瞬間移動のおじさん


冷食の唐揚げを具にしたおにぎりが一番美味しいんですけど泣 と思っていた時期、これは私の人生においてもっとも愚かな時期ですが、よく友人とゴムボールで野球をやっていました。


かなり狭い公園でやっていたので、ホームランの当たりだとほぼ確実に奥の民家にゴムボールが入ってしまいました。が、先に述べたように、当時の私はもっとも愚かだったので「そんなところに民家を建てるなよ」と思っていました


しかも、ゴムボールはかなり飛ぶので、ほぼ毎打席ホームランになります。その度に我々は、なぜかちょっとキレながら民家へと入り、ゴムボールを回収する必要があった。


皆さんはホームラン→不法侵入→ホームラン→不法侵入の野球をしたことがありますか。成人する前にやっておくことをお勧めします。成人前と成人後での流れの違いを見ておきます。


【成人前】ホームラン→不法侵入→ホームラン→不法侵入

【成人後】ホームラン→不法侵入→逮捕(不法侵入罪)→ホームラン→不法侵入→逮捕(不法侵入罪)




さて、ある日、私はいつものように友人とゴムボール野球をしていました。しばらく楽しみ、おおよそ7、8回目の不法侵入を終えた頃でしょうか。公園の前を、左から右に、自転車に乗った中年男性が横切りました。


そのときは、特に何も思いませんでした。ただ、公園の前をおじさんが横切っただけです。なんてことはありません。我々は野球を続けました。


しかし、そのわずか数分後、再びそのおじさんが公園の前を横切りました。しかも、左から右に。


我々は驚きました。左から右へと横切った彼が、再び左から右へと横切った。一体なぜ?


当時の我々は、彼のことを「瞬間移動のおじさん」と名付けました。瞬間移動のおじさんがいたんだよ!本当だよ!信じてくれ!翌日の学校で、友人たちにそう言いました。


しかし今考えると、おそらくそのおじさんは忘れ物を思い出し、途中で踵を返したのでしょう。そして、野球に熱中していた我々は、彼が「右から左に」横切るのを見逃した。だから、そのおじさんが左から右に連続して二度横切ったように思えた。


さて、私がTWICEのことをあえてトワイスと呼ぶのにハマっている時期、つまり今現在のことですが、私は大学受験のために日々勉強に励んでいます。


ついこの間、出願を済ませるために自転車で郵便局へ向かう途中、その公園を横切りました。しかし、少し過ぎたあたりで、私は出願書類の一部を家に置き忘れてきたことを思い出しました。


私はすぐさまUターンし、書類を取りに戻りました。自分のあまりの不注意さに「俺無能すぎる」「これが受験当日だったらどうすんだよ馬鹿」などと思い、苛立ちながらも、書類を取り、再び公園を横切りました。その時、なるほどと合点がいったわけです。


もしかしたら、瞬間移動のおじさんも、出願するために自転車を漕いでいたのかもしれない。そして、道中で書類を忘れたことに気付いたのかもしれない。おじさんは自宅へと戻り、自分のあまりの不注意さに「俺無能すぎる」「これが受験当日だったらどうすんだよ馬鹿」と苛立ちながらも書類を取り、再び公園を横切ったのかもしれない。


そう考えると、彼に「瞬間移動」という神的な要素を見出したことが、申し訳なく思えてくる。なぜなら、彼は受験のために日々の努力を欠かさず、己の不注意さに憤ることができる、誰よりも人間らしい人間だったからです。


彼からしたら、左から右へ二度横切っただけかもしれない。でも、私はあなたのことを、いつまでも覚えています。瞬間移動のおじさん、改め、おじさん。私はおじさんのこと、いつまでも忘れませんからね。


(おわり)

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