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ありがとうございました

一期一会。

茶道から来てたんだ、この言葉。

「あなたとこうして出会っているこの時間は、二度と巡っては来ないたった一度きりのものです。だから、この一瞬を大切に思い、今出来る最高のおもてなしをしましょう」
「これからも何度でも会うことはあるだろうが、もしかしたら二度とは会えないかもしれないという覚悟で人には接しなさい」


こんな深い意味合いがあったのね。

素敵。

出会いって大事☆
みたいなポップな感じで思ってた。


こちらから10日あまり。

相変わらずランチ難民として
安住の地を探し求めていた。

どこだ。どこなんだ。


このままでは中華だのマックだの
ダイエットと対極にあるものを取り込み

あたしの細胞の組織は
海外製になっていくのではないのか。

…パスタもイタリアだけどな☆


今日なんとなく

「あ、喫茶店 再開してるかも知れない」

そんな気がした。

根拠は何も無い。


吸い込まれるように歩く道。

見慣れた看板。


あ……!


電気が点いている。


あぁ……

帰ってきたんだ……!

夢ではなかった。


席に着くと、程なくして
店員さんかオーダーを取りに来た。

お話が好きなお姉さんなので
いつもちょっとした会話がある。

今日寒いですね~
雨の中わざわざ有難うございます~

そんな何気ないもの。

今日はそれがない。

違和感。


何年も通ってる中で、
ここまで長い休業も珍しい。

お姉さんの普段の感じなら

お休みしちゃってすみません~
そんな事を言いそうに思ったが

それもない。

違和感。


モヤモヤ。

これもしや……夢オチ……?


だめだ。確認しよう。


「いつから再開してました…?」

唐突に職質のような言い回しになるコミュ障。


すると、お姉さんから告げられた事実は、

お母さんが亡くなった事だった。

できるなら外れて欲しかった予感。


こういう時、
気の利いた言葉を見つけるのが下手くそだ。

そうだったんですね……

妙な間のあと、
ご愁傷様でしたと礼をするしかできなかった。


パスタが来るまで珈琲を飲みながら
お母さんの事を考えていた。


苦手な食べ物があれば
別のものに替えてくれる優しさ。

あたしの休憩が短くなっちゃった時から

あの子急ぐから先にオーダー聞いてあげな!
と言ってくれるお気づかい。

珈琲が乗ったトレイをテーブルに置いて
はい、自分で取ってー
と言ってしまう気安さ。

会計を終えると
急げ急げっ 仕事頑張って!
と笑いながらかけてくれる声。

全て大事な記憶だ。

ほんとにお客さんみんなのお母さんだった。


ランチタイム。

思い出に浸る余裕もなく、時間は過ぎる。

お会計でお姉さんが

母もギリギリまで働けてましたし
皆さんがそうやって気にして下さるのが
喜んでると思います
良かったらこれからも宜しくお願いします、と。


もちろんです。

それだけ伝えた。

ほんと良いお店。

お母さん、ありがとうございました。