かれている。何だこれは。よく見ると、卵だ。卵が乗っている。爆発した卵が。え?卵爆発してるじゃん。

そう言うと、クールでミステリアスな先輩が涼しい顔で一言、「そうだよ」と言った。そうだよじゃないよ。何で涼しげなんだよ。やっぱり爆発してるじゃん。

普通、爆発した時点で何かしらのリアクションを取るだろ。うわー!とかやばい!とか。めっちゃ笑うとか焦るとか。何で無言でカレー食べてるんだ。お前が今この瞬間もクールでミステリアスなの間違ってるよ。

レンジを開けると、あらゆる方向に卵が飛び散っていた。こうなってるの見た上で、まあ一旦カレー食べるかーってなったってこと?すごすぎる。「レンジでやって爆発しないの?」っていう俺の質問に対しての「慎重にやればね」って返し何だったんだよ。大爆発じゃないか!

まあ、そんなこんなで何とかしてカレーを食べ切り、チェックアウトした。その後は有名な観光地をいくつか巡り、大雨の中、ずぶ濡れになりながら釣りをした。俺ともう一人の友人は一匹だけで、ミステリアスは七匹くらい釣っていた。温泉に行って、SAでラーメンを食べて解散。次の旅行先はディズニーシーに決まった。なぜ?まあ、どうせならカチューシャ付けるけど。終わりです。

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